
今回は、イギリス発、先進国での食品廃棄を減らし、なおかつ貧困にあえぐ住民の数も減らそうとする取り組みをご紹介します。
この会社は、イギリスで誕生し、イギリスの国内問題に取り組むスタイルの社会起業家集団です。そのビジネスモデルはどのようになっているのでしょうか?
先進国での食品廃棄
ヨーロッパと北アメリカで消費者によって捨てられる1人当たりの食料は95-115kg/年にも及ぶといわれています。また、先進工業国の消費者段階での食糧ロス(2億2,200万トン)は、サハラ以南アフリカの食料の純総生産量(2億3,000万トン)とほぼ同じです。
先進国での食糧ロスは、生産・流通段階に比べて消費段階でのロス(食品ロス)の割合が非常に高いことも特徴です。先進国では、賞味期限の近づいたものや、パッケージに傷が入っているものは出回らずに廃棄されることも多いですね。
(World Resources Institute"Working Paper"(2013)より作成)
流通・加工段階のロスを有効活用
「もったいない」、この食品ロス。何とか活用しようと、各国では「フードバンク」が行われています。食品加工工場や卸業者、スーハー、農家などからまだ充分食へられるにも関わらず、さまざまな理由で廃棄される食品を引き取って、十分な食べ物を得られない方々へ渡す取り組みです。
日本でも、NPOの「セカンドハーベスト・ジャパン」などがこの活動をしています。年々知名度は上がっていて、特に東日本大震災後は取扱量が拡大しているようです。このような取り組みは、緊急に必要にしている人たちにはとても有効です。しかしこのモデルは人々の“善意”によって成り立っています。規模の拡大は、寄付の拡大とほぼ同義です。寄付に頼る規模の拡大は、限界が出てきます。
大きなインパクトを、短期間で与えるためには、これを何とかビジネスとして成り立たせ、収益を生みだせた方がベターですね。これを実践し、食品ロスの有効活用と、貧困層の生活改善を目指したのが、今回ご紹介する、イギリスのCommunity Shopです。
良いものを、安く
Community Shopは、一言でいえば「低所得者向け」スーパーマーケットです。「お店の近隣に住んでいる」かつ「生活保護や失業保険などの何かしらの援助を受けている」人だけ限る、会員限定のスーパーです。
現在ヨークシャー地方のゴールドソープと、ロンドンの2店舗を構えています。
そこで賞味期限が近いものや、パッケージに多少の難があるものなど、通常の流通ルートには乗らなくなったもの業者から買い取り、通常価格の3割程度の価格で販売しています。販売している商品はNestleやなど品質の高い商品もたくさん含まれていますが、買い物袋一杯に食品を購入しても数百円の価格で済むような値付けになっています。
“市井”のスーパーに行けることを目指して
Community Shopがフードバンクと明確に違う点は、緊急的な援助を目的としているわけではないという点です。Community Shopの目的は、貧困の「淵」に立たされている人を救うことです。同社は、ギリギリのラインにある人が利用することで、家計の圧迫を和らげる一時的な手段という立場を明確にしています。
Community Shopでは利用者が将来的に支援に頼らず「普通」のスーパーマーケットに行けることを目指しているので、スーパーとしての役割だけでなく、債務の処理や料理の方法、履歴書の書き方、家計簿の付け方などのアドバイスも受けることができます。
「顧客」として対等に対応する
なぜCommunity Shopは販売という形にこだわるのでしょうか?
それは、利用者を顧客として対等の立場に置くことで、自分で商品を選択でき、家族へ食事が出せることこそが、彼らの尊厳を守るという信念に基づいているためです。
そのため、利用者は、不良品の返品や交換も可能です。
確かに「援助」という形では、「与える側」と「受け取る側」という上下関係がどうしても生まれがちです。特に食品などに関しては、善意で与えたものが、実は食べられる状態になかったという可能性も否定できません。
しかし、受け取った側は立場上、クレームを付けるわけにもいかず泣き寝入りになります。また、無償で受け取ることに長期間なれてしまうと、働く意欲を失いかねません。ビジネスの流れに乗せて、顧客として対等に扱うことで、この心理を解消する効果もあります。
三方よしの構図
親会社のCompany Shopは、流通ルートに乗らない廃棄食品や飲料の再流通を行っている、イギリス最大の再流通会社としてのブランドを確立しています。つまり、Company Shopと取引をすることで、きちんと社会的な責任を果たしているという証明にもなります。
またCompany Shopにとっては、この流通網をフルに活かすことで、安定的な仕入れと豊富な品ぞろえを可能にしています。そしてそれをCommunity ShopとCompany Shopの二つのルートを持つことで、再流通できる量も増加させることができます。
以上のことが組み合わさって、フードロス削減と、貧困対策を同時に達成できる、うまい仕組みが出来上がっています。自社の持つブランド力を活かし、環境問題と貧困問題に同時に取り組むよい事例ですね。
実はこのCommunity Shopのような「ソーシャル・スーパーマーケット」は、ヨーロッパ大陸ではすでに1,000以上存在しているようで、アメリカやアジアでも導入の動きがあります。
日本では、このCommunity Shopが記事となっていましたが、同様な事例はまだ見られないようです。
毎年600万トンほどの食品ロスが発生しているといわれている一方で、貧困率の上昇が深刻な問題となりつつある日本こそ、このような取り組みができる良い土壌がそろっているのではないでしょうか?