
サハラ砂漠以南のアフリカ、サブサハラアフリカ地域は近年、徐々に投資も増加しており、南アフリカ、ナイジェリアやケニアなどは高い経済成長を誇ります。
しかし、そのような国でもその恩恵は都市部に限られており、農村部まではあまり浸透していません。農村部では農業従事者の割合は高く、主な収入源も農業から得られています。
情報と生産性
“Connectivity is productivity” -「つながることは生産性だ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?(Grameenphone創業者のIqbal Quadir(イクバル・カディーア)のものです。)文字通り、人々は何かにつながることで収入を増やし、また生産性を上げることができるということですね。
農家の場合、「つながる」対象は市場です。たとえば、メイズ(アフリカなどで一般的な穀物)の価格はどのように変動しているか。今後の天気の見通しはどうなっているか。このような情報を得ることで、農家は「今どんな作物を作るべきか」、「次はどんな作物を植えるべきか」などを判断することが可能になります。
その結果として、生産性の向上、すなわち収入の向上も期待できるようになります。さらに、バイヤーから不当に高い輸送費などを請求されることも少なくなります。
逆にいうと、途上国の農村部の現状は、ほとんどが市場へのアクセスから遮断されている状態といえます。結果、市場価格や天候に左右されるリスクは大きくなり、生産性は上がらず、収入は増えないままです。
農村部の携帯電話
このような意味で、2000年代初めのGrameenphoneの成功は情報に革命をもたらしたといえます。また、NokiaやSamsungなどは廉価で、通話とメールだけ、のような必要最小限の機能を持たせた格安の携帯電話を販売して市場のシェア拡大を成功させました。
このようなこともあり、現在ではアフリカのかなり奥地の農村の、貧しい人でも携帯電話は大体の人が持っています。
農家を市場に参加させる
ガーナのEsokoは、携帯電話のテキストメッセージを使って農村の情報格差の解消に取り組んでいます。
農家がEsoko開発したアプリに登録すると、現在の市場価格や、天気予報などの情報や、ニュースを得ることができるようになります。また、農業に関するお役立ち情報の配信や、バイヤーの紹介や仲介などもおこなっています。
登録しているバイヤーはプロフィールが公開され、農家は近隣のバイヤーを調べ、かつ詳細を知ることが可能になります。
農家は、月額100ケニアシリングを支払い(ケニアの場合)、平均して週2通の天気予報と、2通の農業お役立ち情報、1通の市場価格に関するメッセージの週5通のメッセージを受け取るようです。
農家と組織をつなげる
Esokoは農家と組織をつなげる役割も果たしています。主にNGOやアグリビジネスなどが利用しています。
広告は打つことができます。アンケートや人気投票を行うなど、さらに市場調査を行うことも可能です。また、援助物資を配るときや、バイヤーが収穫物を回収に回るときに、Esokoのアプリを使って地域住民に通知することで、効率的な配布が可能になります。リアルタイムで配布した数を報告することもできます。
Esokoの収入源としては、このようなサービスの利用料のほうが大きいと思われます。
アフリカNo.1の農業サービス
Esokoは、ケニアだけで20人以上の調査員を雇い、30以上の作物に関して市場価格の調査をしており、ガーナでは、迅速に農家の疑問などにこたえるため、コールセンターを設置しているなど、充実したサポート体制が構築されています。
こういったこともあり、現在ではガーナとケニアにオフィスを持ち、アフリカ国内の11か国で活動をしています。
農家の人々は、市場の情報などを得ることで市場に参加できるようになり、効率的な作物の栽培が可能になり、バイヤーによる中間搾取なども少なくなります。いわゆるエンパワーメントが可能になるということですね。
現在までに、35万人の登録があり、農家の収入は10~30%改善したとされています。
この数字だけを見ると、インパクトとしては小さいかもしれません。しかし情報は、受容器さえあれば、地理的な制約などを受けにくいものです。今回の例のように市場から遠い農村の住民などの、市場から完全に遮断されているところから、少しでも市場に参加できるようになることは、貧困削減の第一歩としては非常に大切です。
Esokoは農家と市場だけでなく、さらに農家とNGOや企業をうまく結び付け、収益が挙げられるモデルを築いたという点で、非常に参考になりますね。