今回は「地雷」と「ラット」の密接な関係についてご紹介していきます。地雷には対人地雷と対戦車地雷がありますが、ここでは対人地雷を中心に話を進めていきます。

地雷による被害の実態

対人地雷は、そもそも人を殺すものではなく、人を負傷させるための道具として開発されたといわれています。死亡すると1人の損失だが、負傷では負傷者とそれを運ぶ数名を費やすため、優位に立ちやすい、という恐ろしい理論に則って開発されています。

全世界では未だに7,000万~1億個も埋められているといわれており、その大半は途上国です。2012年では、1,066人が死亡し、2,552人が負傷をしたとされていて、そのうち47%は子どもです。多くは農作業中や、遊んでいるときなどに誤って踏むことで、手足を失う、失明するなどの被害を受けます。

被害を受けた家は、働き手を一人失い、介護が必要になり、義足などの費用もかかり、経済的な負担を抱えることになります。
また地雷原は、農地としても、遊び場としても使えないため、放置せざるを得ません。放棄地のデータはありませんが、かなりの広さになると考えられます。

今では対人地雷禁止条約も発効しており、対人地雷の使用・貯蔵・生産・移譲を禁止していますが、アメリカ、ロシア、中国、インドなどの肝心な国は批准していません。

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処理コストは製造コストの30倍以上

地雷は、飛行機から撒けるタイプ、金属探知機にひっかからないプラスチック製、複数回爆発できるタイプなど、300種類にも及ぶ種類があるといわれています。

製造コストも安く、1個当たり3ドル~30ドル程度しかかからない上に、一度撒くと半永久的・無差別的な攻撃が可能になります。こういった特性から、各地の戦争や紛争で多用されてきました。

他方で、処理コストは1つ300ドル~1,000ドルともいわれ、処理にかかる費用が莫大になります。また、人による除去はリスクも伴い、5,000個の地雷を除去するのに除去員1人が死亡し、2人が負傷するとも言われています。

ラットを使った除去

ベルギーのAPOPOという社会起業家によるジョイントベンチャーは、ラットが持つ探知能力を活かした技術の開発を目指した団体です。ラットを使った地雷探知の方法のほか、結核の診断にもラットを使用し、アフリカの社会問題を解決することをミッションとしています。

ではなぜラットなのでしょうか?英語の“Rat”は、ドブネズミなど比較的大型のネズミのことを指すといわれています。マウスとともに、実験動物としてもよく使用されています。

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①ずば抜けて鼻が効く

そのラットの最大の特徴は、「嗅覚が鋭いこと」です。ラットの嗅覚受容体(臭いを認識する部分)の遺伝子は、イヌの1.5倍、ヒトの3倍存在しており、それだけ嗅覚も発達していると考えられます。
※実際、オランダでは警察犬の代わりとしての研究も進んでいるようです。


②世界共通で学習能力もある

また、ラットには学習能力もあり、トレーニングによって臭いの嗅ぎわけが可能になります(オペラント条件付けの一環と考えられます)。

加えてラットは実験動物として扱われるほど、世界中どこにでもいるので、調達が容易な上に、からだも小さいので、イヌと比べてもエサ代などがかかりません。


③体重が軽い

そして何より、体重が1㎏前後と軽いことで、万が一地雷を踏んでも作動しないという点も大きいといえます。

人間が誤って踏むと、もちろん大変なことになりますので、そのリスクも軽減されます。先ほど述べたように、人的な除去では5,000個の除去には3人の地雷除去員の犠牲が伴います。

また、地雷探知犬は、大型犬が多く子どもくらいの体重はあることを考えると、ラットの軽さは武器になりますね。


④スピードが速い

訓練自体には、9ヶ月ほどかかるようですが、人間2人で丸一日かかる、200平方メートルの地雷原をラット2匹では2時間で完了させられるようです。これによって、労力や人件費も抑えることができます。


Hero Rats

このラットたちは、現在までにモザンビークやタンザニアなどを中心として48,846個の地雷を除去し、18,793,959 平方メートルを調べ上げたようです。また、近年ではアフリカだけでなく、ラオスやカンボジア、ベトナムなどのベトナム戦争の混乱を受けた地域などに活躍の場を広げているようです。

これらの国は、アジアの中でも特に地雷被害が深刻な地域といわれており、毎年1,000人近くが被害にあっているといわれています。

ラットは、いわゆるネズミであり、ネズミは世界中どこでも「害獣」として扱われがちです。地雷の除去にかかる費用を抑えることができるのであれば、このネズミたちは人間にとって有益な「益獣」ともいえるでしょう。まさに、“Hero Rats”ですね。

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※出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/APOPO

結核の探知にも有効

ラットの嗅覚は、結核の感染判定にも役立つといわれています。結核の時は、患者の痰を顕微鏡で調べるようですが、一度陰性と判断されたものでも、マウスによって陽性と判定されるものも多いようです。ある病院では、検出率が40%も向上したとのことです。
(※結核は、アフリカで猛威を振うAIDSによって引き起こされる日和見感染症としても多いといわれています。)

また、一部では警察犬のようにラットを使うという研究も進んでいるようです。

ラットという世界中で食べ物を食い荒らし、感染症を運びかねない「害獣」を、比較的簡単で原始的な「条件付け」によって「益獣」に変えてしまい、地雷除去や結核の探知に活かそうとする、面白くて画期的な取り組みといえます。

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