
JOGGOでインターンをしている久米彩花さんが先日、JOGGOやビジネスレザーファクトリー、BLJ bangladeshの工場があるバングラデシュに訪問してきました。
もともと、ファッション業界を中心にエシカルの概念やアンフェアなトレードによって起きる途上国の問題について同年代の人達に伝え、貧困格差をなくすことを目指して活動していた彼女。そんな彼女がJOGGOでのインターンを通し、バングラデシュの生活状況、労働環境により関心を持ち、現地にいくことを決めたそう。
今回のバングラデシュ訪問で久米さんが感じたこととは?そして今後起こすべきアクションとは?
■現地の本音が不足している、先進国のエシカル思想
環境への配慮がされていたり、労働環境をよりよくしたり、貧困地域の支援になったりするエシカルな消費。久米さんはその消費の中で、「ファッション」に注目しました。きっかけは1本の映画。
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彼女を動かすきっかけとなった「The true cost」は、私たちが普段身に着けている、安い服の裏側に迫る作品です。この作品でも触れられている、2013年4月にバングラデシュのダッカで起こった「ラナプラザビル倒壊事故」をきっかけに、途上国の劣悪な労働環境や安価な製品の裏側が明るみとなり、世界に「エシカル」な消費の重要性が広がっていきました。
※ラナプラザビル倒壊事故の参考記事※
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・バングラデシュのビル倒壊、死者増加は残骸処理の重機原因か
・ビル崩壊の原因は「工場の発電機」、バングラデシュ当局
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久米さんは、この事故から5年という節目にバングラデシュを訪問することで、また毎年4月24日から1
ラナプラザビル倒壊事故から5年たったバングラデシュは、久米さんの目にどのように映ったのでしょうか。
久米さんは「先進国のエシカル思想は、今のバングラデシュの労働環境の根本的改善に繋がっていくのだろうか」と感じたそう。
先進国では、今のファッション業界は「アンサスティナブル」だと言われています。つまり、安価での大量生産と大量消費の仕組みは、持続不可能だろうということ。だからこそ「エシカルファッション」が広まり、ファストファッションの不買行動が広まっているのです。
でも現地の工場で働く人の感覚は異なるものでした。
彼女はボーダレスグループではない縫製工場にも訪れ、プロダクションマネージャーの方とディスカッションをしました。その時きっぱりと「今のファッション業界がアンサスティナブル(unsustainable)だとは思わない」と言われたそう。物の大量生産、大量消費をやめてしまうと、今まで先進国の需要に合わせた安く早くたくさん作れるように仕組み化されてきた工場は必要とされなくなります。つまり、ブランドからのオーダーが減るとなれば、今雇っている労働者の解雇に踏み切る必要が出てくるのです。
さらに労働環境をよくするために、バングラデシュの最低賃金をあげるという手段をとると、これまで安い労働力で仕事が獲得できていたのに、綿花栽培が盛んなインドや中国の縫製工場にオーダーを取られ、競争力を失ってしまうリスクがあるというのです。
久米さんは、エシカル消費の考え方自体には賛成しているけれども、商品価格や最低賃金を上げるという手段が広まった先に何が起きるのかまでをまだ考えられていないのが先進国のエシカル思想なのではと感じたそう。もっとエシカルが広まってほしいという思いを抱きつつも、今の先進国のエシカルには「現地の本音」が足りていないのが実情のようです。
■ブランド・作り手・消費者の想いを三位一体に
賃金や商品価格が上がった先のことまでは、まだ考えが不足している印象をうけた先進国のエシカル思想。だからといって、安い賃金で大量生産を続けていくことが現地で働く人たちの貧困を根本から解決することには繋がらないのも事実です。
このジレンマを解消するにはどうしたらいいのか、久米さんなりの答えを聞いてみたところ、やはり彼女自身もこのジレンマに悩んでいました。
でも、「安い労働力」が今のバングラデシュ工場の強みであるのなら、ブランドと作り手、そして消費者を巻き込んだ「その国、その工場ならではのものづくり」を強みに変えていければいいのではと、彼女なりの考えを聞かせてくれました。
まだまだ「その国、その工場ならではのものづくり」の必要性に、現場で働く人の意識が追い付いておらず、さらにブランドのある先進国のマーケットニーズにも疎いのがバングラデシュ工場の現状です。だからその意識をブランドが引きあげ、一緒にものづくりをすすめ、さらには消費者の意識も改革に導くことで、大量生産・大量消費に依存しないファッション業界がつくられるのではないかというのが、今の久米さんの仮説です。
