
今回は、ずばり『バイオマスで貧困改善』です。二酸化炭素の排出も少ないクリーンエネルギー、バイオマス。地球温暖化が深刻化する中で、注目を集めている分野の一つです。それと貧困の改善はどう結びつくのでしょうか?
発電所レベルの規模の電気を作るには、莫大な資金が必要になります。また、発電するには燃料を購入する必要もあります。さらには発電効率などもあるため、モノによっても向き不向きが出てくるなど、大規模化するのが難しいビジネスだといえます。
バングラデシュと牛
国土が広い国で、世界で最も人口密度が高いといわれるバングラデシュ。70%以上が農村部に住んでいて、インフラも脆弱です。現在も1億人以上が安定した電力供給を受けていないといわれています。その一方で、携帯電話は広く普及しており、2012年で65%にもなります。
そんなバングラデシュは、実は畜産が盛んで、全国で約2,300万頭の牛が飼育されているといわれています。そのため牛革の生産も盛んで、牛革を使った製品つくりで貧困層に雇用を生み出しているソーシャルビジネスも存在しています。
牛の意外な能力
牛は10頭で150kgもの牛糞を排出します。牛糞は、酸素のない環境下で発酵させることで、微生物がメタンガスを作り出し、その量は150kgで毎時5立方メートルにもなるといわれます。野積みで発酵させると、このメタンガスは大気中に放出されるだけで、地球温暖化の一因にもなってしまいます。(地球温暖化の原因第二位はメタンです。)
メタンガスで発電する
このメタンガスと、電気への需要に目を向けたのが、今回ご紹介する、バングラデシュのEmergence Bioenergy Inc.(EBI)です。EBIは、メタンガスによる発電機を用いて、この問題にアプローチしています。
EBIの発電機は、メタンガスを使ってタービンを回し、毎時3.5kw、毎日84kwの電気を供給できます。バングラデシュでは、この量で20世帯に送っても余る量だといわれていて、この電気によって、周囲の住民は携帯電話も充電できるようになり、夜または暗い場所での作業にランタンを灯すことができるようになります。
メタンガスを農家の収入源に
発電機は、EBIが契約した畜産農家に設置されます。そのため農家は初めに、ちょっとした投資と、トレーニングが行われます。そして電気は量と質に基づいてEBIが買い取ります。農家にとっては、電気が供給されるだけでなく、「ごみ」でしかなかったものを活用して、収入の向上につなげることができます。
さらに、発電時に発生した熱は、コジェネレーションシステムによって冷蔵庫に転用されます。熱帯に位置するバングラデシュでは、肉や野菜も腐りやすく、牛乳も冷蔵できなかったために3割ほどが廃棄されているという問題がありました。これを解決することで、農家の生産性も向上できます。
EBI自身も収益を上げる
このメタンガス発電では、燃料代がほぼかかりません。EBIでは、3~5ほどの契約農家から買い取った電気を、携帯電話の電波塔へと格安で販売しています。バングラデシュでは、携帯電話は全国に普及している上に、安定的な電力の需要も見込めるため、EBI自身の継続的な収入源となります。
またEBIは余剰の電力を使って携帯電話の充電やランタンのサービスなども行うほか、小規模の診療や学校などの運営もできるとしています。肥溜めで発酵させた牛糞などはもちろん堆肥としても使えます。EBIは市場価格よりも低い価格で堆肥も流通させる予定です。
(EBI-http://www.emergencebioenergy.com/より引用)
手間がかからず、汎用性も大きい製品
ビジネスモデルもとても参考になりますが、商材となる発電機もとても優れモノです。3つの理由をご紹介します。
①耐久性
EBIの発電機は、耐久性も優れていて、24時間365日稼働させ続けても8年は持ち、メンテナンスにかかる時間は年2時間ほどとされています。農家に据え置きなのであれば、このように手がかからないのは重要なポイントです。
②原料の汎用性
また、発電の原料となるガスは、メタンに限らず、炭化水素であれば何でもいいこともポイントです。この特性によって、牛糞に限らず、鶏糞や農業廃棄物などから発酵させることが可能になります。
③発電以外の用途
この発電機は、日本においてはコジェネレーションと呼ばれるCHP(Combined Heat and Power)を使ったタイプです。出てきた熱も冷蔵庫に転用できることも、限られた資源を有効に使うという点で参考になります。
四方よしのビジネスモデル
EBIは、2020年までに18,623ヶ所にこれを設置する予定です。これが達成されると、18.4トンの二酸化炭素削減にもつながると試算されています。第二回でカーボンニュートラルという考え方は、実は移動によるマイレージ(コスト)を考慮していないという点で批判されることがあります。しかし、このようにコミュニティ単位での循環型社会の形成では、その心配もありません。
また、ソーシャルビジネスやNPOに継続性がないものが多い理由の一つに、運営者の収益が確保できないことが挙げられます。今回のモデルでは、事業者(EBI)の収益源がしっかりと確保されている点も考え抜かれていますね。
このモデルによって、牛糞のリサイクルが農家の収益を生み、EBIも継続的な事業を続けられ、コミュニティには電気が得られます。その上に、肥料の農業利用にとって循環型社会の形成も目指すことができます。つまり、コミュニティレベルでも、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」に「環境よし」という、四方よしが目指せるということです。
「ごみ」でしかないものから価値を生み出すバイオマス・バイオエネルギー。もしかしたら、地球上で抱えるいくつかの問題を解決する、有力なカタチに変えられるかもしれませんね。