
社会起業家とは、起業家の中でもビジネスを通して社会課題の解決に取り組む人のことを指します。そんな社会起業家が取り組むのは、貧困や差別、環境問題など、多岐にわたる社会問題。彼らは人生で目の当たりにしてきた社会問題を解決するために、NPOやボランティアという選択肢もある中で、起業という選択をとります。
今回は、社会起業家がなぜ社会問題の解決に「起業」を選択するのか、また世の中にどんな社会起業家がいるのかを解説&紹介します。
目次
※本記事は2017年1月6日に『ボーダレス・ジャパン』のブログにて公開された記事を、再度内部のデータなどを調査、再編集し、2022年10月6日に更新したものです。
1. 社会起業家の定義
はじめに、社会起業家の定義について見ていきましょう。
例えばスタンフォード大学の起業家精神研究センターは、社会問題解決のために、伝統的なビジネススキルを用いて革新的なアプローチを考え出し、個人的よりむしろ社会的な価値を創造する人を社会起業家だと定義しています。
またアメリカ ミネソタ州の社会起業家研究所では社会起業家を、投資に対する経済的なリターンと社会的なリターンを同時に追い求め、社会的な目的を達成するために自ら事業で稼ぎ出す戦略をとる人だと定義。
日本国内では谷本寛治氏が、社会的な問題の解決にビジネスの力を活用して新しい仕組みを提示したり、新しいサービスを提供したりすることを通して社会的イノベーションを起こす人を社会起業家だと定義しています。
このように社会起業家の定義については、さまざまな人や組織がいろんな表現を用いて説明しているのです。しかしすべてに共通するのは、「社会問題をビジネスの力で解決する人」だということ。つまり社会起業家は、ビジネスの力で革新的で継続性を持った新たな社会的価値を生み出す人だと言えるでしょう。
2. 社会起業家と起業家の違い
ここまで社会起業家の定義について見てきました。その内容を見て「社会貢献をしている企業なら、世の中にたくさんあるのでは?」「あえて社会起業家と名乗る理由は?」と疑問に感じた人もいるのではないでしょうか。ここでは、社会起業家と起業家の違いについて解説します。
そもそも「社会起業家」というワードにも含まれている起業家とは、何もない状態から事業を立ち上げる人のこと。この中に、フランチャイズや事業継承などで事業を立ち上げる人は含まれていません。世の中のニーズを見つけ、そのニーズに応えるサービスなどを生み出す力に長けている人たちで、日本でも多くの起業家がイノベーションを巻き起こしてきました。
社会起業家もニーズに応えるサービスを生み出し、イノベーションを巻き起こす点では共通しています。ただし応えるべきニーズ、そして事業を興す目的が、すぐにでもサービスを生み出し広げなければならない「社会課題の解決」にあるのです。そんな社会起業家が立ち上げる事業が「ソーシャルビジネス」なのです。
※出典:MAYSOLブログより
社会問題解決を目的としたソーシャルビジネスについては、こちらの記事で詳しく解説していますが、ソーシャルビジネスとは社会問題解決を目的とした事業のこと。事業を立ち上げ自力で収益を上げ続けることで、貧困、差別、少子高齢化など国内外に数多く存在する社会問題解決に取り組みます。寄付などの外部資金にほとんど依存しないため、スピーディーかつ継続的な社会問題の解決が期待できるのです。
起業家が事業を立ち上げ進めた結果、社会の役に立つことは往々にあるでしょう。ただ社会起業家の場合は、彼らがこれまでの人生で目の当たりにしてきた社会問題を解決するために事業を立ち上げます。
つまり社会起業家と起業家には社会問題をなくし、よりよい社会をつくっていくための事業を立ち上げるという「事業の目的」の部分で違いがあるのです。
3.世界や日本の社会起業家たち
