ソーシャルプロダクト特集、今回のキーワードは、「医療」×「スマホ」です。

医療において、特に途上国では感染症などの「疾病」が問題になります。疾病は、①予防、②診断、③治療のステップに分けられます。

予防・診断・治療

医療システムの整っている日本や欧米各国では、それぞれのプロセスが確立されています。たとえばインフルエンザでは、①はワクチンの接種やうがい・手洗いの奨励、②は発病した時に病院に行く、③は薬をもらう、時に入院して集中的にケアを受ける、ということです。

しかし途上国では、大半の国で医療システムが確立されていません。予防の習慣づけもされていないので、帰ってきても手を洗わないなど不衛生な環境・習慣を続けることで発病し、経済的・地理的理由から医者にかかることができず、きちんとした治療を受けられないため、最悪の場合亡くなってしまいます。

医師や病院の数も少ないために病院にかかることすらできていないのが実情です。そうして、日本や欧米では治って当然の病気によってたくさんの人が亡くなっています。

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診断は難しい

医療に関わるソーシャルビジネスは、これまでにもいくつかご紹介してきました。

インドのAravind Eye Hospitalは、眼科にまつわる治療を第一に解決しようとする取り組みです。ケニアのPeePoo Bagは衛生状態を改善することで、さまざまな感染症の予防につながります。

また、インドで格安・安全な出産を届けるLifespring Hospitalや、ケニアのスラムで、健康診断や予防接種に特化したAccess Afyaなど、予防や治療に関してはたくさんの取り組みが行われています。

一方で、診断に関わる取り組みはないのでしょうか?診断は非常に難しいものです。しかし、裏をとれば診断を簡単にすることで健康状態の改善に貢献できる可能性があるといえます。今回は、この「診断」に関する革新的なアイデアをご紹介します。

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スマートフォンを利用する

途上国で失明する人のうち80%が回避可能であるといわれています。これは、診断とそれに続く治療が欠如しているためです。家の近くに医療機関や医師がいない、また検眼器など適切な医療道具がない、などの事情があります。

一方で、ガーナのEsokoでも取り上げたように、近年携帯電話の普及が急速に広がっており、アフリカのかなり辺鄙な地方でも利用可能です。またスマートフォンは、写真が撮れ、処理能力もパソコンに引けを取らないものが多いたくさん出回っています。

スマートフォンをうまく利用することで、診断に利用できるのではないか。そのようなアイデアが生まれてきます。

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途上国でとったデータを先進国に送る

Peek Vision” は、イギリスで開発された目の検査を可能にするシステムです。これを利用するだけで、検眼器などの非常にコストの高い器具や、視力検査のキットなどの必要はなくなります。

スマートフォンにアプリを入れ、専用のハードウエアをスマートフォンに装着します。そしてカメラを通じて目を撮影する“だけ”です。これによって網膜検査が可能になります。また網膜検査以外にも、視力や視野、色覚なども測定ができるようです。

これによって、学校などでも簡単に視力検査を行うことができるようになり、視力に問題がある子どもたちの早期発見にも貢献できると期待されています。

さらに、撮影したデータは保存でき、GPS機能も付いているので、患者がどこにいるかも記録されています。これによって、途上国のヘルスワーカーが集めたデータを、先進国の医師が診断し、処置や指示を出すことも可能になります。

現在は、EUやアメリカでの使用許可を待っている状態ですが、アフリカ諸国などでの活用が期待されています。

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課題

PeekVisionは、診断を簡単にする画期的な技術ではありますが、診断後の治療をどこでするのか、などの課題が残っています。

しかし、村に病院や診療所を一つ作り、医師や看護師を常駐させ、器材を購入して、それを維持していくというコストと、Peek Visionによってヘルスワーカーを常駐または巡回させるコストでは、圧倒的に後者が低くすみます。さらに農村部にいる貧困層が片道数時間かけて病院に行くというコストや、病気によって失うコストは、途上国の発展を妨げる原因の一つでもあります。

Aravind Eye Care Hospitalなどと提携できれ可能性は広がってきますし、そのほかにも活用法はいろいろとありそうです。

日本での活用

スマートフォンを活用したこのようなアイデアは、過疎地域での診断や、一人暮らしの高齢者の遠隔医療など、日本でも十分に活用できると考えられます。途上国とは診断内容がかなり異なってしまうことや、高齢者にいかにスマートフォンを使ってもらうかなどが課題になりますが、特に過疎地域の医師不足が叫ばれる中では、解決策になるかもしれません。