
医療問題と貧困問題は互いに絡み合っており、健康を損なうために貧困になり、貧困のために健康を損なうという負の連鎖が生じています。
今回は、年間手術数が世界一を誇る、アラビンド・アイ・ホスピタル(Aravind Eye Hospital)の取り組みについてご紹介します。
世界一の眼科病院
Aravind Eye Hospitalはインドの南部に10の病院・診療所を持つ眼科専門病院です。2013年には、年間37万例もの手術を行い、診察人数は310万人にも上っており、年間の手術数は世界一です。
メインの5病院で平均一日1,700人を診察、200例の眼科手術をしている計算になります。とてつもない人数ですね。どうやったらこのようなことが可能になるのでしょうか?
避けうる失明をなくす
これがAravind Eye Care Hospitalの理念です。インドでは、2010年時点で、100万人当たり全く目が見えない人が8000人、弱視は55,000人、視力障害は63,000人となっており、これは他の途上国と比べても高い数値となっています。しかもその人たちの8割近くが、きちんとした治療(日本などで受けられるケア)によって避けることができる原因によるものだといわれています。
創設者の故Dr. G. Venkataswamyが立ち上げたのがAravind Eye Hospitalです。医療サービスは、お金を払えば質の高いものを受けられます。裏を返すと、お金のない人たちはロクな医療サービスを受けることはできません。このような状態に対し、貧困層にまで質の高い医療を届けるのが、Aravind Eye Hospitalです。
Aravind Eye Hospitalの手術モデル
Aravind Eye Hospitalの目指すのは、「マクドナルド式」の医療サービス。どこでも、すぐに、同じ質の医療が受けられるという意味です。そこで削ったのは、手術と手術の合間の無駄な時間と動き。手術は準備などを含め開始までに1時間ほどかかるといわれていますが、Aravind Eye Hospitalでは5分しかかかりません。
また、手術室には数個のベッドが並んでおり、医師は次から次へ流れ作業的に手術をしていきます。この徹底的な効率化が、一日200例の手術数を可能にしています。これでいて、院内感染やトラブルの可能性は先進国と変わらない程度に抑えられています。
Aravind Eye Hospitalの治療費
インドにおける眼科の手術費用(白内障)は、大体100ドルくらいといわれています(アメリカでは数千ドル-数十倍です)。インド全体で手術費が低い理由も、Aravind Eye Hospitalがかかわっていると考えられますが、これは次回お話します。
しかし、それでも、手術費用を完全に負担できた患者数は全体の47%で、残りは何と手術料ゼロです。そのうち、100ドルは払えないが、少しでも払える患者は、手術そのものは無料だが、人工レンズの購入費用として約10ドルだけを支払います。こうした患者は全体の26%に当たるようです。残りの27%の人たちは、慈善団体や病院の負担により費用が賄われて、完全無料での手術になっています。
この最後の27%の人たちは、病院に行くこともできないほどの貧しさの人たちです。こういう人々に対しては、週末に「フリーキャンプ」と呼ぶ診察イベントを実施し、無料で診察やメガネの作成を行っているようです。
医療人材の教育にも力を入れる
最近では、年間40万近い手術例をバックに、眼科の治療に関する研究と、教育機関を設置しています。10,000人が診察され、1,000例の手術が行われ、500人がフリーキャンプで診察され、700人以上が遠隔治療を受ける。そのスタッフには100人のトレーニーが含まれているといわれています。
内製化によるコストカット
このようなシステムを可能にしているのが、「内製化」です。Aravind Eye Hospitalでは、手術に使うメスなどの手術器具と、目薬や人工レンズなどの医薬品を内製化しています。
内製化によって、人工レンズはアメリカ製の1枚60~150ドルするものから、2ドルにまで引き下げました。ほかの器具・薬品も、ジェネリック医薬品など特許をうまくくぐった方法で、引き下げに成功しています。
無料診療をしながらも高収益を実現
2010年時点では3,200万ドルの収入、利益率は25%でしっかり安定した数字が出ているようです(日本の病院の利益率は通常1~2%といわれています)。
徹底した効率化・内製化と、スケールメリットで原価を下げておきつつ、支払能力のある人からはきちんと市場価格を受け取ることで稼ぐ。その利益を貧困層に還元する。ソーシャルビジネスを代表する素晴らしいビジネスモデルですね。
※画像は、Aravind Eye HospitalのHPより引用