服が好きすぎて、500万借金。

これは現在、服を通して人のため社会のためになる事業を立ち上げ中の社会起業家 植月友美さんの10年前に起こった実話です。

サステナブルファッションを日本のより多くの人に、そして社会全体に広げるため、新人社会起業家が動き始めました。

 

1.服への深い愛ゆえに落ちた、人生のどん底

—— 500万借金してしまうほど、服が好きな植月さん。そもそもなぜ服を好きになったのでしょうか?

家族の存在が大きかったと思います。洋品店を営んでいた祖父や洋裁が得意だった母が身近にいたので、気付けば服に興味を持っていました。幼少期は、好きなアイドルの衣装のようなコーディネートを家族の服を組み合わせて遊んでいましたね。また姉がいたこともあり、幼稚園の頃から『JJ』など年齢より上の世代向けのファッション誌を読んでいました。

 

—— 幼いころから、服やファッションに対する感度が高かったんですね。

服が身近な環境で育ってきたので、自然なことだったと思います。もちろん服好きだからといって高いものばかりを好んで着ていたわけではありませんが、ハイブランドのものも同年代の子よりは早くに手にしていたと思います。

また人があまり着こなさないアイテムをスタイリングして着ることが大好きだったので、ユーズド品も多く取り入れていました。好きが高じてユーズドのバイヤーをしていた時期もあります。

 

—— 服好きの度合いが深い……!そんな大好きな服に植月さんは、好きすぎるがあまり首を絞められてしまったわけですが……。

500万円借金していた10年前は、まさに人生のどん底でしたね(笑)。当時は渋谷の六畳一間の部屋に住んでいたんですが、その90%が服の山だったんです。500万借金してその光景を見た時、「何をやっているんだろう。何のために生きているんだろう。」と真っ先に思ったのを今でも覚えています。

 

enterthee uetsuki

 

—— 目の前に、借金を作った元凶があふれているわけですからね。

私は「好きなことやっていいよ、人に迷惑をかけなければね。」という父の方針のもと育ってきました。

だから服を好きになったというわけではありませんが、服は人に迷惑をかけずに「強くありたい」「やさしくありたい」といった自己表現を楽しめるツールだと思っていたんです。だからなんとなく、父の教えを守って生きていると心の中で安心していたんですよね。

しかしふたを開けてみれば、借金をこさえるという大きな迷惑をかけている自分がいるわけです。「好きなことをやっていたはずなのに、なぜこんなことに?」と絶望しました。

 

2.大好きな服で誰かのためになることをするまでは、私は死ねない

—— そんな失意の底から、なぜソーシャルビジネスを立ち上げることになったのでしょうか?

500万円借金したことで、自分の欲望を満たすために生きるのがつらくなって、その反動で「誰かのために生きたい」と思うようになったんです(笑)。そして大好きな服で何か人のためになることはないかと、確か「服 貢献」みたいなワードで検索をかけたと思います。

 

綿,環境

 

そこで知った、綿畑にまかれる散布剤が大地を枯らし人を殺しているという“服づくりの裏側”に衝撃を受けました。誰にも迷惑をかけずに服を楽しんでいたつもりが、そうではなかったことに気付かされて。

そこから「大好きな服で人の、社会のためになることをするまでは、私は死ねない!」と思い、服を楽しみながら社会のためになることを失意の底で考えました。そしてボーダレスアカデミーのファイナルピッチでプレゼンした「体験型農園コットンファーマーズビレッジ」につながるアイデアを思いついたんです。

 

—— 体験型農園コットンファーマーズビレッジ、ですか?

