
現在、不登校を選択する子どもは24万人で過去最多。コロナを経てさらに増加傾向にあると言います。学校が合わなくても自分の人生にワクワクできるようにと、不登校専門のオンライン家庭教師「夢中教室」を立ち上げたのは、社会起業家の辻田寛明。子どもたちの自己肯定感の低さを解決する鍵がなぜ「夢中」にあるのか。完全オリジナルな授業をどう拡大しているのか。その秘密について聞きました。
家庭教師なのに勉強を教えない!?
-夢中教室について教えてください。
辻田: 夢中教室は、不登校の子どもを対象にしたオンライン家庭教師です。人生に伴走する「第三の大人」と出会いと、生徒一人ひとりの「好き」を掘り下げていく完全オーダーメイドの授業を大切にしています。
2020年の創業から2年で、現在利用者は118人。これまで高校進学や復学を機に卒業されたのが5人。合わないといった理由での退会されたケースはまだなくて、ありがたいことに継続率は90%以上です。
先生も25人に増えました。社会経験豊かな大人が先生となり、お子さん一人ひとりの好きの探究に伴走しています。少しずつですが認知が広がってきていることを実感しています。
オンライン授業の様子
-不登校のお子さんのための教室というと、学校ではない場所で勉強を教えることがまず思い浮かぶのですが、夢中教室は違うアプローチですね。
辻田: 5教科の学習ももちろん大事だし、やったほうが良いとは思っています。ただ、やっていった先にあるのは、今の教育だと結局受験というゴールです。
昭和から続く「成功」という1本のレールに乗るためのもの、という強い文脈を僕は感じてしまうし、これって他者からの評価軸だと思うんです。
この事業は、日本の子どもの低い自己肯定感への問題意識が根底にあります。だから事業を考えはじめるとき、「自己肯定感を温めていく」ことをコンセプトに置きました。
「自己肯定感を温めている」とは、自分のだめなところもいいところも含めて自分でいいんだと思えていること。それは、他者から与えられたのではない、自分の内側からつくられた物差しを大事にできている状態だと思うんです。
自分だけの物差しは、「自分はこう生きたい、これがしたい」から作られるもの。それを見つけるために、好きなことをどんどん広げて育てていくようなプログラムが大事なんじゃないかと考えて、夢中教室の形にたどり着きました。
-考えつくされた形なんですね。アイデアを形にするのは難しかったのでは?
辻田: 「自己肯定感はどう育つのか」「自己受容はどういう過程で行われるのか」など、教育心理学や発達心理学の論文を読んだり、色々な方の話を参考にしていますが、プログラムは完全オリジナルです。
立ち上げ当初、僕自身が先生として子どもと接して、一人ひとりの変化を見る中で得た気づきを、学びに昇華して、集約してメソッド化しています。
授業は無料体験から始まります。最初の自己紹介ではお互いにクイズを出し合ったりして、緊張の氷を溶かしながら進めていきます。
最初はZOOMの画面オフで参加し、スタンプのリアクションだけで反応を返してくれる子や、慣れるまで親御さんが付き添われるケースもあります。
好きなことを堀りさげていくのが、1回目でできる子もいれば、2、3ヶ月経ってからの子もいます。その子のペースに合わせてじっくり進めていきます。
きっかけとしては、例えば自分のことを話してくれるようになったとき。自分はこう考えていると意見が言えることを、僕たちは1歩進んだ状態と捉えていて、そこから夢中教室でどんなことをやっていきたいかの作戦会議に一緒に入ったりします。
「車が好き」という場合も、車を見るのが好きなのか、車の種類が好きなのか。その先に深めていく内容が変わりますよね。
また、「どんなことがやりたい?」という質問も、聞かれたことがないと答えるのが難しいんですね。問いかけの方法や言葉選びも先生たちで共有して、一人ひとりの好きを見つけています。
学びあい、高めあう先生たち
-好きが見つかった後は、どう進めていくのですか?
