日本は、自然災害と隣り合わせの国。そして、その被災地で必要とされているのが「災害ボランティア」です。

私は災害があった時にさっと現地にかけつけるボランティアの皆さんを見て、その行動力に感銘を受けています。なぜならボランティアは、時間やお金に余裕がなければできない活動だと思うからです。

読者のみなさんの中にも、もしかしたら私のように「ボランティアをする人はすごい」と思いつつも、「仕事を休んでまで行くのは…」「休日も予定があるし…」「交通費がかかる」といった不安から動けない人もいるのではないでしょうか。

もしこの不安を、会社が一部でも担ってくれたら——?

今回はそんな、会社が社員のボランティア精神を応援しているボーダレス・ジャパンの事例をご紹介。大手企業でよく見かけるボランティア休暇制度を、スタートアップばかりがそろう会社ではどのように運用しているのでしょうか。

メンバー主導で動き出した、ボーダレス・ジャパンのボランティア休暇制度

まずは、ボーダレス・ジャパンのボランティア休暇制度を支える、バックアップスタジオ人事労務チームの陳 徳華さん(以下、陳)に、制度の内容を詳しくうかがいました。

 

—— 「ボランティア休暇制度」なんて、とりあえず就業規則に書かれているだけのものだと思っていました。

陳 ボーダレスジャパン そんなことはありませんよ。 ボーダレスでは、年に12回、出勤日の丸一日を緊急度の高いボランティア活動にあてられるボランティア休暇制度を整えています。

—— 出勤日ということは、給料も出るのでしょうか?

陳 ボーダレスジャパン もちろん出勤扱いですので、通常通り給料が発生します。また活動先までの往復交通費とボランティア活動中のケガに備えて加入するボランティア保険の費用も、会社負担です。

—— 往復交通費と保険代まで会社が出してくれるんですね! そもそもボランティア保険の存在を意識したことすらありませんでしたし……。

陳 ボーダレスジャパン ボーダレスの場合、社員はみんな災害ボランティアに行くので、危険がともなう可能性もあります。安全対策としての最低限のサポートが、ボランティア保険なんです。

—— 会社が交通費も負担してくれて、しかも安全面まで考えてくれるなら、ボランティアに参加するハードルが一気に下がりそうです。とはいえ、その都度ボランティア保険の加入手続きをするのは大変ではありませんか?

陳 ボーダレスジャパン ボーダレスが加入しているのは、社会福祉法人全国社会福祉協議会のボランティア活動保険です。この保険は年度ごとの加入なので、1度加入してしまえばその年度内はずっと補償が摘要されます。またWEB上ですぐに手続きが完結するため、大変だと感じたことはありません。

ボランティア保険

—— そのような手続きが比較的スムーズに済むと、社員はすぐにボランティアに参加できて、制度を運用する側も活動に向かう社員の背中を押しやすくなりそうですね。ちなみにこの制度が始まったのは、会社設立当初からなんですか?

陳 ボーダレスジャパン 2018年の九州北部豪雨の際、福岡オフィスの社員から「ボランティアに行きたい」という声が挙がったことをきっかけに、今の制度の前身が始まった感じです。

—— はじまったばかりの頃は、どんな運用をしていたんですか?

陳 ボーダレスジャパン 九州北部豪雨の時は、メンバーそれぞれが上長に口頭でボランティアに参加する旨を伝え、保険加入をしていました。しかしこれでは社員の安全が心配ですし、社内にボランティア活動のノウハウがたまりません。だから2019年の関東地方を襲った台風被害のボランティアの際に、東京オフィスの有志メンバーが中心となり、今回の提出書類や申請フローを決めました。

—— すべてメンバー主導で、動き出した制度なんですね!

 

ボランティア休暇 申請用紙▲ボーダレスグループで実際に使用されているボランティア休暇申請用紙

ボランティアの一歩を踏み出せたのは、仲間のおかげ

メンバー主導で動き出した、ボーダレスのボランティア休暇制度。そこで次は2019年の関東台風の際にボランティア休暇制度をより使いやすくするために動いた社員のみなさんにも、話をうかがいました。

【話を聞いたメンバーのみなさん】

神代 ボーダレスハウス 神代 悠夜(以下、神代)
ボーダレスハウスのメンバー。今回のボランティア休暇制度プロジェクトのリーダーを担う。

河原木 ボーダレスキャリア 河原木 里遊(以下、河原木)
ボーダレスキャリアのメンバー。今回はじめてボランティアに参加した。

常深 ボーダレス・ジャパン 常深 孝仁(以下、常深)
ボーダレス・ジャパンのバックアップスタジオメンバー。なんでも手伝ってサポートがんばる雑用スペシャリスト。

JOGGO ビュエル Aiko Buell(以下、ビュエル)
JOGGOのメンバー。今回はタイミングが合わず、ボランティアには参加できなかったが、次回以降の参加を予定している。

石川 AMOMA 石川 えりか(以下、石川)
元ボーダレス・ジャパンの採用担当で、AMOMAのメンバー。現在は福岡で修業中のため、今回のボランティアには参加できなかった。

ボランティア休暇制度の明文化は、防災意識をもっと気軽に持てるようにしたかったから

八王子 台風 被害▲ボランティアに参加したボーダレスメンバーが見た、八王子の被害状況

—— みなさんはなぜ、被災地でボランティア活動をしようと思ったのですか?