自分が着る服を畑で綿を育てるところから作る、体験型プログラムです。

このアイデアを考えていた当時のサステナブルファッション界では、“フェアトレード”や“グリーンファッション”といったキーワードをよく見かけました。しかしこれらのワードが示す作り手側の社会問題を解決するとなると、借金まみれの私にとっておこがましすぎるなと思って……。なにより「誰にも迷惑をかけずに服を楽しむ」という私の原点を軸に、人や社会のためになることを考えたかったんです。

こう考えた時に思いついたのが、消費者側への“体験”というアプローチ。このアイデアが思い浮かんだ時に、自分が育てて作った服を着て楽しそうに笑う人たちの姿が見えたんです。だから当時働いていた会社の新規事業コンペに応募して。あと本音を言えば、このコンペで1位をとれば賞金が出たので、借金を返すあてとして応募したところもありました(笑)。

コンペの結果は、3位。トップは取れませんでしたが自分の頭の中に思い描いていたことが周囲にも認められたことで、「まだ私は生きていてもいいんだ」と思えたんです。そしてこの時に、アイデアを事業として形にしていこうと意識しました。

 

3.体験型プログラムは今…。ビジネスプランの練り直しは尋問!?

—— 現在は、起業に向けての準備真っ最中だとうかがいました。

実は“体験型農園コットンファーマーズビレッジ”ではなく、セレクトショップ型のビジネスプランで進めています。

 

—— また当初とは全然異なる切り口ですね。なぜ、セレクトショップに変えたのですか?

体験型農園コットンファーマーズビレッジのプランには、「体験をした人たちにどうなってもらいたいのか」という継続性や連続性の視点が足りなかったからです。

そこで「なぜ私はこの事業をはじめようと思ったのか」、さらには「本当にしたいことは何なのか」と自分の思考を改めて棚卸して。「人や地球にに迷惑をかけずに服を楽しむ」ためには、まず楽しむ服の選択肢を増やすことから始めて、生産背景を知る体験はあとにしてもいいのではないかと気付きました。

そこから世界のサステナブルファッションの動向を改めて調査したところ、同じような意志をもって服を作っている人がこの10年で増えていることにきづいたんです。だったら、その人たちが作ったものを広げるところから始めてみようと思い、セレクトショップというプランに行きつきました。

 

 

—— どうしてそれらの視点が足りないことに気付けたのでしょうか?

ビジネスプランを見てくれた田口さんが、「考え得ることは全てやるべきだけれども、やる順番を考えよう」と冷静に考えるきっかけをくれたからです。

とは言いつつも、何度も何度もプランを見直し、0⇒1で作り直してはダメ出しされるので、ビジネスプランを持って相談するたびに尋問を受けているような気分を味わいましたけれども(笑)。

 

—— ボーダレスあるあるですね(笑)。

早く動き出さなきゃと思うのに、ビジネスプランが決まらないというジレンマを抱える日々を送りました(笑)。それからボーダレスアカデミーでの経験も私を支えてくれたと思っています。

 

ボーダレスアカデミー

 

—— 確か第1期生でしたよね?

はい! アカデミーでは5~6カ月間ひたすらビジネスプランを練っていたのですが、どんなに自信のあるプランも、フィードバックを受けては1から練り直すという経験をするうちに、「必ず、ゴールにたどりつく」と思えるようになったんです。

アカデミーを通して“作ったものへの執着を捨て柔軟に変えていく”ことへの免疫がついたというか。

 

—— アカデミーでもまれた経験が、今まさにいきているんですね!

 

4.カワイイ+αに出会えるセレクトショップに

—— ちなみにサステナブルファッションって、どうしても着るシーンや人を選ぶうえ、高価な印象があるのですが、そのような服で選択肢は増やせるものなのでしょうか?

私は、「この服、かわいい!」から入るサステナブルファッションを理想としています。日常づかいができて手に取りやすい価格帯のサステナブルな服があれば、これまで以上に多くの人に届けられると思うからです。

実際に私が立ち上げようとしているセレクトショップ『ENTER THE E』でも、着るシーンを選ばず、無理なく手が届く価格帯の、しかも着れば一気に気分があがってしまうような服をそろえています。

 

ENTER THE E,エシカル,ファッション※lovjoi/ENTER THE E

 

ENTER THE E,エシカル,ファッション※Mila vert/ENTER THE E

 

