ソーシャルビジネスとは、社会問題の解決を目的としたビジネスのことです。その事業領域は、貧困問題、差別問題、まちづくりなど多岐にわたります。最大の特徴は寄付金などの外部資金に頼らず、自らが事業収益が上げながら継続的に課題解決に取り組むことです。

1. ソーシャルビジネスの定義

ソーシャルビジネスとは、ビジネスを手段として社会問題を解決しようとする取り組みのことです。言い換えると、収益事業を行いながら社会貢献に取り組むこととも言えます。
そして、その主体となる事業体(組織)を「社会的企業」、「ソーシャルベンチャー」、「ソーシャルエンタープライズ」と呼びます。また、ソーシャルビジネスに挑戦する起業家のことを「社会起業家」と呼びます。

2007年に発足された、経済産業省のソーシャルビジネス研究会によると、ソーシャルビジネスの定義は以下の3点を満たすこととされています。

・解決が求められる社会的課題に取り組むこと
・ビジネスとして、継続的に事業活動を進めていくこと
・新しい仕組みを開発・活用し、新しい社会的価値を創出すること

すなわち、社会問題への取り組みを「ビジネス」という手段で行い、それを通して新たな社会的価値を創出すること、それが「ソーシャルビジネス」なのです。

2. ソーシャルビジネスの特徴

ソーシャルビジネスの特徴を、ボランティア、一般企業、NPOと比較しながらみていきます。

2.1 一般のビジネスとの違い

ソーシャルビジネスと一般のビジネスの最大の違いは、その「目的」にあります。
一般的なビジネスは利益を最大化することが目的ですが、ソーシャルビジネスは、「社会問題を解決すること」が目的なのです。

「ソーシャルビジネスというのは名前だけで、一般のビジネスと何も変わらないのでは?」という声がよく聞かれますが、その理由は、一般のビジネスも何らかのかたちで「人や社会の役に立っている」からだと思います。
もちろんその通りなのですが、根本的なところでそのビジネスを始めた「目的」が異なっているのです。

ソーシャルビジネスは、これまで目を向けられなかったところに対して、解決策を見出し取り組んでいきます。そのため、一般のビジネスに比べ緊急性・難易度は必然的に高くなります。
もちろん両者には共通点もあります。例えば、一般のビジネスを行う上で必要とされるマーケティングのスキル、組織運営のためのマネジメントスキルなどは、ソーシャルビジネスにも必要不可欠です。

2.2 ボランティアとの違い

ソーシャルビジネスは、その目的が「社会問題を解決すること」という点でボランティアと共通しています。
では、両者の大きな違いはというと、「自らが収益を上げるための活動」をしているか否かというところにあります。参加者が自発的に活動を行い、活動資金を外部に依存するのがボランティア活動ですが、「社会問題を解決する」ことをゴールとしたとき、そこにはいくつかの難点があります。

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一つは、外部からの資金に頼っているため、持続性を保つことが難しいということです。
これに対し、自らが収益を上げるソーシャルビジネスは、資金が続く限り社会問題に向き合うことを可能にします。そして資金が調達できるまでの時間を無駄にすることなく、スピード感を持って問題解決に取り組むことができます。

ボランティアのもう一つの難点は、事業だけでなく自分の生活までも立ちゆかなくなる可能性があるということです。
支援している側にも生活があり、ボランティア精神だけではやっていけないのが現実です。お給料のない慈善活動だけをやって生きていくのは難しく、その結果、活動から離れざるをえない人は少なくありません。
その点、ソーシャルビジネスは自らが利益を上げるため、本気でビジネスに取り組めば、社会貢献をしながら生活するためのお金を稼ぐことが可能です。

また、収益事業は支援する側とされる側の垣根を取り払い、一丸となって目標達成のために突き進むムードを生みます。結果として、支援される側の人と、ビジネスパートナーとして対等な立場で向かい合うことができます。

2.3 ソーシャルビジネスとNPO

NPOの活動は、多くの場合ソーシャルビジネスに分類されています。
しかし、ソーシャルビジネスの定義を、「寄付金などの外部資金に頼らず、自らが事業収益を上げながら継続的に課題解決に取り組むこと」とする場合、NPOが真の意味で「ソーシャルビジネス」であるかは議論されるところです。

なぜなら、NPOの収入源のうち、平均してその5割以上が補助金や寄付金などの外部資金に依存しているからです(2012年 独立行政法人経済産業研究所調べ)。
もちろん、外部資金に一切頼らない事業型NPOも数多く存在します。また、ビジネスでは解決することが難しい社会問題も多くあるため、一概に外部資金に頼らないことが正しいとは言えません。
しかし、事業経営が外部資金に大きく依存していると、それがなくなったときに事業を継続していくことが難しくなるのは事実です。どんな事業形態であっても、問題解決のために長期的に取り組める仕組みをつくることが大切だと言えます。

