
近頃よく話題になる道の駅やアンテナショップ。ショッピングに出かけても「○○産」と地域の特産を売りにした商品が目立ちます。
身近にある地域の問題、より良い未来へのヒントがそこにあるのでは?と思い九州北部、筑後地域のアンテナショップとしてはもちろん経営方法やECサイトの作り方についてセミナー講師も勤めている『株式会社うなぎの寝床』代表取締役 白水高広さんにニョロリとお話を伺いました。
うなぎの寝床は、山陽新幹線の終着駅である博多駅から電車とバスを乗り継ぎ1時間半、さらに歩くこと15分の八女市福島にあります。
この地域は江戸時代に城下町として栄え、現在は国からの指定を受け、重要伝統的建造物群保存地区となっています。うなぎの寝床もその一角にあり、代表的な町家建築の妻入入母屋土蔵造りの一つです。
うなぎの寝床の真っ白な暖簾が遠くからも見えてきました。低い格子戸をくぐるとスッキリと商品が並んでいます。
うなぎの寝床
ガラス食器や竹細工・ラーメン・ダッチオーブン・線香花火・樟脳・プラセンタ化粧水・水質改善剤…
目にしたことのあるものから予想外のものまでいろんな分野のものが並び、この地域に魅力が溢れていることに気づかされます。
それぞれの製造過程や工夫について聞くとどれも知らないことが沢山あり、想像が膨らんできました。
うなぎの寝床は九州北部地域のミュージアムショップ。
「うなぎの寝床」店内
前職で国の委託事業として地域の商品開発に携わっていた白水さん。商品ができ、地域に帰ってきた時に「こんなものができたよ」と話すと
「それどこで買えるとね」
「いや買えるところはないんですけど」
という会話になり、福岡や東京などの都市部では買えるのに、地元では買えないのはおかしい。“点”として買える場所はあるけれど、まとまって見れる場所、そんな場所がいるんじゃないかなという考察が「うなぎの寝床」誕生のきっかけになったそうです。
白水)遠いのがいいと思っとって。
わざわざ来てくれる人しかうなぎの寝床には来ないので、来た人はじっくり見てくれる。
いまどきっぽい器を見に来た人が伝統工芸の桶を見れたり、若い人が親御さんを連れてきたり。四、五十代の方が息子さんと再訪されたり、世代間のギャップもある。
同じ陶器なのにそれぞれこれだけ値段が違う。百均の陶器も同じ陶器。量産して値段が下がっているだけで、焼き物を作る労力は変わらない。
民芸は分業で作って、クオリティが上がり、値段が下がるところに美を見出す。
今は産地として小さくなり、生産の総量も少なくなり作家になってきている。
同じものが一同に見れるのが重要だと思っていて。そんなことを普段考える機会があまりないのでそういう場所になればいい。
ミュージアムショップと思っています。
北永)近年、地方の物を紹介するお店が増えましたがどうしてだと思いますか?
白水)みんなが大量生産に飽きた、単純に…。地方、地方って言ってもあんまり変わってない。大量生産だったとしても結局は地方で作られているものなので
情報の出し方が変わっただけ。
根本の解決にはなってないと思うんですよね。ある程度の事業規模がないと解決にならないと思います。
事業規模を増やさないと産地を支えるどうこうではないから。
うなぎの寝床は、たまたま『もんぺ博覧会』というイベントをやった時にもんぺが沢山売れて。
要望のあった型紙を販売し、そうしたら卸をやってほしいと言われ、オリジナル生地を作って、流れに沿いながら淡々とやってきた。今は単純に総量が足りてない。伸ばさないといけないと思っている。
うなぎの寝床で発売中の"もんぺの型紙”
「ない」の原動力
大学で建築を勉強されていた白水さん。建築とかけ離れて見える地域のアンテナショップにどうしてなったのか。学生時代に疑問に思っていたことから繋がっていきます。
白水)大学時代は建物がそもそも立てる必要があるのかと言われ始めた時代で。建築科に行けば建築家になるのが目標になるけど、新しく立てるモチベーションがいまいち持てず。
作り出すより、今あるものを有効活用するだけで循環が生まれるんじゃないかと思ったのが始まりですね。
そこからデザインにも興味を持ち、勉強。手がけたパッケージデザインの仕事が新聞に載り、それを目にした福岡県庁の方が二人に声をかけてくれ県の商品開発、販路開拓の事業を担うことになる。地域の事業所に仲介役として入り、デザイナーや料理研究家さんなどと価値に見合ったパッケージ、新しい視点からの物づくりを進め60件ほどのプロジェクトを動かしていたそうです。
北永)今後どのようにうなぎの寝床は展開していくのでしょうか。
白水)うなぎの寝床に対する思い入れないですね。
北永)え?思い入れないんですか?