—— か、かわいい……!! しかもオシャレにあまりお金を使わない私も、全然手に取れる価格です! もはや、今すぐ買いたい(笑)! しかし、安くてかわいいとなると普通のお店と変わらない服選びになってしまいそうですよね。それだと服ができあがるまでの裏側を知ってもらえないような……。

もちろんそこは仕組みをしっかりと作って挑みます! 1つは服を陳列しているところに出すQRコード。このコードを読み取ることで、その服の作り手の想いに触れられるようにします。そのために私は、作り手の方々の話をしっかりと聞いて、その服に込められた想いごと服を仕入れているんです。

もう1つは、服につける貢献タグ。お客さまの手に取った服が、水やエネルギーをどう削減して作られたものなのかを見える化します。こうすることで、自分が何げなく手に取った服で社会貢献ができていると思ってもらえると思うんです。

 

—— 確かに同じようなデザインと価格の服で社会貢献ができるのなら、そちらを選びますよね。

もちろんサステナブルな服を作っている人たちも、環境や人への配慮が完璧なプロダクトを作れているわけではありません。いろんなブランドが、作る人の労働環境を改善するのか、環境への配慮をするのかといった優先順位をつけて、少しずつ社会のためになるモノづくりを進めている段階です。

だから私は、何を大切に作られた服なのかをきちんとお客さまへ届けていきます。そうすることで、そのブランドの考えに共感する人が出てくるかもしれないですから。またお客さまのリアルな声を服作りにいかしてもらいたいので、作り手の皆さんにも、選ばれた・選ばれなかった服のフィードバックをきちんとしていく予定です。

 

エシカルファッション

 

私は、『ENTER THE E』をただ服を売るセレクトショップにするつもりはありません。作り手の想いとお客さまの想いを繋げるコミュニティ、発信基地のような場所にしたいと準備を進めています。

 

—— その服の裏側を知ることで、手に取った1着への愛も深められそうです。なにより、私のような社会問題に関心が薄い人間からしたら、服の選択肢に「社会貢献」が増えることがありがたいです。気軽にできる社会貢献があるんだなと。

持っている服が全て、サステナブルである必要はないんです。これから服を選ぶ際に、社会貢献できるものもあるよと知ってもらって身につけてもらえたらいいなと思っています。

そしてサステナブルな服を体験したことがない人が世の中にはまだたくさんいるので、今後は気軽に触れる意味でもレンタルやリユースなどの事業も展開していきたいですね。もちろん10年前から形にしたいと思っている体験型農園コットンファーマーズビレッジも実現したいです。人生をかけて、持続可能な衣生活を支える循環社会を作っていくことが私の目標であり使命だと思っています。

 

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服に限らず好きなことに熱中することは、誰にでもあると思います。

しかしその好きなことはもしかしたら、誰かの、何かの犠牲の上に成り立っているかもしれないことを、植月さんの話を聞いて考えさせられました。

好きなことをして生きていくためには、それを支えている人やものにも目を向ける。もしもその支えている誰かや何かが苦しんでいるのであれば、自分にできることを考える。好きなことをこれから先もずっと続けていくために考え行動することで初めて、本当に好きなことをしていると言えるのではないでしょうか。

植月さんの『ENTER THE E』は今後、ポップアップストアからスタートしていくそう。どんな想いがこもった服が並ぶのか、楽しみです。もうすでに決まっているイベントもあるので、最新情報は公式ホームページをチェックしてみてくださいね。

 

■Enter the E ホームページ
https://enterthee.jp/

 

■植月友美さん ボーダレスアカデミー ファイナルピッチ動画

■植月友美さん ボーダレスアカデミー ファイナルピッチ書き起こし

■植月友美さんFacebook

 

 

インタビュー・執筆 / クリス
福岡在住のフリーライター。ボーダレス・ジャパンを4ヶ月で退職し、いまはパートナーとしてインタビューや執筆を手掛ける。愛猫“雛”をおなかに乗せソファに寝っ転がってアニメを見たりマンガを読んだりする時間が至福。仕事よりもこちらに時間を割きすぎる傾向があるが、やるべきことはやる。企業の採用コンテンツやブライダル、アニメなどのメディアでも執筆。