さらに今は、ブランドと作り手の間に上下関係があります。実際に久米さんがとある工場に訪問した際、これでもかというくらいの手厚い歓迎を受けたことで、ブランド(バイヤー)と工場の間の上下関係を垣間見たそうです。コンプライアンスを守っていない工場は欧米との契約が取れないとはいえ、ここの工場はすごいんだ、コンプライアンスをしっかり守っているというアピールばかり。工場が抱えている労働環境の課題共有がなされていないのではと感じたそうです。
このような上下関係がある以上、たとえエシカル消費が広がって価格や賃金が上がったとしても、買い取る側の先進国の都合で生活が左右される状況には変わりはありません。問題を引き起こしている原因に対して、現地の声を聞きながら本質的な解決方法を、ブランド・作り手・消費者が一緒に模索していかなければ、エシカル消費が広まったとしても犠牲を生み続ける状況は変わらないのではと久米さんは問題視しています。
■ボーダレスグループの工場は、労働環境改善にどう取り組んでいるのか
久米さんは今回のバングラデシュ訪問の際、JOGGOとビジネスレザーファクトリーの製品を作っているBLJ Bangladeshの工場も訪れました。
バングラデシュには経済的理由や治安の問題から、片親で家庭を支えている世帯が数多く存在します。だから「働く」という選択肢と常に隣り合わせで、日々を生き抜くことで精いっぱいなのです。ボーダレスグループのバングラデシュ工場の人財採用基準は「この工場で働く必要があるかどうか」なので、本当に仕事と収入を必要としている人に「雇用」を提供できるのです。このようにして、貧困問題の解決を目指しています。
久米さんがボーダレスグループのバングラデシュ工場を訪れて感じたのは、ボーダレスグループの「ファミリー」の文化が行き届いていること、そしてポジションをこえた距離感の近さ。思ったことを気軽に話し合い、相談できる環境があるということ。工場で働く方々にインタビューして、マネージャーとの距離の近さと思いの共有についての満足度の高さがうかがえたそうです。また、他の工場から移動してきたり、戻ってきたりする人もいるほど、労働環境に対する現地の人の評価は高いよう。
そんなバングラデシュで生きる方々の生活・労働環境をさらによくするため、バングラデシュの貧困問題解決をソーシャルコンセプトに掲げるビジネスレザーファクトリーは、第2創業期を迎えた今、工場の雇用を1000人に増やすことを目指しています。
店舗を増やし働く人に向けてオシャレで使いやすい革製品を販売したり新たな商品の開発を進めたりなど、より多くの方にビジネスレザーファクトリーの革製品を手に取ってもらうアクションを起こし、現地工場の雇用拡大につなげていこうとしています。とはいえ、まだまだ道半ば。でも、バングラデシュとのコミュニケーションを密に取り、事業をますます成長させる新メンバーを迎え、次のステップに進み始めています。
■「加担している」という意識を持つことの大切さ
今回、久米さんはバングラデシュでのインタビューの中で、自分が普段着ているブランドの名前があがり、貧困問題解決のために活動していたにも関わらず「無意識に貧困問題に加担していた」ことにショックを受けたそう。このように貧困問題への関心がある人でも、知らず知らずの間にバングラデシュの安い労働力で大量に作られた服を着ている現状があります。それくらい、バングラデシュの労働環境・貧困問題は私たちの身近に存在しているのです。
久米さんは日本に帰国した後、この問題をどのように解決すればいいのか考えています。まだ明確な答えは出ていませんが、エシカルファッションを切り口に、犠牲を生まないものづくりの構造の模索と、買った人にとって愛着を持て長く大事に使いたい1着にするためにはどう工夫したらいいかのアイディアを考えているそう。
また彼女は今回のバングラデシュ訪問から、ファッション業界に限らず、誰かの犠牲の上に成り立っているのが今の社会だとしても、たとえそれを全て手放すことはできないとしても、その事実を知り「加担している」という意識を持つことは重要だと語ってくれました。
あなたの着ているその服が、もしかしたらバングラデシュの労働環境や貧困問題の解決を遅らせているかもしれない。でも、ひとりの力では雇用を創出したり解決への手立ては生み出せない。
だから、まずはこう意識することからはじめ、タグで生産地を確認する、情報を発信するなどの行動にうつしていきませんか?
◆バングラデシュの労働環境に関する記事を読んでみる?◆
2018.4.26 // バングラデシュ工場が、環境マネジメントシステム(EMS)認証 (ISO 14001)を受けました
2017.4.10 // バングラデシュの革工場がJETRO発行の雑誌「日本企業のベストプラクティス」に掲載されました。
2015.06.23 // 急成長を遂げている「バングラデシュ自社工場」の今!!