白水)思い入れがないというのは重要で。聞き過ぎたらできないことが多い。
人の話を聞かない。
もともと情熱がある方じゃないんですけど、地域のアンテナショップという機能が一定のエリアにあったら地域の掘り起こしができるんじゃないかという仮説を実験的に3、4年やってみてる感じですね。
ビジネスプランもないです。
いやない。
長期計画もない。
ビジネスプランてほどじゃないんですけど、最低限は動くように。
需要が増えた時に追えるシステムは作っていくつもりです。アンテナショップの規模としては今ぐらいで丁度よくて。見れる場所があるってことが重要なので
長く続けていく。
僕は外向きじゃない。
こういうことがやれてないというのはいっぱいあるんですけどね。
北永)あの素敵なHPもご自身で作ってるんですか。
白水)サイト作りもグーグルさんに聞きながら。笑
HPは位置付けだと思っています。
デザインをやっていると言うより、どういうコミュニケーションが取れるかの設計をしています。
引っかかるように作っている。
コミュニケーションが取りたいわけじゃないけど、コミュニケーションが生まれないと金銭も議論も生まれない。
相互関係的なイメージです。
一方的。求めてない。
こっちから、乱暴に、話しかける笑
白水さんって「調査・観察・実験」が好きなんですね。
「うなぎの寝床」代表取締役 白水さんとの対談
白水)基本的に実験が好き。人間観察が好き。心理系のことが好き。
仕事は実験的にやったらどうなるかを試してる感じ。うまくいくかわからんことが好き。
北永)普通の人はそこに動き出す力がいると思うんですが。
白水)僕は同じことをやるほうがストレス。
ないなら誰かやったほうがいいのでやるか、と。
起業したのも就職したくなかったから。
やりたくないことを蹴って
単純に社会に適合できなくて、個人でやってるってだけ。
就職するつもりもなかったですね。
起業するしかないと思っていた。
するものだと思ってた。
やりたくないことを削ったら自分でやってた。どうにかなるんじゃないかって楽観性があって。
グーグルさんに一生懸命聞いて、失敗積み重ねて。チャレンジはしてると思いますけど。
最終的にはその人次第。
いろんな能力の人が集まればいいと思っている。いろんな視点で地域を分解できたら面白い。その人が考えて実行したほうが絶対いい、その人の能力が活きる方向に持っていったほうが絶対いいと思ってる。
決めつけない。
僕は資金調達係だと思ってるので、ある程度資金を担保したり、全体の決定をする係、社長係。相互依存はしたくないから、干渉しないように。
仕事として、小さいところと大きところを見て。中間は見ない。
人間は基本的に怠け者だと思っているから。
なので、それも実験です笑
北永)起業したい人に向けて一言お願いします。
チャレンジ、やってみるしかない
「うなぎの寝床」代表取締役 白水さん
やってみる。
やってみてダメな人もおるし
事業計画を立ててうまくいく人もいるし
とりあえずチャレンジしてみる。
それぞれに合ったやり方をやるってのがいいけど人のことはわかっていても自分のことはわからんってことがあるのでやってみるしかない。
いっぱいやったほうがいい。
いっぱいやってるほうが絶対強い。
賢い人たちは効率よくやるので総量で負けないように頑張ってる。
北永)私がうなぎの寝床に出会ったのはやはり“もんぺ”からだったと思います。
こんなスタイリッシュなもんぺがあるんだと変化球を投げられ、これは履いてみたいなと思いました。
それからうなぎの寝床はじわじわと気になる存在となり、白水さんの考えに惹かれ、共感していきました。
今日は考えの根っことなるお話を伺え、これからがますます楽しみです。ありがとうございました。
「うなぎの寝床」のもんぺ
八女という交通の便がない、人が歩いていない、ないないだらけの町で新しいものは作りたくない、就職したくない、起業するしかないと思いできたお店。「うなぎの寝床」
「ない」ということがこんなに力強いと思ったことは初めてかもしれません。
自分を知ることで自分にないものが見え、他人にあるものが見えてきます。
あるものとあるものを生かしてチャレンジする。やってきた人の言葉は大きいです。
できない、時間がない、わからない、知らない、「ない」の可能性を信じてないない言いながら、ないを知り「ある」に生まれ変わらせることを楽しんでいきたいと思います。
白水高広(しらみず たかひろ)
1985年佐賀県生まれ、大分大学工学部建築学科卒業。厚生労働省が行う事業「九州ちくご元気計画」で筑後地域の農商工、行政関わらず、いろんな方と関わり合いながら、商品開発やブランディング、企画などを行う。うなぎの寝床ではデザイン・企画・情報発信を担当する。
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