今も満足に食べられない人がいる食の不均衡に強い関心を持ち、「食の物語を紡ぎ届けることで、食卓と地球を豊かにする」をミッションに事業を展開する、タベモノガタリ株式会社 代表 竹下友里絵。ソーシャルビジネスのビジコンを経て、2019年に学生起業した社会起業家に、起業から事業停止そして新しいビジネスについてお話を聞きました。

学生起業はどの環境に身を置くかが重要

-竹下さんが学生起業されるまでの経緯を教えてください

竹下: 食について関心を持ったのは、留学時に「食べ物が捨てられる一方で、食べられない人がいるのっておかしいな」と食の不均衡に気が付いてしまったことがきっかけでした。

フードロスというテーマには、大学2、3年のころに出合いました。大学4年次を休学して、企業インターンをしましたが、自分の問題意識を解決できる選択肢が世の中にないなら作るしかないと起業を志すようになりました。

フードロスを解決する規格不選別の八百屋というビジネスプランを書いて、ソーシャルビジネスのビジコンに出た際に出合ったのがボーダレス・ジャパンでした。

当時は、資金面のサポートがとにかく魅力的でしたし、社会起業している人がたくさんいる環境にも興味があって、参画することを決め、大学4年生の2月に法人登記しました。

-学生起業ってどんな感じでしたか。

竹下: 「学生で起業してます」って言うと、みんな本当に応援してくれたなって思います。

だからこそ、誰のアドバイスを取り入れるのかは、めちゃくちゃ大事というのが実感です。しかも、ソーシャルビジネスという分野なら、なおさらです。

応援してくれるのはいい人たちばかりで、こういう方法なら儲かるんじゃないかとか、利益が出る方法を、親身にアドバイスしてくれるんですね。

ただ、ソーシャルビジネス特有の「どんな社会を作りたいのか」を理解したうえでアドバイスしてくれた人は本当にレアでした。

ソーシャルビジネスの肝って、起業家が描く理想の社会像、社会観だと思うんです。ビジネスはそれを実現するための手段なので。


TEDxKobe 2018「竹下友里絵:フードロスを無くすのに必要なのは、仕組みと意識の両立」

どうやったら儲かるかといったビジネスの話をする人は多いですが、その前にどんな社会をつくりたいのかが自然と出てくる人たちと話すことが視座を上げてくれるし、私にとっては大事でした。

逆に言えば、社会観は、ビジネス経験とは関係ない、学生と社会人で差が出ない領域だと思うんです。質問を受けたり言語化する中で深まっていくので、どこに身を置くのかは重要だと思います。


神戸大学の農場実習にて

3年続けたソーシャルビジネスをやめたワケ

-実際にビジネスを始めて、どんな点が難しかったですか。

竹下: 理想の社会像が大きくなるほど、それをビジネスの仕組みとして設計するのが難しかったです。

たとえば、「規格外野菜をなくしたい」というテーマがある場合、どーんと仕入れて安く売るという案がまず思い浮かぶし、実際そういうアドバイスは数えきれないくらいもらいました。

じゃあ、それを実現した先に私が理想とする社会ができあがるかというと、そうではない。ソーシャルビジネスの場合、自分の描く社会観がビジネス設計の制約条件となるんですね。


駅ナカで規格外野菜を販売する「八百屋のタケシタ」

さらに、大学生だとサービスの受け手として触れてきたビジネスが限られているので、自分一人で考えつくしてもアイデアに限界があったなというのは、今振り返って思うことです。

社会観への深い理解があって、ビジネスモデルの引き出しが多い人たちに壁打ちしてもらえる環境があるなら、絶対活用したほうがいい。

でも自分で考えてやってみたいと考えるのが起業家マインドだし、やったからこそ実体験として分かることがあるので、とにかくやってみるっていうのも大事なプロセスですよね。


コロナ禍に実施した八百屋の移動販売

-竹下さんは、規格不選別で野菜を取り扱う八百屋を3年経営した後、事業内容を変更されましたね。

竹下: はい。1年目は駅ナカで販売し始めて、2年目にコロナで駅の利用者が減ったタイミングで移動販売に切り替えて、その後にスーパーとの連携をはじめて1年半くらいで、八百屋を事業停止しました。

