皆さんは、難民と聞いて何を思い浮かべますか?

2016年のリオデジャネイロオリンピックに難民選手団が出場したことを覚えている人もいるかもしれません。

では、日常生活で難民のことを最近考えたのはいつでしょうか?

そもそも考えたこともない、という人もいると思います。私はというと、ニュースなどで難民の現状を知りとても大変な問題だという認識はするものの、すぐに他のことに思考がいってしまい、行動どころか考えることすらほとんどありません。

しかし「大変な問題だ」と感じたのは事実です。そこで今回は、難民問題の実態と解決のためにできる行動について考えていきます。

そもそも難民とは? なぜ社会問題なの?

難民とは、『難民の地位に関する条約(以下、難民条約)』の第1章 一般規定 第1条で定義された人たちのことを指します。

“人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができない者またはそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを 望まない者。”

※難民の地位に関する1951年の条約 第1章 一般規定 第1条【「難民」の定義】より引用 国連UNHCR協会

つまり、紛争や深刻な人権侵害などからそれまで生活していた母国から強制的に逃げざるを得なくなった人が「難民」と定義されているのです。また避難しなければ命が危ないという状況は難民と同じではあるものの、手続きの関係などで国外に出ない、出られない人は「国内避難民」と呼ばれています。

refugees※画像はイメージです Photo by Priscilla Du Preez on Unsplash

 

ここでよく誤解されるのが、経済的な自立を目指すなどの理由で母国を出た人。あくまで難民は、家や仕事があったにもかかわらず理不尽な迫害により大切にしていた場所からほぼ強制的に出なければ命が危険にさらされてしまう人を指すため、自ら希望して国を出た人は難民と同義ではないとされています。

難民が世界全体の問題として認識されるようになったのは、第1次世界大戦の頃。ロシア革命やオスマン帝国の崩壊などで難民が急増したことで、世界から注目されるようになりました。さらに第二次世界大戦中にはホロコーストが起き、難民を守る必要性がより高まったのです。

そして現在、世界には7,080万人の難民がいます。この人数はなんと、日本人口の半数を超えているのです。

難民が生まれる背景には、政治体制、歴史、民族や宗教の対立などがあります。つまり難民問題は、その国、その地域だけの問題ではなく、全世界で解決に向けて取り組まなければならない問題だと言えるでしょう。

 

【難民問題をもっと詳しく知るためのおすすめサイト】

認定NPO法人 難民支援協会 「難民を知る」
なんとかしなきゃ!プロジェクト 「今さら!?聞けない 難民問題、ポイント解説!」

 

不透明だから分からない!? 日本における難民問題の現状

全世界共通の問題である難民問題。日本も1981年に難民条約に加入しているので、難民の受け入れをしています。

このように国がこの問題の解決に向けて長年行動しているにもかかわらず、難民問題を「どこか遠い国の問題」のように感じてしまうのは、なぜなのでしょうか。

その原因に迫るため、経済的貧困、社会的孤立から抜け出せない日本の難民の問題解決を目指す事業を展開している『ピープルポート株式会社』の青山明弘さんに、日本における難民の現状や問題の本質について聞いてみました。

 

ピープルポート青山

 

—— 難民問題が日本にも関係のある問題だと言われても、正直ピンとこないというのが本音でして……。

その感覚は、日本においては割と普通ではないでしょうか。今難民と聞くとシリアが思い浮かぶ人が多いと思いますが、この国は中東という日本から遠く離れた位置にあります。その国で起こっていることを自分ごととして考えようと言われても、難しいという人がいて当然だと思いますよ。

 

—— そんな遠い国にいる難民の人は、なぜ逃れる場所として日本を選ぶのでしょうか?

そもそも難民の人々の中には、逃れる国を選べない人もいるんです。実際、ビザがおりた国がたまたま日本だったという場合が多々あります。

しかもその逃れた国で必ず難民として受け入れられないこともあります。特に日本は難民の受け入れ制度が、国連の人権関連の委員会から是正を受けるほど厳しいんです。ちなみに2018年に、日本で難民として受け入れられた人の人数をご存じですか?

 

—— もちろん、知りません……。

10,403件の難民申請に対し、難民として認定されたのはたったの42人なんですよ。

 

難民申請
※平成30年における難民認定者数等についてより引用(2019.3) 法務省

 

—— え!? 少なすぎませんか? 

