
ソーシャルプロダクト特集、今回のキーワードは、「義足」です。
「歩けない」ことは、行動や運動の自由を制限され、労働も制限され、介助が必要になるなど、本人や周りの人にとって非常に大きな精神的負担となるとともに、尊厳を奪うものです。
①義足
一説によると、人々が手足を失う確率は1000人に1.5人とも言われています。すなわち、世界には1000万人以上の切断者がいるとされ、その中で7割が下肢切断、つまり義足が必要であると考えられています。つまり700万人です。
しかし、その中で実際に義足を手に入れることができる人は、経済的な理由などで一部のみにとどまります。さらに、これは私見ですが、途上国と先進国で切断のリスクは異なっており、感染症や事故などのリスクを鑑みても途上国のほうが高いと思われ、切断のリスクも貧困層のほうが高くなります。
一方で義足は1足で10万円以上することも多く、しかも切断の状況は人それそれぞれのため、カスタマイズする必要があるなど、大変な出費になります。貧困層ではなかなか手が届きません。つまり、必要としている大多数の人には届いていないと考えられます。
Jaipur Foot
この問題に取り組むのが、インドのNGO、バグワン・マハベール・ビクラング・サハヤタ・サミティ(BMVSS)です。BMVSSはJaipur Footを作っています。『ネクスト・マーケット』にも取り上げられており、ご存知の方も多いかもしれません。
BMVSSは、1975年より信条や宗教、地域に関係なく義足を必要としている人たちに義足を提供する活動を行っています。今ではインド全国で22ほど施設を抱え、年間16,000ほどの義足を提供しています。そして今までに、130万人の肢体切断・不自由な人への提供を行ってきています。
無料で診察をする
センターには、誰しもが予約なしでの来院が可能です。そこで診察や計測を受けてから、義足の作成に入ります。
普通、それぞれの状況に合わせてカスタマイズした義足を作ると、期間は数か月、費用は8,000ドルといわれていますが、Jaipur Footは、数時間~3日以内で作ってしまい、コストは30ドル程度です。さらに驚くべきことに、基本的に「無料」で提供されています。(富裕層は寄付をします。)義足ができるまでの間、患者はJaipur Footの施設に無料で寝泊まりすることができます。
質の高い義足を
義足は膝下、膝上、足首の三つに分けられます。どれも切断面への負担も小さい設計で、気候の変化などによる膨張や収縮も少なく、耐久性に優れた素材が使われているなど、非常に質が高いものが提供されています。
特に膝上の義足に関しては、Stanford大学との共同研究により開発された人工関節、“Jaipur Stanford Knee”は、100ドル以下で、人間が歩く際の膝の動をうまく再現できている、それまでの膝上義足とは一線を画した、格安で精巧な義足です。
総じて、Jaipur Footの製造コストは大体30ドル程度(3,000円程度)といわれています。一方のアメリカでは平均で8000ドルとも言われており、これは莫大な研究開発費を投じた結果、回収する必要があるためのようです。
これは、技術系の人材が豊富というインドの強みを生かして、研究開発に投資したと同時に、製造工程の大幅な削減を行った結果だといわれています。
世界最大のNGO
今やJaipur Footは、年間2万足の義足を作成する能力をもち、理学療法士を抱え、リハビリトレーニングも備えています。また、Aravind Eye Hospitalのように、インド中でのキャンプ、すなわち出張診察と義足作成も行っているほか、アフリカやアジアの各国へも義足の供与も行っており、障害者のためのNGOとしては世界最大級の規模を誇っています。
ちなみに、活動資金は政府の援助と寄付で成り立っており、長年の実績があるにせよ、ここに一抹の不安があります。しかし、Jaipur Footの義足は、インドの強みを生かし、研究開発などの費用を極力抑えることで開発でき、いざ市場に投入できれば、劇的な価格破壊をもたらせるポテンシャルのあるソーシャルプロダクトです。
日本でも需要がある?
この安価な義足は、日本でも需要があるといわれています。日本では、義足や義手は保険の適用がなされますが、耐用年数が決められています。そして耐用年数以内での新規購入(予備などの購入)は全額自己負担となります。
毎日使うものであるならば、安いものというわけにもいかないと思います。しかし、そもそも新しく作る場合でも、健康保険では3割適用ですが、100万円の義足なら30万円、10万円では3万円と、決して安くはありません。こういった事情から、義肢の方々は積極的に外出をしないといわれています。
安価な義肢がもたらすインパクトは、途上国にとどまらず日本にも大きなインパクトをもたらしてくれそうです。