農家さんをまわって、週6で販売しながら、次の打ち手を考えて、ずっと全力で走り続けてきて。

ここから農家さんを増やして、卸先のスーパーも増やしていこうって時に、あれ?って。走り続けてはいたんですけど、小さな疲れというか、本当にこれでいいのかという違和感が出はじめていたような気がします。

対面販売では規格外の理由を伝えられていたけど、スーパーのPOPでどのくらい伝わっているのか、そんな違和感が少しずつ生まれてたのかなと思いますね。


トーホーストアと協業し、店舗内に竹下屋のコーナーを設置

-実際に事業停止する時はどんな心境だったのでしょうか。

竹下: 当時、売上も月300万円くらいあって、黒字化まであと少し。メディアにもたくさん取り上げていただいていました。

それ以上に、「ここ以外、どこで野菜買ったらいいの?」って言ってくれるお客さんだったり、仕入れ量は多くはなかったけど、つながりを大切に思ってくれている農家さんの存在がとても大きくて。

一つひとつ必死で積み上げてきたものを手放すには、勇気が必要でした。

ボーダレスは金銭的なリスクを個人で背負わずにセカンドトライができる環境だったし、「八百屋じゃなくていいんじゃないか」と声をかけてもらったこともあって、事業停止を決められました。

当時を振り返って、もっと早く決断ができたとも思うし、逆に、全てが必要な期間だったとも思います。そこは素直に、自分の実力なんだと受け入れています。

もしボーダレスでなかったら、違和感をどうにかごまかしながら続けていたと思います。ただ、それで理想とする社会像に向かっているかと言えば、そのスピードはやっぱり遅かったでしょうね。

事業停止から半年は頭と気持ちが離れている感覚がありました。今思えば、気持ちはかなり沈んでいたと思います。

実際には、間を置かずに事業プランを練り直して、2ヶ月後には次の事業立ち上げにはいりました。正直に言えば、もう一度事業を起こすにはすごい気力が必要だったし、一人だったらこのスピードではいけなかったと思います。

事業を続ける=正義ではない。違和感を大切に

-新しい事業についても教えてもらえますか。

竹下: 収穫体験の事業を半年くらい試して、今は有機農家さんから定期購入する事業としてタベモノガタリを再スタートしたところです。

八百屋の時は、とにかく足を動かせー!(笑)ってやってきた。それも大事なことなんですけど、今はもう少し落ち着いて事業を見ています。

前よりも長いスパンで経営を考えられるようになったし、バンと行くタイミングを見定めている感覚です。

理想とする社会に向かって、ビジネスとして仕組化する力はまだまだと思っていますが、それに気づけたことがまず一歩目かなって。

-学生起業家の方へ伝えたいことはありますか。

竹下: 学生起業家って、自分も含めて人の話聞かないタイプだと思うんですよ。(笑)それでもあえて言うとしたら、違和感を見過ごさないこと。それと、結果を焦らないこと。

理想とする社会へ、向かう方向やスピードに違和感を感じた時に、事業転換するのは悪いことじゃない。

事業は一つの手段です。心身削りながら続けるより、辞めるのも一つの勇気だと思ってもらえたらいいなと思います。

-事業転換を経て、竹下さんがそれでも社会起業家であり続ける理由って何でしょうか?

竹下: どう生きたいかを考えた時に「社会起業家」しか選択肢がないんですよ。

社会問題の解決方法、特にマイナスをゼロに戻してくる方法には大きな差がないように思います。食で言えば、生産者と生活者をつなぐサービスはいくつもありますよね。

でも、ゼロからプラス、その先にどんな理想の社会を創りたいのかがとても大切で。自分と同じ考えのものがまだ世の中になくて、そこを描いちゃった人はやるしかないと思うんです。

私も貧困問題から関心がつながって、今は「豊かさは衣食住とコミュニティの問題」と考えるに至りました。その領域で、理想と現実のギャップがある限り、私は事業を作り続けていくんだろうなって思ってます。

〈文=小川直美〉

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