
今回のテーマは、「農業×ソーシャルビジネス」です。
日本の農業に暗雲が立ち込めて久しい現在。様々な問題が山積する農業ですが、この状況をなんとかしようと国や自治体だけでなく、起業家たちも立ち上がっています。
憂うべき日本農業の状況
日本の農業は、安い外国産の農作物との競争に晒され、厳しい状況に置かれている上、就業者の平均年齢の高さも問題化しています。
具体的には、食料自給率は2013年時点のカロリーベースで39%となっています。これは1989年と比べて10%減少、1965年と比べたら34%も減少しています。
また農業就業者は、2013年時点で227万人、うち65歳以上が144万人、平均年齢が66.7歳となっています。これは、5年前(2008年)と比べても、就業者が63万人減少、平均年齢は1.4歳上昇しています。
さらに、農業人口の減少に伴って問題化しているのが、「耕作放棄地」です。
耕作放棄地・耕作遊休地の多くは、農家の高齢化や後継者不足が原因で耕作を続けられなくなった土地で、「一年以上耕作されておらず、今後も耕作される見込みのない土地の」ことを指します。2009年度時点で約40万haにも上るといわれています。
せっかく農業用に開発された土地なのに、もったいない。
そこを活用する企業が、今回ご紹介する株式会社マイファームさんです。
使われていない耕作放棄地を再生する
マイファームの主なビジネスは、いわゆる「体験農園」です。週末に土地を借りて少しだけ作物を育てる、という形の農業で、少し前に新しいレジャーとして話題になったこともありますね。
マイファームの体験農園がユニークなのは、「専門家の指導付き」「無農薬有機」「農具・肥料の貸出有り」という点です。現在は、関西や関東を中心に80か所以上に体験農園を展開しています。
そんなマイファームのビジョンは、「2014年までに土に触れて野菜を作る行動を起こす人を1200万人にする」こと。実際に、体験農園をきっかけとして家庭菜園を持ったり、農業に従事するようになった方も少なからぬ人数いらっしゃるようです。
就農人口を増やす
体験農園は、農業に興味を持ってもらうにはとてもいい機会ですが、このようなことができるのは都市近郊部に限られます。マイファームさんの目的は、「耕作放棄地を減らすこと」。このままでは農村部での問題は放置されたままです。
そこで、2010年からは体験農園から、本格的に農業を学びたい方のために、「週末農業ビジネススクール アグリイノベーション大学校」を開校し、就農を目指す人の支援も行っています。現在は80名ほどが学んでおり、卒業生も300人を超え、そのうち17%が独立して農業を始めたということです。
就農して間もない人たちが収穫した無農薬有機の野菜は、買い取って「八百屋 マイファーマー」にて販売しています。(東京・京都・名古屋に店舗展開中)
「自産自消」という考え方
これらの発想の根底になるのは、「自産自消」という考え方です。
自産自消という言葉は、マイファームさんの創った造語です。自然に近づくことで得られる普段の生活では気づかない「気付き」を提供し、その人それぞれの「気付き」を通じて普段の生活を省みて自然と人間の距離を少しでも近づけてもらうこと。
このために、「体験農園」で農業の楽しみと、自分で作った野菜を味わい、「アグリイノベーション大学校」にて農業について学び、就農する。そして「八百屋 マイファーマー」によって農家の生活を保障するとともに、収穫したものを通じてさらに多くの人に興味を持ってもらう。
この「自産自消」のらせん構造によって、耕作放棄地を持続的に減らしていこうというビジネスモデルです。
発想の転換
とても簡単に考えると、農業総生産=就農人口×生産性とあらわされます。
ペティ・クラークの法則というものがあります。「経済・産業の発展につれて、産業構造は第一次産業(農林水産業)→第二次産業(鉱工業)→第三次産業(サービス業など)へ、就業人口の比率および国民所得に占める比率の重点がシフトしていく」という法則です。この法則にのっとり、今までの日本では「就農人口の減少を、生産性を上昇させることで補う」ことが議論されていました。
しかし、マイファームが注目するのは、「就農人口を増やすこと」による「耕作放棄地の減少」です。
その根底には、「農業、野菜の栽培をする楽しみ」があります。
この楽しみを通じて、農業初心者に対して農業の指導を行うなどのサービス事業から、だんだんと本質的な農業に近づいていく。
このようなアプローチ方法もあるんですね。