ソーシャルビジネス総合研究所、今回のテーマは「コーヒー」です。世界で最も愛されている嗜好品の一つといっても過言ではないといえ、世界で最もコーヒーを飲む国のルクセンブルクでは一人当たりの年間消費杯数が2,844杯にも上ります。

苦いコーヒーの苦い現実

コーヒー豆は、コーヒーベルトと呼ばれる北緯25°~南緯25°の間を中心に、60か国で年間約787万トンが生産されています(2011年、お茶の生産量は約452万トン、2010年)。また国際取引では、小麦を凌ぎ石油に次ぐ第二位を占めるといわれています。

コーヒー豆の輸入や消費の上位は欧米や日本が占める一方、生産国は途上国が中心です。農家の75%が小規模農家で、交渉力も弱い一方で、大規模に取引されているため、コーヒーの流通は非常に複雑かつ寡占的で、価格競争が起きにくいといわれています。

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また、コーヒーの生産量は気候変動にも大きく左右されます。一方で消費者からの価格圧力は変わりません。

結果として生産者の利幅が減少し、不作の年はコーヒー豆の価格が暴騰する一方で生産者の収入は減る、というようなことも起きています。豊作でも、仲介業者が利幅を広げるために生産者が得られる収益は小さくなります。

コーヒー豆になるまで

コーヒーの実が取れるコーヒーノキは、野生種では10メートルほどに成長し、栽培種でも3メートルほどまでは伸びるといわれています。実が収穫できるまでに3年かかり、収穫量を増やすには大量の肥料と水が必要です。さらに日光に弱いため、影を作る植物も同時に育てる必要があるなど、何かと手がかかります。

また、一般的によく飲まれているアラビカ種の場合、コーヒーの実は一つ一つ手摘みで収穫します。そのため、豆の収穫は重労働です。

収穫された実は、果肉部分を取り除いき、取り出した種を乾燥させることでコーヒー豆の原型ができ上がります(グリーンビーンズ)。ここまでのプロセスが現地で行われるようです。そして各地へと送り出され、焙煎などのプロセスを経て、コーヒー豆になります。

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この長いプロセスを経ても、小規模なコーヒー農家が得られる1日当たりの収入は、わずか1~2ドルといわれています。

このような事態を踏まえ、1970年代頃からフェアトレードによる取引が叫ばれていますが、現在でもフェアトレードの取引は全体の1%にも満たないとも言われています。総じて、生産者は長い間非常に弱い立場に置かれています。

排出される「ごみ」に注目

彼ら生産者の生活をよりよくするための、最良の方法はすべてのコーヒー豆が適正な価格で買い取られ、適正なリターンがあるシステムを作り出すことです。しかし、それには相当な時間が必要です。

もっと早く農家の収入を増やすことはできないか。その問いに対して、スターバックスなどのエンジニアを歴任してきたDan Belliveau氏が注目したのは、「コーヒーの果肉」でした。

豆を取り出したあとのコーヒーの果肉は、年間で約2000万トン排出されているといわれています。それらは良質な堆肥として使用されることもありますが、川に流して処分されることもあり、水質汚濁の原因になっているといわれています。

コーヒーの果肉の効能

そこで、Belliveau氏は、実と豆を分離した際に出るこの果肉を、豆と同様のプロセスで乾燥させ粉砕することで「小麦粉状」にすることを思いつきました。

実はコーヒーの果肉は、ホウレンソウの3倍の鉄分、ケールの3倍のたんぱく質、小麦粉の5倍の食物繊維を含む、実は栄養豊富な食品原料であるといわれています。また欧米では最近話題になっているグルテンも含まれていない、理想的な食べ物です。

また果肉はコーヒーテイストではなく、香り高くほんのりシトラスの風味が感じられるようです。カフェインの含有量もコーヒーより低くなっています。Belliveau氏は、これをCoffee Flourと名付けています。

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Coffee FlourのHPより引用

これを小麦粉の代わりとして、ケーキやクッキー、パスタの原料などに利用することで、ヘルシーな料理が出来上がります。現在、アメリカのレストランで提供されているほか、一般向けの販売も始まりつつあるようです。

Coffee Flourの良いところ

Coffee Flourは、もとは「廃棄物」として捨てられ、環境汚染の原因になっていたものを再利用しています。川に流される量が減ることで、環境汚染の減少が期待できます。

しかも、「小麦粉の代わりになる」という点で非常に優れているといえます。例えば、小麦を生産して、500gパスタとして食べられるまでに排出される二酸化炭素のうち、35%が生産段階で排出されるといわれています。

つまり、新しく小麦を生産するよりも、今あって排出される運命のCoffee Flourを利用したほうが環境負荷を軽減できる可能性があるということです。

Coffee Flourの生産は、主に生産地域で行われます。そうすることで、コーヒー豆以外の産業を生み出し、町全体の活性化や雇用促進、収入の増加に貢献することができます。。

見通し

Coffee Flourの取り組みはまだ始まったばかりで、堆肥として使ったほうがいいのではないかという批判や、Coffee Flourとして再パッケージし、輸出をすると、かえって二酸化炭素の排出量は増えてしまうのではないかという意見も出ています。

今後Coffee Flourはこれらの意見にいかにして答えていくか注目されます。

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もし仮に、一部でも本当に小麦に取って代われる存在となった時のインパクトは、非常に大きくなると期待できます。これも、捨てられるしかなかった「果肉」をうまく活かして、環境問題貧困問題にアプローチするのに非常に参考になる事例だと思います。