常深 ボーダレス・ジャパン 今回の災害があって、自分に何かできることはないかとネットで情報を探していたんです。そんな時、八王子市が「誰でもいつでも来てください」と発信しているのを見かけ、被害状況がどうなのかとあれこれ考えず行くべきだと思い参加しました。

—— ボーダレスの中には、みなさんのようにボランティアに参加したいという意識を持った人が結構いるんですか?

河原木 ボーダレスキャリア 就業時間内のボランティア活動は福岡オフィスのメンバー主体で始まったので、社内にはボランティア精神を持った人がたくさんいると思います。僕も、一緒に働く仲間たちのボランティアに参加したい気持ちや行動力があったからこそ、今回の活動に参加できました。きっとひとりだけだったら動けていなかったと思います

ボーダレス・ジャパン ボランティア▲会社の仲間となら、はじめてのボランティアの不安も軽減できる!

—— 私もボランティアにひとりで参加するとなると「私ひとりにできることなんて限られている」「何を準備していいか分からない」と考えてしまって、行動に移せない気がします。誰かと一緒にボランティアに参加できるのは、行動に移すきっかけとなるかもしれませんね。ただボーダレスでは、以前から社員同士が声をかけあってボランティアに参加していたんですよね? わざわざ制度を明文化しなくてもよかったのでは?

神代 ボーダレスハウス たしかにボーダレスではすでに、事業の垣根をこえたメンバーがそろって、被災地でボランティアをしていました。ただ私は、社会問題の解決に真剣に取り組む会社が災害時に迅速に動ける制度を当たり前のものとして整えていれば、世の中の人や企業も災害・防災意識をもっと気軽に持てるようになるのではないかと思っていて。だから今回、「ボランティア休暇制度の明文化」を提案したんです。

河原木 ボーダレスキャリア ひとりでボランティアに参加するのもとてもすばらしい行動力だと思います。ただ会社としてやるからには、その活動をより効果的に進めていきたい。だから複数人で被災地に向かい、そこで得た情報やノウハウをきちんと共有するために、申請用紙やルールを新たに決めました。

—— 制度を分かりやすくすることで、会社という団体だからこそできるボランティアへのアプローチが期待できそうです。

私のアクションが、誰かの「ボランティアに参加したい」のきっかけとなる

——とはいえ、ボランティアをする日は仕事ができないわけですよね? 不安はなかったのでしょうか。

常深 ボーダレス・ジャパン 僕は今回の活動に参加するにあたり、周りの人にボランティアに参加したいと思ったいきさつも含めきちんと伝えました。するとみんなは僕の仕事もカバーするよと言ってくれたんです。だから安心してボランティアに専念できました。

神代 ボーダレスハウス 私の場合は個人で担当している仕事が多く、出勤日の1日をボランティアにあてても他の日で調整できたため、そこまで不安を感じませんでした。また私が働いているボーダレスハウスのアルバイトさんは、自分も参加したいと思ってくれたようです。私の行動が誰かの行動のきっかけとなったようで、うれしかったですね。

—— ちなみに雇用形態が社員でない人も、その制度は活用できるのでしょうか?

神代 ボーダレスハウス そこは、事業次第だと思います。事業のフェーズにもよる部分ですので。そこの判断は申請の段階で、上長の承認にお任せしています。

JOGGO ビュエルあとはやはり担当している仕事によっては、予定している日程で参加するのが難しい人もいます。私はJOGGOでオペレーションのマネジメントや顧客対応をしている関係上、どうしても職場を離れにくいんです。だからといって参加してはダメな雰囲気は全くないので、タイミングの調整さえすれば十分に参加できる環境がボーダレスにはあると思っています。

—— 就業時間内のボランティアをあと押ししてくれる仲間の存在も、「自分もボランティアをやってみたい」と思えるきっかけになるんですね!

現地に行ったからこそ得られたものがある。たとえ、腰を痛めても…

八王子 台風 被害▲実際に被災地に行かなければ知りえなかった光景が広がる

—— 仲間のあと押しを受けて行った被災地での活動は、どんな感じでしたか?