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以上に見てきたように、ソーシャルビジネスは一般のビジネス、ボランティア、NPOとも異なります。
しかし、ソーシャルビジネスは、あくまで社会問題を解決するための一手段にすぎません。
ビジネスという手法を用いて解決出来る問題であれば、スピード・継続性をもって、ソーシャルインパクトを最大化させるため、ソーシャルビジネスという手法をとればいいのです。
しかし、世界にはソーシャルビジネスでは解決できない問題も多くあります。例えば、重度の障害をもった人やストリートチルドレンを対象にしてビジネスを展開することは難しいでしょう。
この場合、行政、ボランティア、NPOが主体となり、ときには事業体の垣根を取り払って、協力して問題を解決していくことが望まれます。一番重要なことは、問題を抱えた当人たちが自分に誇りを持ち、人間らしい生活を送れるようにする、ということです。
この点に主眼をおくとき、社会問題を解決するためにどの手段をとるのか、ということは個々人がしっかり検討すべき点です。

3. ソーシャルビジネスの歴史

ソーシャルビジネスがどのような経緯で生まれたのか、それに伴い、行政によってどのような政策がとられてきたのかをみていきます。

3.1 世界の動向

ソーシャルビジネスが生まれたのは、1980年代頃のイギリスと言われています。
当時のイギリスは「小さな政府」へ移行する政策を取り入れ、公共サービスを大幅に縮小していました。そのような状況に対して、市民が公共サービスを補完するかたちで事業を次々に立ち上げ、「ソーシャルビジネス」が起りました。

そのような流れを受け、イギリス政府はソーシャルビジネスに取り組む組織や企業を優遇する政策を整備していきました。そして、アメリカやイタリアなどの欧米諸国においても、行政によるソーシャルビジネス支援政策は取り入れられ、ソーシャルビジネスは世界へと広がっていきました。

3.2 日本の動向

一方、日本国内では、1998年の特定非営利活動促進法(NPO法)の施行がそのはじめの取り組みでした。
この法律によって、ボランティア団体などが、都道府県庁の認証を受ければ法人格を得られるようになりました。NPO法が施行された背景には、1995年に起きた阪神淡路大震災があり、ボランティア活動を促進させるねらいがありました。

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2007年には、経済産業省によって「ソ—シャルビジネス研究会」が発足され、日本のソーシャルビジネスを更に後押しするように行政が動き出しました。その翌年には、会社法が改正され、合同会社という新たな事業体も認められました。

4. ソーシャルビジネスの認知度

さて、イギリスでは公共事業を補うかたちで、日本では災害ボランティアを促進するかたちで生まれたソーシャルビジネスですが、当時は「ソーシャルビジネス」ということばは一般に定着していませんでした。

ことばとしての「ソーシャルビジネス」と、その概念が世界で広く認知されるようになったのは、2006年、ノーベル平和賞がバングラデシュのグラミン銀行とその創設者のムハマド・ユヌス総裁に贈られたことがきっかけでした。
社会問題を解決するためのビジネスに対してノーベル平和賞が贈られたことで、「ソーシャルビジネス」は広く知られることになり、現在に続くムーブメントの先駆けとなりました。

さて、日本におけるソーシャルビジネスの認知度はというと、それほど高いとは言えません。
2013年、NPO法人ETIC.が、20~30代の若者を対象に実施した調査によると、「ソーシャルビジネス」または「社会起業家」という言葉を知っている人は、全体の64%でした。
経済産業省の「ソ—シャルビジネス研究会」においても、ソーシャルビジネスの認知度の低さは指摘されており、今後、その向上に向けたアプローチが期待されています。

5. ソーシャルビジネスの事例

5.1 世界の事例

現在、イギリスにはソーシャルビジネスに取り組む法人数が約7万5千団体(2016年時点)あり、これは5年前と比べ5万8千団体も増えています(イギリス経済産業省 “Social investment: a force for social change 2016 strategy”)。

そして、いまや世界一の社会起業家大国と言われるアメリカでは、すでに96万団体(2003年時点)を超える社会的企業があり、こちらも年々増えています。実は、ソーシャルビジネスに取り組む団体・企業の数は、イギリス・アメリカだけでなく世界的に増えています。
ここでは、数ある世界のソーシャルビジネスの中から、社会的起業として特に名の知れている企業を紹介します。

■グラミン銀行(バングラデシュ)
1日1ドル〜2ドルで暮らしている最貧困層の人たちに、数ドル程度の小額の事業資金を貸し、自立を促す小口金融。「マイクロファイナンス」、「マイクロクレジット」と呼ばれており、現在世界中に広まっている。グラミン銀行は、現在までに約900万人もの人への融資を達成(2016年時点)。

