
はじめまして、(株)ボーダレスリンクのトモローこと犬井です。
ミャンマーで、農業に必要な資金、資材、情報、市場を小規模農家に直接届ける農業プラットフォーム事業を始めて、1年半が過ぎました。
今日は、なぜ今ミャンマーの農村部の問題に取り組むのか、農家が抱える問題と、それを解決する僕たちのソーシャルビジネスを徹底公開したいと思います!
なぜ今ミャンマーの農村部なのか
2011年、大学生の頃、僕は初めてミャンマーという国に出会いました。
ミャンマーの軍事政権から逃れ日本に来たあるミャンマー人の友人と出会ったのがきっかけでした。
その後、彼と共に初めてミャンマーとタイの国境地帯にある難民キャンプ、そして難民キャンプに住む人々の故郷ミャンマーカレン州を訪れることに。
そこで世界で一番長い紛争とも言われる国内紛争のせいで、傷ついた人々と出会い衝撃を受けました。
難民キャンプという場所は、仕事がない、外に出ることもできないなど、あらゆる機会が奪われた場所です。
自分が与えられた機会と、彼らの限られた機会の差にショックを受け、それから六年間、同じ場所に通い続け、共に毎日を過ごし、いつしか彼らは僕の友人に、家族になりました。
気づけば、彼らのために仕事をしたい、彼らが幸せに暮らせるように仕事を作りたい、そう思うようになり、大学卒業とともに、ミャンマーで起業することを志し、ボーダレスジャパンに入社します。
入社後、たくさんの志ある人や事業に出会い、一つの場所、一つの民族だけでなく、ミャンマーという国全体がよくなる事が必要だと思うようになり、ミャンマーに多種多様なソーシャルビジネスを作りたい。
ミャンマーで1000個のソーシャルビジネスを作ることを志すようになりました。
その一歩目として、一年半前に、ミャンマーの人口の大半を占める農家のための事業を始めました。
急速な経済発展と開発が進む都市部とは違い、農村部では子供の不就学、児童労働、望まない出稼ぎ。
毎日のように目の前で貧困のサイクルに陥っている人々がいます。
これまで他の国が経験したような経済格差を生まない、「良い発展」の形とはなんかの。
「誰も取り残さない」社会をどのように作っていくか。それが、僕が常に自分に問い続けていることです。
将来はミャンマー全国でたくさんの事業をしたいと思いながら、今は一番インパクトが大きいと考える農村部にターゲットを絞った事業をしています。
都市部に出稼ぎに出てくる人の多くは、農村での収入が低く働きに来た人たちだからです。
十分な収入が農業で得られない事で、子供が学校を離れ、出稼ぎにいくことになり、家族が離れ離れになり、今までのような生活は難しくなります。これが本当に「良い発展」なのでしょうか?家族がみんな幸せに暮らせる形はないのか?
そんな社会を実現するためには、まず農村部での農家の収入をあげたい。そんな思いで事業を始めました。
今日は初めてなので、なぜ農家の収入がそこまで低いのか、その原因と、それに対して僕たちが挑むソリューションを紹介していければと思います。
貧困メカニズム:ブローカー漬けの芋づる式貧困サイクル
1)利子60%の高利貸し!?