近年、社会問題を解決する手段にソーシャルビジネスを選択する社会起業家が増えてきています。ソーシャルビジネスについて解説した記事でもその規模感について触れていますが、イギリスでは2012年以降、約5万8千だった社会問題解決に取り組む企業の数が約74万まで増加し、日本でも2008年時点で約8,000社だった企業数が約20万5千社まで増えているというデータが出ているほど。
では実際にどのような社会起業家が活躍を広げてきたのか、ご紹介します。
3.1世界の社会起業家
■ムハマド・ユヌス(バングラデシュ/グラミン銀行)
バングラデシュの実業家で、グラミン銀行総裁である、ムハマド・ユヌス。彼は大学で教鞭をとっていた頃に、村人が金貸し業者から借金をすることで貧困サイクルから抜け出せなくなっている状況に気づき、彼らの自立を支援するため小口金融業を始めた。これがグラミン銀行設立のきっかけとなる。グラミン銀行は、1日1ドル〜2ドルで暮らしている最貧困層の人たちに対し、自立を目的として数ドル程度の少額の融資を行うという小口金融。このモデルは「マイクロファイナンス」、「マイクロクレジット」と呼ばれ、現在では世界中に広まっている。2006年に、ノーベル平和賞を受賞。
■イヴォン・シュイナード(アメリカ合衆国/パタゴニア)
アウトドアの衣料品ブランドパタゴニアの創始者である、イヴォン・シュイナード。クライミングを始めたことをきっかけに、道具を自前で製作し販売するようになり、多くのクライマーから支持されるように。しかしその道具が岩肌を傷ついていることを知った彼は、環境問題に取り組むようになった。環境責任を果たすことは、今でもパタゴニアの根幹をなす理念として据えられており、現在もすべてのコットン商品をオーガニックコットンで製作したり、売上の一部を環境保全団体に寄付したりするなどして、積極的に環境保全に取り組んでいる。
■アニータ・ロディック(イギリス/ザ・ボディショップ)
ザ・ボディショップの創業者である、アニータ・ロディック。彼女は世界中を旅して出会ったさまざまな自然の原料を化粧品にして、量り売りすることを思いつく。そしてその製造過程でよく行われる動物実験は一切行わず、パッケージにおいても再生素材を利用するなど、環境・動物に配慮したサプライチェーンを徹底し、従来の化粧品製造のあり方に一石を投じた。また彼女は、売り上げの一部を環境保護団体や人権擁護団体に寄付したり、啓発イベントを開催したりして、環境や動物に配慮する活動に積極的だった。
3.2 日本の社会起業家
■山口絵里子(株式会社マザーハウス)
株式会社マザーハウスの創業社長である、山口絵里子。彼女は大学生の頃のインターンで、ワシントンの国際機関で途上国援助の矛盾を感じ、アジア最貧国であるバングラデシュに渡り、現地の大学院に進学。「かわいそうだから買ってあげる商品じゃなく、商品として競争力があるものを途上国から世界に発信する」という理念のもと、マザーハウスを設立。現在はバングラデシュにとどまらず、他の途上国でも、現地の素材を活かした商品を製造し、販売を行っている。
■出雲充(株式会社ユーグレナ)
ミドリムシを用いた食品販売や栄養改善プログラム、バイオ燃料プラント建設などに取り組む株式会社ユーグレナの代表取締役社長である、出雲充。大学時代にバングラデシュを訪れた際、栄養失調で苦しむ子どもたちを目の当たりにしたことで、栄養豊富な食材の存在を求めて生物学を学び始めた。そして栄養豊富なミドリムシを見つけの研究に関わるように。ミドリムシの食品化や大規模培養プラント建設による二酸化炭素固定、バイオ燃料等の製造を通して問題解決を図るため、会社を立ち上げる。
■小野邦彦(株式会社坂ノ途中)
小野邦彦は、農薬や化学肥料不使用で栽培された農産物の販売などの事業を展開する株式会社坂ノ途中の代表取締役。学生時代の専攻だった「文化人類学」の奥深さに気づき勉強をしていく中で、自分が本当にしたいことは人と自然環境との関係性を問い直すことなのだと思い至り、農業系で起業することを決める。2009年に株式会社坂ノ途中を設立。日本国内の農家とつながる事業だけでなく、ウガンダや東南アジアの国々で、環境保全と現地の人々の所得確保の両立を目指すプロジェクトにも取り組む。