■パタゴニア(アメリカ合衆国)
アウトドア衣料品などの販売を行う企業、ブランド。商品の素材は厳正な基準のもと選ばれており、環境にできる限り負荷のない商品作りを徹底している。また、従業員への待遇が極めて良く、公正な報酬や医療保険、託児施設利用に対する補助金、有給休暇などの福利厚生が整備されている。

■ザ・ボディショップ(イギリス)
自然の原料をベースに商品製造を行うコスメブランド。化粧品の製造過程でよく行われる動物実験は一切せず、パッケージにおいても再生素材を利用するなど、環境・動物に配慮したサプライチェーンを徹底している。また、社会的に弱い立場にある人、例えばHIV陽性者やセクシャルマイノリティの人権擁護にも力をいれており、啓発イベントの開催や人権擁護団体への寄付も積極的に行う。

■サファリコム M-pesa(ケニア)
携帯電話事業者サファリコムが提供しているモバイル送金サービス。このサービスにより、銀行口座を持てない貧困層の人々でも、携帯電話のSMSを使って簡単に送金ができるようになった。これまで現金を手渡しする以外方法を持たなかった人々にとって、革命的な仕組みとなる。このモバイル送金サービスは、現在アフリカのほとんどの国で導入され、人々の生活に劇的な変化をもたらしている。

5.2 日本の事例

経済産業省によると、日本でソーシャルビジネスを行っている組織・企業は、約8000団体と言われています(2008年調べ)。アメリカやイギリスに比べれば、まだまだ数は少ないですが、世界的に高まっているソーシャルビジネスの気運や行政のサポートにより、日本のソーシャルビジネスの規模は今後も拡大する見込みです。ここでは、メディアなどにもよく取り上げられ、一般にも認知度が高い日本の社会的企業の事例を紹介します。

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貧困農家を世界からなくす農業BORDERLESS FARM

■株式会社ボーダレス・ジャパン
社会問題を解決するためのさまざまな事業に取り組むプラットフォームカンパニー。これまでに立ち上げた事業は10事業(2016年12月時点)あり、日本にとどまらずバングラデシュ・ミャンマー・韓国・台湾でも事業を行っている。解決したい社会問題の分野、事業種は一切問わず、貧困から人種差別、農業からアパレル業までさまざまな事業を展開する。

■株式会社マザーハウス
バングラデシュなどの途上国で現地の素材を活かした商品を製造し、販売を行うメーカー、ブランド。世界に通用するものづくりを通して、発展途上国にも可能性があることを世界へ向けて発信している。従業員のための年金や医療保険の福祉などを充実させており、従業員の生活向上にも取り組む。

■株式会社LITALICO
就労支援、幼児教室・学習塾など、障がいを持つ人のためのサービスを提供。「障害は人ではなく社会の側にある」という考えのもと、障がい者だけでなく、精神病に苦しむ人や子育てに励む親のための事業を立ち上げている。

■株式会社HASUNA
労働環境や自然環境へ配慮したエシカルジュエリーブランド。素材選びの際には必ず現地へ足を運び、フェアトレードでの仕入れを徹底している。劣悪な労働条件や児童労働、搾取が横行する宝石や貴金属の採掘現場において、HASUNAはジュエリーの裏側にある世界のあり方を問い直し、提案している。

■ケアプロ株式会社
所属と十分な収入がない若者に対し、1項目500円からの格安セルフ健康チェックサービスを提供。過去1年以上健康診断を受けていない「健診弱者」は、全国に約3,300万人いるといわれている。その多くは、自営業者やフリーター、主婦、外国人など。これまでに約30万人の利用者を診断してきた(2015年10月時点)。

6. ソーシャルビジネスが描く世界

いま、世界には解決されていない問題が山積みにされていて、その内容は多様化・複雑化しています。行政がこれらすべての社会問題を解決するのは時間的にも経済的にも不可能であることは明白です。だからといって、問題を放置し続けることはできません。なぜなら、そこにはいま現在、苦しみ、困っている人がいるからです。

こうした状況に対する一つの答えがソーシャルビジネスです。
いま、日本を含めた各国の政府が、ソーシャルビジネスを支援する施策を立てている状況を鑑みると、いかにソーシャルビジネスに対する期待が高まっているのかが伺いしれます。こうした行政の後押しもあり、今後、ソーシャルビジネスは、世界でより一層の盛り上がりをみせるでしょう。

ソーシャルビジネスは、「何としてでも解決したい」社会問題を持った人がいてこそ成り立ちます。そんな強い情熱と使命感を持った社会起業家が、世界を変えるのです。

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