ソーシャルビジネスラボ、今回は久しぶりにエネルギー問題を取り上げます。以前より、バングラデシュのEBIや、フィリピンのSALtを取り上げてきましたが、世界中の貧困層の大半が満足に電力を得られていないといわれています。

ブラジル

今回の舞台はブラジルです。ブラジルは、リオのカーニバルなど明るいイメージがあり、経済成長著しいといわれる一方で、所得格差が非常に激しく、国民の60%が平均所得の1/2以下での生活を強いられているといわれています。

スラムにあたる地域はファベーラと呼ばれ、各都市にファベーラが見受けられます。また、2000万人以上の子どもが衣食住に事欠き、900万人のストリートチルドレンがいるといわれています。

2014年にはリオデジャネイロでサッカーのワールドカップが開催された際、開催資金があるならば貧困の解消や教育の充実に回すべきという反対のデモが起きています。

農村部に目を向けてみても状況は同じで、大半の人は貧しく、所得格差は大きく、電気やその他のインフラは不十分です。

ブラジルのリオデジャネイロ市街

農村に電気を供給する

今回の取り組みは、1990年ごろから始まりました。取り組みを始めた当初はもっと過酷な格差があったと考えられます。

Fabio Rosa氏は、1980年代より農村地域への電力供給に取り組んでいた社会起業家です。太陽光エネルギーに着目した彼は、1992年にSistemas de Tecnologia Agroelectro (STA)を立ち上げ、過放牧に対策するために、太陽光エネルギーで動く電気フェンスを開発して名を得ています。

また彼は、農村部の貧困層への電気力供給のために、The Sun Shines For All (TSSFA) projectを立ち上げます。

TSSFA立ち上げの背景

TSSFAは、農村部にすむ人々にも電気をもたらすことをミッションとしています。

当時、ブラジル全土の農村では2500万世帯(5000万人程度)が電気を持っていませんでした。さらに、Rosaの調査では、農村部では蝋燭や灯油、バッテリーなど、エネルギーの確保に毎月11ドルほどを費やしていました。蝋燭や灯油などは、非循環の資源で、しかも明かりとしてはとても弱いものです。しかも含まれる不純物などで健康被害の可能性もあります。

そこでRosa氏が始めたのは、毎月10ドル(と導入費150ドル)で彼らにソーラー発電機をレンタルする事業です。

ブラジルの農村部はこんなところもあります。

太陽光発電に必要な道具は、すべてSTAが所有しており、各農家へリースされます。しかし農家は月額費用を払うだけで、実際に作られたエネルギーは農家が使うことができるというシステムです。

導入費を含めても、毎月農家が費やしている費用より少し高いくらいの値段で、エネルギーを得ることができます。しかも、エネルギーは再生可能エネルギーで、有害な煙も出ないし、CO2も排出しません。

ニーズの先を読む

Rosaが注目した点は、農家は、別にソーラーパネルを買うことには興味がなく、ソーラーパネルを設置してエネルギーを得ることで受ける恩恵(夜に明かりがある、ラジオが聴ける、温かいシャワーが浴びられるなど)に興味があるというところです。

そもそも、このような農村部ではインフラがなく、電気は通っていません。

そんな中で電気を使うには、例えば太陽光発電の道具を一通りそろえる必要があります。しかし、これにはかなりの投資が必要で、貧困層には到底出せる金額ではなく、結局電気はないまま。効率の悪い蝋燭や石油ランプを使わざるを得ない、という状況でした。

この点を、道具を一式「レンタル」して毎月決まったお金を払う、という形式で打ち破ったところにこのビジネスのうまさがあります。
さらに、化石燃料に払う金額の最大50%ほど支出を減らすことも可能になり、生活に余裕もでてきます

いくつかプランがあり、最安の毎月10ドルのものは、部屋の明かりと小さなラジオに対応しています。月額16ドルのプランでは、小さなテレビ、ラジオとポンプ。月額24ドルでは、これらに加えて携帯の充電器が可能になります。

ソーラー発電

契約

導入費は150ドルです。決して安くはありませんが、12カ月に分割することもできます。

契約は3年間ですが、途中解約でも違約金はなく、撤去コストの負担だけで済みます(電力会社の供給が万が一始まった場合は、撤去コストもなく契約の解除が可能です)。またこの設備を隣の家と共有することも可能です。

料金の支払いは、近所のキオスクでも少額の手数料で可能とすることで、非常に利便性も高くなっています。

ソーシャルインパクト

テスト段階の4年間では、述べ6,000の設置が行われたところで、収支の均衡点に達しました(共同利用も含め、12,900世帯、52,000人)。これにより、農家は収入を得る機会が増え、人口の都市への流出も防ぐことができたようです。

また、蝋燭や石油などの化石燃料の使用も抑えることができ、その量は4年間で液化石油ガスにして460万キロ、蝋燭4640万本、灯油900万リットルに匹敵するとされています。さらには蝋燭などに含まれる有害物質による健康被害も減り、コミュニティ内での共同利用の例も見られたとのことです。

現在では、初期投資もできないほど貧しい人たちに向け、似たようなサービスを提供する、非営利のQuiron Projectも開始しています。

初期投資を下げる

貧困層がソーラー発電などを導入する際に最も高い障壁になるのが、初期投資です。Rosa氏は、農村部への電力供給という課題に長く取り組み、このプロジェクトの現地調査にも8か月をかけたといわれています。その結果、太陽光発電の「レンタル」という方法で初期投資を下げることで、収入の少ない層にも電気をもたらす画期的なアイデアに至りました。

初期投資は、貧困層が参加する際に必ずといっていいほど壁となります。このような「レンタル」の方法をうまく利用することは、壁を乗り越え、貧困層にメリットを届けられる有力な方法になるかもしれませんね。