認定される人数が少なすぎることが、「どこか遠い国の問題」だと思わせるのを加速させていると思うんです。

また難民の人がこの認定を受けるのに、申請を出してから平均して2~3年くらいかかっている現状もあります。長い人になると、10年を超えている人もいるくらいです。

しかもこの認定の可否の基準は外に公表されていない上、認定がおりなかったときにその理由を尋ねても回答は絶対にもらえません。

 

—— 不透明すぎる……。

制度の中身がオープンでないこともきっと、難民問題を近くに感じられない原因になっているような気もしています。

 

—— 確かに制度の中身がよく分からないものは、触れちゃいけないのかなとすら思ってしまうかもしれません。あとそもそもの話なのですが、難民を受け入れないといけない理由って何かあるのでしょうか。ほら日本って、自分の国のことでもいっぱいいっぱいな雰囲気があるというか……。

確かに自分の国のこともままならないのに、という意見があるのも分かります。ただこれを自分に当てはめて想像してもらったら、隣に倒れている人がいたとして声をかけない人ってそうそういないと思うんですよね。たとえ自分に余裕がなかったとしても。

 

—— 確かに人として、そこは無視できません。

そういう無視できない現実が世界のあちこちで起こっているんです。

 

難民※画像はイメージです Photo by pixpoetry on Unsplash

 

—— とはいえ、その難民の受け入れにはお金のハードルもありますよね?

それはもちろんあります。ただしそこを受け入れる側の負担だと思ってしまう感覚が、僕はずれているなと思うんです。

難民の人々の中には、本当にすぐれた人間性とスキルを持っている人がたくさんいます。もしその人たちのスキルが企業が欲する人材像とマッチングしたら、その会社の成長につながりますよね。もしかしたらその人のスキルが、新たな事業を生むきっかけになるかもしれません。

つまり難民を受け入れることは、その国のダイバーシティー化を推し進めるだけでなく、経済を成長させる可能性も秘めているんです。実際にヨーロッパでは、難民との共生による経済成長の見通し(※)を立てていました。

※参考:2017年までにEUに難民300万人流入、成長押し上げ見込む=欧州委 /REUTERSロイター

 

—— そうなると人材不足にあえいでいる日本は、真っ先に難民との共生をはかりたいはずでは?

でも現実、日本人と同じように安定的に日本で暮らしていくために必要な難民認定は、難民申請をしたうちの0.4%の人にしかおろされていません。しかも認定されるまでの期間には、6カ月ごとのビザ更新が必要など、慣れない場所にもかかわらずとらなければならない手続きがたくさんあるのです。

 

—— ちなみに申請してから認定がおりるまでの間、日本に来た難民の皆さんはどうやって生活しているのでしょうか?

難民申請後は日本政府からの支援金が受けられるようになっていますが、これも結局申請後すぐに受給できるわけではなく、数カ月後にやっと支援してもらえるという状況です。だから日本に命からがら逃れてきても生きていくのがやっと、という人も少なくありません。

難民受け入れ※画像はイメージです Photo by Maria Teneva on Unsplash

 

—— 支援を待つだけでなく、それこそ働くという選択肢もあるのでは?

難民申請中の人が日本で働くためには、就労許可が必要なんです。しかもこの就労許可は来日してから最短で6カ月後にしかおりません。だから日本に来た難民は、数カ月間収入がないこともめずらしくないのです。

そして就労許可がおりたとしても、就ける仕事のほとんどが肉体重労働。命の安全を求めてやってきた日本で、命の危険と隣り合わせの危ない職場で働いていたり、給料がもらえなかったりと劣悪な環境に置かれている人も多いのです。

また難民認定がおりた人でも、日本語でのコミュニケーション面への不安からなかなか就職が決まらない現状もあります。難民が日本で働くには、まだまだ乗り越えなければならないハードルがたくさんあるんです。

 

難民問題解決に向けて、私たち一人ひとりにできること

—— 聞けば聞くほど、「日本、何やってんだ。対応が遅すぎる」と思わざるをえないわが国における難民問題。一方でやはり、政府でなければ解決に向けた動きができないのかなとも思うのですが……。

難民問題は国と国との関係も絡んでくるため、政府主体で動かなければ大きな変化が期待できない問題でしょう。しかしその政府を動かすのきっかけとなるのも国民です。だから日常生活の中で私たち一人ひとりにできることは、もちろんあります。

 

—— 私が思いつくのは、やはり寄付金の支援なのかなと。

もちろん寄付金は解決に向けた大きな力となるでしょう。国連UNHCR協会ではシリアの難民を救うために、難民支援協会では日本国内にいる難民の生活・就労・自立のために、寄付金を募っています。

【寄付金募集ページ】

unhcr donate
国連UNHCR協会

refugee kifu

難民支援協会

 

それから日本語でのコミュニケーションが就職のハードルとなっているため、日本語教室などを会社や有志で実施するのも1つの手だと思います。ピープルポートでもこれから実施予定です。

また難民の現状を知ることも、解決のための第1歩だと思います。

 

—— 確かに「なぜ日本に来たのか」「何に困っているのか」という部分が分からなかったら、支援しようと思うところまでたどりつかないですよね。

問題を知ることで、どんな支援の仕方があるかについても把握できますよね。

また知る方法として僕は、難民の人々と直接交流することも大切だなと思っています。やはり問題の渦中にいる人から実体験に基づく話を聞くことで、問題理解の深度が変わってくると思うんです。

 

—— 難民の人たちと話すには、どういう場所に行けばいいのでしょうか?

