皆さんは、「飛ぶトイレ」をご存知でしょうか?日本ではまず考えられないことで、世界的に見てもケニアなど東アフリカだけの言葉であってほしいことです。

世界ではトイレが不足している

世界中で、途上国を中心に25億人が衛生的なトイレを使えず、10億人が道端や草むらなどの野外で排泄しているといわれています。

トイレがあったとしても、穴を掘っただけのボットン式で、いっぱいになったら次の穴を掘って使う、という繰り返しです。しかしトイレにきちんとした設備がないと、屎尿類などが土壌に染み込み、土中微生物と反応して有害物質となり土壌・水質汚染が発生します。

これは安全な水の確保にも影響します。現在6.7億人が安全な水を確保できておらず、毎日約1,400人の子供たちが、下痢や脱水などが原因で死亡しているといわれています。また、蚊など害虫の発生にもつながり、マラリアなどの感染症の温床にもなります。

途上国、農村部のトイレは、良くてこんな感じです。
(ミャンマーのトイレ。筆者撮影。)

“飛ぶトイレ”

トイレにいる姿は、あまり見られたくないものです。学校にトイレがないことは、学校を休む・退学する理由の10%を占めるとも言われています。

また、公衆トイレは犯罪の温床にもなるなど、トイレは人としての尊厳にもかかわってきます。アフリカのケニアのスラムでは、このような事情も絡み、人々はあまりトイレを使いたがりません。公衆トイレがあったとしても有料で(途上国で公衆トイレが無料というのはレアなケースです。)、多くの人はそこにお金をかけることができません。

そこで袋に用を足し、それを遠くに投げ捨てる“Flying Toilet(飛ぶトイレ)”という現象が起きています。これが当たったらどうするんだろうという恐ろしさのほかに、きちんとした廃棄がされないことで上述したような不衛生な環境が促進されてしまいます。

エコトイレバッグ

そこで開発されたのが、Peepoopleというスウェーデンのベンチャー企業が開発した、トイレバッグ“PeePoo Bag”です。要は用を足すバッグなのですが、中には肥料としても使われる尿素が含まれており、糞尿の有害物質も、2~4週間で分解し無害化してくれます。

自然のままの糞尿は、浄化に1~2年を要すると考えると、驚異的な速さで進みます。きちんと縛っておくと1日中悪臭を放つこともないので、朝でも夜でも使えます。

PeePooBagはこんな感じ

またPeePoo Bagは生分解性のプラスチックでできていて、いずれは糞尿とともに分解されます。Peepoopleでは、スラム地域の女性にこのバッグを販売してもらい、収入を生み出す取り組みも行っています。

バッグは1枚約3円(=3ケニアシリング)ですが、Peepoopleでは回収場所も設けており、ここに持ってくると1円還付されるので、実質1枚あたり2円で購入が可能です。

東アフリカ最大のスラムといわれるキベラにて行われた実験では、ほとんどの住民が導入を歓迎しているようです。Peepoopleでは、緊急援助グッズとして、国際機関への販売によっても収益を確保し、ケニア発展途上国では女性を販売員として雇用することで、女性の収入も確保できる仕組みを作るようです。

マイクロ肥溜め

また、Peepoopleは使用済みのバッグを回収して、肥料として販売するという取り組みも行っています。日本でも昔から人糞は肥溜めに貯められて、肥料として使われていました。

バッグ自体は生分解性のプラスチックで、土に還すことができます。また、バッグの中で有害物質の無害化もしてくれるので、そのまま土に混ぜ込むだけで肥料になるという優れものです。これで農家の生産性も向上すれば、農家の貧困改善にもつながります。

PeePooBagは衛生問題の改善に役立つのでしょうか?
(以上はPeepoopleのHPより)

社会的な背景を逆手に取る

飛ぶトイレという現象は極端ですが、PeePoo Bagはケニアにおける文化・社会的な背景をうまく逆手に取った事例だといえます。

もちろん、本当の理想はきれいなトイレが安全に使えることです。そういった意味では、次善的かもしれませんが、トイレに対する設備投資は意外と高く、設置しても管理維持が大変です。行政に頼むほど、ガバナンスがきちんとしているわけでもありませんし、援助機関が無償で設置するのも時間を要します。こういった観点ではベストといえます。

また、水を使うのは用を足した後に手を洗うときだけと考えると、水を使えない地域での水洗トイレの設置よりも優れた方法と考えることもできます(水洗トイレ大好きな日本では家庭用水の28%がトイレ排水に使われているとされ、風呂(24%)、食事(23%)よりも多くなっています)。

その土地の風習に合わせたソリューションと啓蒙活動

トイレが不足している事情は他国でも同様ですが、トイレの受容のされ方は、文化的・社会的背景が大きく関与してきます。緊急援助として、代替手段がない場合には確かに有効かもしれません。

しかし、Flying Toiletのような現象がない途上国では、Peepoo Bagが受け入れられるとは限りません。別の方法が行われている可能性もあります。そういった意味では、他国へと広げていくには、じっくりと人々の意識の変革からやっていくことが必要です。

Ecotactのトイレ外観
(EcotactのHPより)

トイレ事情の改善は、衛生状態の改善、女性・子どもの権利向上、就学率の向上、感染症の減少など様々な問題解決につながります。しかし、トイレの重要性がまだまだ理解されていないのも現実です。

トイレを使わないという風習に合わせて即効性のある手段を整えると同時に、やはりよりよい方向への啓蒙活動も大切です。例えば、有料ですが着替えや化粧もできるきれいな公衆トイレを提供しているEcotactという企業も登場していますおり、トイレの価値を伝えるという意味では非常に重要なことかもしれません。詳細は次回ご紹介します。

いずれにしても、今後PeePoo Bagがどのような広がりを見せるか注目です。