常深 ボーダレス・ジャパン 今回八王子でボランティアをするにあたり、事前に現地の被災情報を収集をしていたのですが、ほとんどニュースにはなっていなかったんです。しかし実際に現地に足を踏み入れると、川が氾濫していて……。ニュースに取り上げられていないだけで、実際はとても大きな被害に苦しんでいる人がいる事実を知りました。

神代 ボーダレスハウス 八王子がある高尾エリアは、台風被害があった地域の中でも比較的復興が進んでいると言われていた場所でした。そんな場所でもこんなにも大変な現状があるんだなと感じましたね。

—— 八王子以外にも、ニュースにあまり取り上げられていないけれども実際の被害が甚大な地域はたくさんありそうですよね。

河原木 ボーダレスキャリア被災の現状ももちろんなんですけど、それ以外の気付きもあって。実は僕、今回のボランティアのあとに腰を痛めてしまい、4日間動けなくなったんですよ(笑)。僕らは今回、ひとりで生活されているおばあさんの家に入り込んだ土砂を撤去する作業をしたのですが、災害ボランティアで使う体力は想像以上でした……。

神代 ボーダレスハウス 私は他の災害ボランティアには参加したことがあったのですが、体力を使うタイプのボランティアは今回がはじめてでした。だから、次の日めちゃくちゃ腰が痛かったです……(笑)。

—— 腰へのダメージがすごいですね……。

ボーダレス・ジャパン ボランティア▲確かにこれは、腰に大きな負担がかかりそう……

河原木 ボーダレスキャリア 体力的にはきつかったのですが、活動自体はとても楽しんでできました。現地で出会ったボランティアのみなさんを話す時間もあって。「誰かを助けたい」という想いを持った人のポジティブなエネルギーに触れられたので、参加してよかったと思っています。

神代 ボーダレスハウス 私も今回お手伝いをしたおばあさんに、ボランティアの人に話を聞いてもらえるだけで元気になると言ってもらえてうれしかったです。本当は弱音を吐きたいけれども、周りの人も被災しているからなかなか口に出せないそうで……。被災地では、体力的なボランティアだけでなく精神的な支えも必要とされているんだなと感じましたね。

—— 現地に行ったからこそ得られた知識やノウハウ、また「もっとこうしておけばよかったな」と思ったことがあれば教えてください。

常深 ボーダレス・ジャパン 僕は、服装や装備、現地の情報についてもっと調べるべきだったと思っています。当日はスニーカーで参加したのですが、はけなくなりました(笑)。今回がはじめてのボランティアだったので知識が足りないのは多少仕方ないにしても、最低限の心構えはもう少し入念に調べておけばよかったかなと。

ボーダレス・ジャパン ボランティア▲この白のスニーカーとはこのボランティアでさよならしたそう……。

—— ちなみに今回の災害ボランティアで準備した装備には、どれくらいの費用がかかりましたか?

神代 ボーダレスハウス 私はちょっといい長靴や厚手のゴム手袋をそろえて合計6,000円くらいでした。これだけでも私たちがした土砂撤去作業はできましたよ。防塵マスクやゴーグル、踏み抜き防止靴底をそろえれば少し高くなるとは思いますが、それでも5,000円以内でおさまるのではないでしょうか。 

河原木 ボーダレスキャリア僕はゴム手袋のみだったので、350円でした。僕らがボランティアに行った八王子では、参加する団体が長靴以外のヘルメットやマスク、ゴム手袋などの装備はある程度そろえてくれていたので、自分であれもこれも準備する必要がなかったんです。もちろん自分で持っていく装備は参加する団体によって異なるので、調べておく必要はあると思います。

—— 災害ボランティアに必要な装備には、結構費用がかかるイメージがあったので、とても意外でした。

河原木 ボーダレスキャリア 必要な装備に関しては、僕らも行ってからはじめて分かったこともたくさんあったんですよ。意外に社協がそろえてくれている事実もそこに行ってはじめて知りましたし、逆に「こういうものがあったらよかったな」と気付きました。何が必要かについては、いろんな被災地での活動を通して情報を集め、次の段階のノウハウとして考えていけばいいと思います。

—— 心構えも、ボランティア活動を続ける中で整えていけばいいんですね!

神代 ボーダレスハウス ボーダレスでは、一度に全員がボランティアにいくわけではないので、装備の貸し借りもできるんです。実際に私も、次の週に行くメンバーの足のサイズが一緒だったので、長靴を貸しました。会社としてボランティアに参加する人をあと押しする制度を作るのは、情報も装備も共有できる点でもメリットだと思います。

 

一緒に行こうぜ! 情報をシェアして、ボランティアに参加したいメンバーの背中を押したい

ボーダレス・ジャパン ボランティア

—— ボランティア休暇制度を使ってみての感想も教えてください。

河原木 ボーダレスキャリア ボーダレスのボランティア休暇制度は、とてもすばらしいと思っています。これまでいろんな会社に勤めてきましたが、出勤日を利用して、保険にも加入してもらえて、現地までの交通費も経費にできる制度のある会社はなかったので。もちろんボランティア休暇がある会社もあったのですが、使われているのを見ませんでした。

—— それはそういう休暇制度があること自体、周知されていないからですか?