東南アジアの農業の風景は、まるで時間が止まったように美しく穏やかな気持ちになります。
しかし、素敵な笑みを浮かべる農家のおじちゃんたちのお財布事情はすごく厳しいです。
いざコメを作ろうとすると、機械を借りて、人を雇って、肥料を買って、農薬が必要になります。
でも、毎日の生活費でギリギリな農家たちにとって、作付けの時期に必要な数万円は大金です。
裏作のニンニクを売ったお金で、コメを作ればいいじゃないか!そうも行きません。
コメの作付けが始まる5月は、ニンニクの収穫の時期で、一年で一番ニンニクの売値が低い時期です。
時には、年中ニンニクの値段が低く、コメの作付け費用が捻出できない時もあります。
そんな時、ピンチヒッターが村の高利貸しです。月利5%〜10%で農家にお金を貸し付けます。
返済できなければ、作物を低価格で引き取ったり、土地を回収したりします。
ほとんどの農家は頑張って高利子でも返済します。すると、どれだけ頑張っても高利子のせいで手元に少ししかお金が残りません。
2)安い販売価格
お金を借りて作った作物は、高利貸しがマーケットプライスより少し低い価格で買取することがよくあります。
また、価格だけではなく、販売タイミングの問題もあります。コメやニンニク、トウモロコシは価格変動が激しい作物ですが、高利子であるのと、お金を借りているという立場から、作物を売るタイミングを選べないことが多々あります。
収穫後すぐに売ると販売価格が低いことをわかっていても、返済のために売るしかないのです。
今年のニンニクのケースだと、キロあたりの売値が、1ヶ月で2倍まで上がり、早く売った農家たちは嘆いていました。
3)進まない技術普及
ミャンマーでは、スマホが急速に普及し、道路整備も進んでいますが、農村部への交通アクセスは未だ悪く、農家の情報リテラシーはまだまだ低いです。
アグリテックの会社が開発している農業アプリなども多数ありますが、教育を受けて来ず、都市部へ出ることもほとんどない農家にとって、今の所あまり有効とは言えません。
農業省が普及活動をしていますが、現場に合わない教科書的指導では農家の実践にはつながらず、農業関連企業の普及員の活動は、マーケティング目的がほとんどです。
NGOの農業指導はある地域では一定数効果をあげているものもありますが、予算とプロジェクト期間により、活動範囲がかなり限られています。
こういった状況によって、農家の農業技術や機械化は数十年遅れ、農家の収量は上がりにくく、生産コストは毎年上がってきています。
4)騙された!偽物資材に危険資材!
技術、情報が遅れていることは、技術革新の話だけでなく、資材選びにも影響しています。何も知らずに村で買ったトウモロコシの種が偽物だった。新しい会社だと聞いて買った肥料の中身が土だった。なんてこともあります。
また、ミャンマーで特に多いのが、隣国から密輸入されるノーパッケージの農薬です。
世界で反対運動が行われている除草剤や、内容物がわからない殺虫剤など、使用するだけで健康被害が出るものも多々あります。
こういったものも、ブローカーを通して、情報がない農家の手に渡ります。
高利子の借金、低い売値、進まない技術、情報の更新、そして悪質な資材。
最近では、中国からの作物の密輸入による農産物の価格暴落や、温暖化の影響による天候不順も相まって、農家はさらに苦しい状態に陥っています。
農家を救うLINKモデル!
2017年12月、ミャンマーに降り立ち、3ヶ月のプランニングの中でこのような状況を目の当たりにして思い立ったのが、農家がブローカーに依存することなく、農業に必要なカネ、情報、モノ、そしてマーケットを自由に手に入れることができる農業プラットフォーム事業です。
僕らが通う約40の村は、一番近い町から1時間〜2時間の山間部にあります。
これらの村の人たちが、全てのリソースにアクセスできるよう、村から15分圏内に「アグリセンター」を建設しました。
ここでは、農家に対して、マイクロファイナンス、技術・情報提供、資材販売、作物買取をワンストップで行っています。現在、マイクロファイナンスの利用者数は1000人ほどになり、アグリセンター利用者数も数1000人になりました。
作付け前から、収穫後まで農業を通して密につながることで、他の会社やNGOとは違う、マイクロファイナンスのノーデフォルト率や、技術・情報提供の浸透率、適正資材の販売実績があります。
やっていることは、今までに色んなところがやってきたことの寄せ集めです。ですが、寄せ集めたことで、初めて全てがうまく機能し始めました。
また、これをソーシャルビジネスでやるということに、意味を感じています。
限られた権限、資金、期間のなかで活動するのではなく、マイクロファイナンス、資材販売、作物販売がうまく機能することで、しっかりと利益が生まれ、自立した状態で持続的にかつ広範囲に農家にサービスを届けることができます。
事業開始から1年半で、やっと1地域目の土台が固まったので、ミャンマー中の農家にサービスを届けられるよう、
今は2地域目でのアグリセンター建設、サービス開始に向けて準備を進めています。
心強い現地のメンバーたちと共に、この事業を通して、農家が幸せに暮らせる社会を作っていきたいと思います!