■田口一成(株式会社ボーダレス・ジャパン)
株式会社ボーダレス・ジャパン創業社長である、田口一成。ソーシャルインパクトを最大化させる社会貢献の方法を模索する中で、ソーシャルビジネスと出会う。「1つでも多くの社会問題を解決するためには、1人でも多くの社会起業家が必要」という考えのもと、「社会起業家のためのプラットフォームカンパニー」を立ち上げた。貧困や児童労働問題などを解決するための事業を国内外で展開し、今もなおその数は増え続けている。2018年からは、社会起業家育成学校「ボーダレスアカデミー」を開校。社会起業家を育てることにも力を注いでいる。
4. 社会起業家に求められること
社会起業家は前述のとおり、社会問題を解決するために事業を立ち上げます。つまり社会問題を解決しなければその事業が成功したとは言えません。
そのため、第一に必要とされるのは、「志」。
※出典:ボーダレスリンクメンバーブログより
例えば、海外の貧困農家に安定した収入をもたらすビジネスの仕組みをつくるとします。貧困農家の人々は高度な農業技術を持っておらず、彼らが所有する土地は痩せていて、水も十分にありません。このような状況に対してビジネスでの解決を図るわけですが、土地の育て方や上下水設備などの現地ならではの独自ルールに悩まされることが想定されます。またそもそも、そこでそのビジネスを展開する理由を理解してもらうのに時間がかかることも考えられるでしょう。
このようにソーシャルビジネスは、事業を立ち上げる前だけでなく立ち上げたその先にも問題が山積されているため、「何がなんでも、目の前にある社会問題を解決する」という強い想いが重要です。
5. 1人でも多くの社会起業家の誕生が、より多くの社会問題を解決する
数えきれないほどたくさんある、社会問題。しかもそのどれもが多様かつ複雑になっているため、解決に時間がかかっています。そんな社会問題を自分の力でなんとか解決したいと、日本や世界で多くの社会起業家が動き出しているのです。この事実は、多くの人がありとあらゆる社会問題に関心を持ち、よりよい社会をつくりだしたいと思っていることの証だと思います。
▲ボーダレスアカデミー第2期生。新たな社会起業家がここから羽ばたいていく。
もしもあなたの心の中に、解決したい社会問題があるのなら、社会起業家として動き出すのも1つの手ではないでしょうか。もちろん社会問題を事業を成り立たせた上で解決に導くのは、とても困難な道のりになるでしょう。しかし「自分がこの社会問題を解決して、よりよい社会をつくる」という熱い志があれば、あなたはすでに社会起業家としてのスタートラインに立っています。事業を進める中で、あなたの志に共感する人も出てくるでしょう。
社会起業家が実行するソーシャルビジネスは、迅速な社会問題解決の突破口となりえる手法です。1人でも多くの社会起業家が活躍するようになれば、世界はより良くなっていくと思います。
【参考】
・社会起業家の研究―変革をもたらす行動モデル―(2002.12) 高知工科大学大学院 工学研究科基盤工学専攻 起業家コース 山本 千香子
・中京経営紀要 第7号 「社会起業家と従来型起業家」(2007.2) 速水 智子/中京大学大学院経営学研究科
株式会社ボーダレス・ジャパンはソーシャルビジネス専門の社会起業家養成所「ボーダレスアカデミー」を開校。社会問題をビジネスのチカラで解決する社会起業家をつくる3カ月間の本格的起業プログラムです。
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執筆 / クリス
福岡在住のフリーライター。ボーダレス・ジャパンを4ヶ月で退職し、いまはパートナーとしてインタビューや執筆を手掛ける。愛猫“雛”をおなかに乗せソファに寝っ転がってアニメを見たりマンガを読んだりする時間が至福。仕事よりもこちらに時間を割きすぎる傾向があるが、やるべきことはやる。企業の採用コンテンツやブライダル、エンタメなどのメディアでも執筆。