例えばNPO法人のWELgeeでは、WELgeeサロンという難民の方と出会い語る場を定期的に設けています。ピープルポートでも、働いている難民のメンバーと工場見学会で話せますよ。

またこういう場を設けると、「難民問題について学びを深めなければ」と意気込んでしまう人もいます。もちろんその姿勢も大切ですが、友達と遊ぶときのように気軽に会話を楽しんでもらえたらいいんじゃないかなと思います。ピープルポートの難民メンバーは本当に気さくでおもしろいやつですよ(笑)。

 

ピープルポート

—— どこか遠い国のことだと思っていた難民問題だから妙に構えていたのですが、なんだか肩の力が抜けたような気がします。

おそらく難民の人々も、そういう気軽なコミュニケーションを求めていると思います。

というのも、日本にいる難民は孤独なんですよ。難民同士のコミュニケーションはあったとしても、逃れた先の国の人との交流はほとんどありません。その国の人とのコミュニケーションが育まれていないことで、難民受け入れが進んでいるドイツでは、事件があった時に難民が疑われるというトラブルも実際にあったそうです。

 

ピープルポート※ピープルポート新メンバー加入時の写真

 

その国の人、難民という垣根を取り払って交流を深められればきっと、その人となりに触れられます。人となりを知れば、その人に何かあった時に手を差し伸べられますよね。反対に自分が困った時に、出会った難民の人が救ってくれるかもしれません。

もちろん、難民問題を知るために友達にならなければならない、というわけではありません。あくまで友達になるのは、気が合うかどうかという、一般的な友達づくりと同じ過程を踏めばいいんです。

自分のことを知ってくれている人がいることが、日本にきた難民の人を支える力になると、僕は思っています。

 

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「目の前の人を助けたい」

難民問題について知る中で、この至ってシンプルな想いに基づく行動が、問題解決のための最短ルートなのかもしれないと感じました。

また青山さんに話を聞く中で、自分の中にあった潜在的なヘイト意識が浮き彫りになったとも思っています。

「自分のこともままならないのに、他の国の人のことなんて……」

「ましてやそこに、税金が使われているなんて……」

と口には出さないものの、心の中で思っていたことが取材を通して出てきたのです。難民問題に限らずあらゆる社会問題を知ることは、自分の中に眠る“見直したほうがいい感覚”と向き合うチャンスだということも、今回の調査を通して学びました。

難民の人だって好きこのんで国外へ避難しているわけではありません。本当は自分が生まれ育った国で暮らしたいと願っているでしょう。理不尽な迫害は、そんな願いをたやすく奪ってしまうのです。

体も心も傷ついた難民の人々のために、1人ができることは小さなことかもしれません。しかしその1人の行動が広がりをみせれば、より多くの難民が日本でも生きていく希望を見い出せるのではないでしょうか。

 

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また、難民問題を知る方法は自分で調べたり聞くだけではありません。『アレッポ 最後の男たち』『僕の帰る場所』『ヒューマン・フロー 大地漂流』『ミッドナイト・トラベラー』など、難民問題を題材としたさまざまなドキュメンタリー映画で知る方法もあります。

国連UNHCR協会では、「UNHCR WILL2LIVE映画祭」を開催し、難民の生き抜く意志を多くの人に発信していました。

 

BORDERLESSNIGHT

 

またボーダレス・ジャパンでも、ドキュメンタリー映画上映会+トークショー「BORDERLESS NIGHT」を毎月開催中。東京・大阪・福岡の3会場で『アレッポ 最後の男たち』『僕の帰る場所』の上映が予定されています。ぜひこの機会に参加してみませんか?

※上映作品は変更されることもあります。最新情報をご確認ください。

 

■BORDERLESS NIGHT最新情報はこちら
https://www.borderless-japan.com/borderless-night/

■『アレッポ 最後の男たち』予告編

■『僕の帰る場所』予告編

ピープルポート事業紹介

ピープルポートホームページ

 


【参考】
・ 「難民を知る」 認定NPO法人 難民支援協会
・ 「今さら!?聞けない 難民問題、ポイント解説!」 なんとかしなきゃ!プロジェクト


インタビュー・執筆 / クリス
福岡在住のフリーライター。ボーダレス・ジャパンを4ヶ月で退職し、いまはパートナーとしてインタビューや執筆を手掛ける。愛猫“雛”をおなかに乗せソファに寝っ転がってアニメを見たりマンガを読んだりする時間が至福。仕事よりもこちらに時間を割きすぎる傾向があるが、やるべきことはやる。企業の採用コンテンツやブライダル、アニメなどのメディアでも執筆。