河原木 ボーダレスキャリア おそらく、制度があるのはみんな知っていたと思います。ただ、平日は仕事が忙しいし、休日はその疲れを癒したいから、行動に移せなかったんだと思います。他の会社での取り入れ方を見てきたからこそ僕は、この制度が少しでも活用されていることを噛みしめていきたいなと。

—— 逆に、もう少し改善していきたいなと思う部分はありますか?

常深 ボーダレス・ジャパン やはり、もっと多くのメンバーに活用される制度にしていきたいですね。そのためには月に1回ボランティア活動日を決めて、僕らが中心となりメンバーに声をかけていく必要があるかなと。

神代 ボーダレスハウス 今回このように制度が明文化されて、ボーダレスから2週連続で被災地にボランティアに派遣できました。しかし3週目以降は、その動きが途切れてしまっている現状もあります。だから制度をもっと積極的に使ってもらえるよう、制度の「見える化」を図っていく必要があると思っています。

—— 制度の「見える化」ですか?

神代 ボーダレスハウス メンバーのボランティアをしたい気持ちをあと押しする何かを作っていけたらと。例えば、今ボランティアを必要としている地域の情報をまとめた『災害通信』をメンバーに毎週配信して、参加者を募るとか……。

石川 AMOMA 参加したことをシェアする機会が増えれば、「ボランティアに行きたいけれどもどうしたらいいか分からない」人の背中も押せるかもしれないですよね。現状の2回で終わってしまっているのはもったいないと思うので……。

—— 制度をもっと活用してもらうための工夫に、これから取り組んでいくんですね。

河原木 ボーダレスキャリア 工夫とまでは言いませんが、「一緒に行こうぜ」と言いやすいのは、会社でボランティア休暇を取り入れるメリットだと思うんですよね。今回はボランティアに行こうと言って翌週には動いたため限られたメンバーの参加になりましたが、次からは日程の告知などを含め早めに声かけもできると思っています。ちなみに僕は来月、またこの制度を利用しようと思っているんですが、誘おうと思っているメンバーがいますよ。

—— 3回目の取り組みも、すぐに動き出しそうですね!

ボランティア休暇制度を、みんなにとって興味が湧くいい制度に

ボーダレス・ジャパン ボランティア

今回の取材を通して、会社がボランティア休暇制度を取り入れることは、「ボランティアをしてみたい」と願う社員の背中を押す意思表示になりえると感じました。ただし制度を活用してもらうためには、社員の気持ちに寄りそう運用も必要だと思います。

「休日は自分の時間を大切にしたい」には、出勤日を利用して参加できるように。
「ひとりで参加するのは、少し不安」には、ボランティア日を設け、仲間と行けるように。
「お金の負担があるのは正直きつい」には、交通費や保険代を経費として計上して対応。
「仕事を休んでまで行くのは……」には、社内のフォローアップ体制を整えて。

本来ボランティアは自分から進んで社会や人のために無償でアクションを起こす人を指す場合が多いと思います。だから上記のような気持ちを持つこと自体ずれていると思う人もいるかもしれません。しかしその感覚が、ボランティアに参加するハードルをあげているとしたら……?

ボーダレス・ジャパン ボランティア

だからまずは、時間や費用面、精神的な不安を少しでも軽減し、ボランティアに参加しやすい環境を整えて、ひとりでも多くの人のボランティアアクションを応援することからはじめてもいいのではないでしょうか。

またボーダレス・ジャパンでも課題にあがっていたように、せっかくボランティア休暇制度をもうけても、より多くの社員に活用してもらえないかもしれません。だから社内で事例を共有する機会をつくることも、ボランティア休暇制度の活用率を高めるためには必要だと感じました。

「気軽に参加できる」サポートと「あの人も行ったんだ」という事実が、誰かの「ボランティアをしたい」気持ちをあと押しする——。そんな制度を社員と会社が一丸となって作れたら、ボランティア休暇はどの社員にとっても興味が湧くいい制度になるような気がします。

インタビュー・執筆 / クリス
福岡在住のフリーライター。ボーダレス・ジャパンを4ヶ月で退職し、いまはパートナーとしてインタビューや執筆を手掛ける。愛猫“雛”をおなかに乗せソファに寝っ転がってアニメを見たりマンガを読んだりする時間が至福。仕事よりもこちらに時間を割きすぎる傾向があるが、やるべきことはやる。企業の採用コンテンツやブライダル、アニメなどのメディアでも執筆。