誰もがソーシャルビジネスに挑戦できる社会を目指すソーシャルビジネススクール「ボーダレスアカデミー」が、10期生の募集を開始しました。代表の半澤節(はんざわたかし)に、ボーダレスアカデミーの独自性や、起業プログラムの進め方などを詳しく聞きました。


ソーシャルビジネスに 真っすぐ挑戦できる場所

――まずはボーダレスアカデミーについて教えてください。

ボーダレスアカデミーは、社会問題に関心を持つ人なら誰でもソーシャルビジネスに挑戦できる社会を目指すソーシャルビジネススクールです。これまで社会貢献とビジネスは両立できないと言われることが多かったし、今でも「社会問題をビジネスで解決する」なんて本当にできるの?と思いながらアカデミーに来る方も多いです。

ここ数年でソーシャルビジネスという言葉が定着してきていますが、実践は難しいと考えている人がほとんどではないでしょうか。ボーダレスアカデミーでは、ソーシャルビジネスにど真ん中で挑戦し収益もしっかり出す、ボーダレスのノウハウを惜しみなく提供しているので、解決したい社会問題に真っすぐ挑戦できます。

――ソーシャルビジネスを学べる場所は増えています。ボーダレスアカデミーの独自性はどんなところですか?

確かに座学的にソーシャルビジネスに触れる機会があったり、起業家を招いた講演も前より増えているようには思います。でも、ソーシャルビジネスのプラン作りから、社会起業家として一歩踏み出すところまでを、トータルにカバーしているのがボーダレスアカデミーの強みです。

社会問題を解決しようと、いきなりビジネスモデルを考えても実はなかなかうまくいきません。進めていくうちに、問題は解決されないし、ゼロから始めるビジネスは難しいし、結局うまくできなかったというパターンにはまってしまいがちです。

そうではなくて、自分が作りたい社会に向けて、ビジネスモデルの前にまずはソーシャルコンセプトを徹底的に作り上げること。

何が世の中で解決されていない問題なのか、世の中には選択肢が色々あるはずなのに何故届いていないのか、というコアの部分を深く探っていきます。すると、これをしなきゃいけないという必須条件としての対策が、おのずと見えてきます。

問題の本質をその人自身が理解して、こういうことがしたいから力を貸してくださいと伝えられたら、周囲の人もアイデアを出しやすくなります。ソーシャルコンセプトをしっかり書くということは、何があってもぶれない自分の軸を持つということ]なんです。

もう一つは、ビジネスの第一線で活躍する方々がメンターとなり、同じ目線に立ってプランをブラッシュアップしてくれるという点です。単に儲かる儲からないという視点ではなく、ソーシャルコンセプトを共有し同じ視点に立ったアドバイスがもらえる環境はボーダレスアカデミーだけだと思います。

――一見するとシンプルなソーシャルコンセプトですが、ここを固めるのにみなさん苦労されるそうですね。

そうですね。1番最初につまずくのは「誰のための事業なのか」を突き詰めてきれていないということです。みなさん、本当は自分の中に軸があるんです。今まで生きてきた中で、関心があるものないもの、燃えるもの燃えないものが色々あるのに、それを言語化しきれていないことが原因かなと思います。

例えば夫婦間のDV問題に対して、予防的にアプローチするのか対策的にアプローチするのかでは、対象も方法も全く違います。自分の関心がどこにより強くあるのかが分からないと、「どっちも大事ですね」という一般論で止まってしまう。

原因一つに対してビジネスが一つというイメージで進めないと、結局どちらも解決しないビジネスができ上がってしまいます。何を選ぶのが正解ということはなく、今はぼんやりしているけど、自分の中にあるキラリと光る何かを探しに行く。ここが難しく、また重要なポイントです。


ジャパンソーシャルビジネスサミットでは卒業生がピッチを行う

――その難しいポイントをどう乗り越えていくのでしょうか。

プログラムの一例として、ライフラインチャートがあります。今までの人生を詳細に振り返ってもらい、そこから自分なりの信念を抜き出すワークをします。それをもとに受講生同士で自分や相手の大事にしていることをどんどん深めていきます。

先ほどのDV問題に取り組もうとしている方は、「Your life is yours -あなたの人生はあなたのもの- 」という信念に気付きました。そこで、DV被害者が自分の足で自分の人生を歩いていけるように、加害者ではなく被害者に対するソーシャルビジネスをはじめたいと腹が決まりました。


社会起業家やビジネスのプロがメンターを務める

――本人の中にある軸を言語化するために、色々な方面からアプローチしていくんですね。

はい。ボーダレスアカデミーでは、本人が心から情熱を燃やせて、すぐに一歩目を踏み出せるプランを描いた状態で、卒業してもらうことを一番大切にしています。ビジネスの難易度や規模ではなく、本人が腹落ちして実際に走り出せるかどうかが重要なんです。

メンターはビジネス経験が豊富な方ばかりですが、「それは儲からないからやめた方がいい」「市場から考えると…」という助言はしません。それぞれのプランに対して、具体的なアイデアや新しい視点、その人らしさを生かしたアドバイスなどをしていただいています。

