今回は、前回のPeePooBagの最後でもご紹介したEcotactについて特集します。

圧倒的インパクトのあるFlying Toiletを解決すべく、Peepoo Bag以外の別の取り組みも行われています。

乳幼児死亡原因第一位は下痢

下痢は全世界で17億例発生しているといわれています。5歳以下の幼児76万人は下痢が原因で死亡します。これは、死亡原因の第2位を占める数値です(1位は肺炎で、94万もの子どもが死亡しています)。

長引く下痢は栄養失調の原因にもなります。そして、今回の舞台であるケニアでは、下痢が5歳以下の死亡原因の第1位といわれています。そこに、Peepoo Bagとは違った取り組みを行っているのが、Ecotactです。

きれいなトイレを作る

少し古いデータの話になりますが、ケニアの首都ナイロビにおいて、140ほどある公衆トイレは、ほとんどが汚く、ほとんど機能していないといわれています。

特にスラム地域ではこれがひどく、結果としてFlying Toiletのような現象につながっています。ここに目を付けたEcotactは、“Ikotoilet”というトイレを設置します。

Ikotoilet外観

Ikotoiletは、トイレ付きのシャワールームを男女4部屋と、男性用小便器4基を持つ施設です。利用料はトイレだけは5ケニアシリング(約7円)、シャワーは20ケニアシリング(約26円)です(金額は都心部向けだそうで、スラムでは3シリングのようです)。

赤ちゃんのおむつ替えスペースや、共有スペースには化粧台やハンドドライヤーも完備されており、身だしなみを整えることも可能です。

2人の用務員が常駐し、清掃などを行うことで、衛生環境を保ちます。また、資金の確保と認知度の向上のために、施設内には広告が設置され、外では靴磨き用の貸しスペースと、キオスク(売店)も設置しています。

これによって、清掃員という雇用も生まれるとし、靴磨きの人たちも、灼熱の路上で客待ちをする必要もなくなります。

Ecotactの裏側には靴磨き場もあります

継続性を保てるか?

Ikotoiletの建設費自体は決して安くありません。そこで、Ecotactと出資者が建設し、初めの5年間はEcotactが独占的に管理・運営をする契約です。契約終了後、更新するか、移譲するかの選択をしますが、その5年の間に費用の回収と、運営スキルの移譲を行います。

その後の運営は、地域のコミュニティが主体となります。スラム地域での運営は補助金が出るようで、都心部よりも利用料が少し安く(3シリング、約4円)なっています。現在は、ナイロビの2つのスラムでの実験が行われているようですが、毎日約1,200人が利用をしており、多くの人は汚いトイレの使用をやめてこちらに乗り換えているようです。

収入がトントンとなる場合の、5年間の典型的な収支計画は以下のようになっているようです。確かにこの場合だとほぼ収益はゼロになります。(KES:ケニアシリング)

Ecotactの収支計算

この場合だと、1日当たりの収入は約1,096KES、一人5KESの使用料を払うと220人が利用すれば元を取れる換算になります。毎日1,200人の利用があれば十分に事業としてやっていけそうです。

公衆衛生の概念を浸透させる

どこの国でも、トイレの話を進んでする人はいません。これは「トイレ=汚い」というイメージがあるからだと考えられます。そのため、自然とトイレの衛生に関しては無関心になりがちです。

5年の契約が終了し、コミュニティに運営主体が移った後もきれいなトイレを保ちつつ、多くの人が利用するためには、トイレをきれいに保つことのメリットを皆が理解していなければなりません。これが事業継続の肝になってきます。

そこでEcotactはトイレの設置と同時に、Miss Earthを選出しプロモーションを行うほか、地元の有力者や宗教指導者を巻き込んだ大規模な公衆衛生キャンペーンを行っているようです。

同時に、最も衛生教育が行わるべきところとして学校に注力しており、Ikotoilet for Schoolというプロジェクトを政府や某多国籍企業の援助を受けて立ち上げ、トイレの設置と衛生教育を行っているようです。

IkoToiletは常にきれいな環境が保たれています。

Ikotoiletは、音楽がかかっていて、きれいなトイレです。しかもキオスクや靴磨きで人が集まることで、公衆トイレという役割だけでなく、コミュニティ全体のさまざまなニーズを解決する「コンビニエンスストア」のような役割を持たせることも可能で、治安の改善などにも期待がかかります。

Ikotoiletのビジネスモデルは、とてもシンプルです。事業の継続性は今後判明していきますが、初期費用のめどがつき、継続的な運営ができていれば、清掃員の雇用も生まれ、コミュニティの衛生環境の改善にもつながります。

さらに、このシンプルなスキームは他国でも通用すると考えられます。費用のみの観点からすれば、海外の投資家の出資でも可能ですね。

ハイテクな技術や革新的なデザインを使っているわけではありませんが、公衆衛生の改善に大きく貢献しうる、優れたビジネスモデルではないでしょうか。