辻田: 好きなことをどう調べていけるかのインプットと、それをどうアウトプットできるかのバランスを見て、授業内容を先生が決めていきます。
どう進めたらいいか迷うときは、先生同士ですぐに相談できる環境があります。イラストが得意な子、パソコンが得意な子、文章が好きな子。それぞれの授業内容がストックされているので、これまでの授業のアイデアを参考にすることもできます。
この授業事例の豊富さも夢中教室の宝だなぁと思っています。
-高い満足度の理由が分かります。
辻田: 夢中教室の授業の質を決めるのは、先生。夢中教室の強みとも言えます。経歴は様々ですが、子どもや教育をすごく大切に思っていること、そして事業への共感があるという点が共通しています。
オンラインで短時間から関われるので、現在も非常勤講師をされている方や、子育てで教職を離れている方、思いはあるけど発揮する場所がなかったという人たちが来てくれています。
夢中教室の先生たち
今、本当に素敵な方が集まってくれていて、Slackでアイデアを共有しあったり、毎月勉強会を行ったり、先生同士でも活発に学びあっています。
夢中教室の先生たちの学びに対する熱量の高さが良いと言う声や、一人ひとりに丁寧に向き合えることが本当に幸せと聞くと、僕も本当に嬉しくて。
先生たちのノウハウを見ているだけでも発見や学びがめちゃくちゃ多いので、教職を志す学生の方にも来てもらいたいなと思っています。
「第三の大人」が子どもの可能性を伸ばす
-辻田さんが社会起業家を目指すことになったきっかけは何だったのでしょうか。
学生時代にインドネシアのスラム街を訪れたことがあります。経済的に厳しい状況にあっても、「家族と一緒に暮らせて幸せ」と話すお母さんに会い、幸せの定義が揺らぎました。
そこから、経済的な豊かさ以上に、日本人の心の貧しさの方に問題意識が向くようになりました。
大学時代にキャリア教育の活動を通して出会った中高生に目標を持つことや成長することについて話すと、「自分には無理」という子が本当に多くて。
可能性にあふれる10代のうちから、自分に対して希望を持てないってなぜなんだろうと疑問を持ちました。
-そういう子が増えているのは分かります。
辻田: 僕自身の幼少期を振り返ると、親とも先生とも違う、信頼できる第三の大人がいました。
その方は幼稚園の時から今もお世話になっている美容師さんで、外資系の企業に勤めていた経験や、世界を旅してまわったことがあったり、とても博識で、何より人生を楽しんでいる方で。
僕がどんなことに関心があるのか、将来はどんなことがしたいと思っているのか。僕の話を興味を持って聞いてくれたし、成長に合わせて本をすすめてくれました。
「君はこんなことが得意そうだからそこを伸ばすといいよ」「君の長所なら将来はこんなことができるんじゃないかな」「10年後どんな風になっているだろうね」
そんな言葉をかけられるたびに、「うん、できるかもしれない」って自分の将来が楽しみになったり、自分を肯定できるようになっていったことを思い出します。
-夢中教室の原型のような体験ですね。
「自分には無理」と可能性にフタをしてしまう中高生と出会って、自分自身の体験を振り返ったときに、こうした大人の存在があったことに気付いたことが、今の事業のかたちにつながっています。
親でも先生でもない第三の大人が子どもたちにできることが、たくさんあるように思います。
-夢中教室がもっとひろがっていくと良いですね。
辻田: はい。社会の中で、マイノリティな場所に身を置く全ての子どもにまず届けたいです。児童養護施設や外国籍の子。いじめている側の子にも必要なんじゃないかとも思っています。
また、お子さんが不登校になったことで親御さんたちが悩んでいることも分かったので、そうした親のためのコミュニティづくりの必要性も感じています。
子どもたちと接していると、ありのままのその子らしさが発揮されるより、こうあらなきゃいけないという像に合わせに行っているように感じる時があります。
それが上手くできる子もいれば、できない子もいて。人と違うところが悪い意味で目立ってしまったり。それって健全な社会じゃないなと感じます。
その子が持っている良さがちゃんと注目されて、その良さが発揮されていく。自然で健全な社会をつくっていきたいと思っています。
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