「それならこんなアイデアはどうですか?」「私が同じ立場なら、こうすると思うんですがどうですか?」と同じ目線に立ち、本人が考え、決定することを支援します。その人自身が、深いところで納得して、しっくり来るプランを見つけていくアプローチを徹底しています。

「簡単ではない社会起業にチャレンジしようとしている人たちに尊敬の念を抱きます」と、メンターさんがよくおっしゃいます。メンターのみなさんが持っているものを惜しみなく出してくださるのも、アカデミーのよさだと思います。

ビジネスと社会貢献の両立は難しい、なんてない

――現在10期生を募集していますね。今回から集中講座に学割が新設されたとか。

ボーダレスアカデミーは、2日間の集中講座と約3ヶ月でプランを練り上げる起業伴走プログラムで構成されています。集中講座には毎回70~80人が参加し、そこから起業伴走プログラムへ30人ほどが進みます。

実は、今までにも集中講座に参加する学生さんはいたんですが、一緒に参加している社会人の受講生が、彼らを心から応援したいと思うみたいで。大人の参加者から、学割を用意してあげてほしいと提案をいただき、今回から学割を導入することになりました。ぜひ多くの学生の皆さんに活用してもらいたいです。

――起業伴走プログラムはどんな内容なのでしょうか。

3ヶ月の間に、卒業発表も含めてメンターによるブラッシュアップが6回あります。受講生1人につき30分、メンター3人がフィードバックや別の視点からのアイデアなどを投げかけます。

その合間に、僕たち運営メンバーの個別伴走も入ります。ブラッシュアップ会の内容を踏まえて、対話形式でさらに深く話を聞いていきます。3ヶ月間、心を揺さぶられ、自分との対話を繰り返しながら、どんどん修練されて軸が固まっていくという感じです。


メンターによるブラッシュアップ会の様子

――ボーダレスアカデミーを運営するうえで、たかしさんが大切にしているのはどんなことですか?

「社会問題に取り組むっていうのはそんなに大層なことじゃなくて、目の前に困っている人がいたら手を差し伸べませんか?ってことだと思います。」これは、2期生のみっちゃん(うきはの宝株式会社 代表取締役 大熊充さん)の言葉ですが、僕もまったく同じ考えです。

アカデミーに来てくださるみなさんが、それぞれの社会問題を照らす一筋の光だとしたら、ボーダレスアカデミーはその人たちを照らす場所でありたい、と思っています。

機会の”不平等”に対して 自分の人生を使おうと決めた

――たかしさんが社会問題の解決に関心を持ったきっかけは何ですか?

一つは、学生時代にインドにバックパックで訪れたこと。物乞いをする子どもたちの生気のない目を見て、生まれた場所が違うだけで、こんなにも”生きる”意味が違うのかと世の不条理を感じましたし、自分がいかに恵まれているのかを痛感しました。これは僕がやらなきゃいけないことだ、と思って国際協力のNGOに入りました。

もう一つは、同じころ少年院を訪問したことです。大学では少年法や少年犯罪について研究していて、そのなかで少年院を訪問しました。なぜ犯罪をしてしまったのか、どんな家庭環境で育ったのかなど話を聞いていくうちに、「同じ環境で育っていたら、少年院にいたのは僕だったかもしれない」と感じました。

この二つの経験から、機会の”不平等”という問題に対して、自分の人生を使おうと決めました。

――ソーシャルビジネスを仕事にしようと思ったのはどんな理由からですか。

NGOでの活動をしながらも、資金が尽きたり担当者が変わると支援の継続が難しくなる持続性の危うさを感じていました。

「社会貢献とビジネスを両立したい」という思いで就職活動をはじめたものの、10年前の当時はどの会社も耳を傾けてはくれませんでした。

進路に悩んでいたときに、たまたま見つけたのがボーダレスです。何度か面接(というより問答のような会話が中心)に訪れるうちに、たぐっさんからは「本気でやりたいなら来ればいいじゃん」と言われましたが、自分に自信がなく、まだ大手起業への就職や大学院進学の道も捨てきれずにいました。

そんな僕に対して、鈴木さんが「いつになったら自信がつくの?自信なんて一生つかないよ」と言ったんです。そうこうしている間にも、インドの子どもたちは成長するし、亡くなってしまうかもしれない。社会問題はあなたの成長を待ってくれないよ、という話をされた時に、自分が就職や進学を言い訳にしてチャレンジすることから逃げている!と気付かされました。

社会問題に真正面に挑戦できる環境があるなら、逃げずにチャレンジしようと腹をくくって、ボーダレスへの入社を決断しました。


AMOMA韓国支店立ち上げ時

――ボーダレスに入社後はどんな経験をしましたか?

初めて任された大きなプロジェクトはAMOMAの韓国支店の立ち上げです。入社10ヶ月目に、たぐっさんから「韓国行く?」と声をかけられ、翌日の昼には韓国に到着していました。1ヶ月くらいの滞在を想定して行ったんですが、帰国したのは1年後でした。

実は当時、日韓関係はあまり良い状態ではなく、テレビでは反日デモの様子が流れていました。ちょっとドキドキしていたけど、生活してみたら、めちゃくちゃいい人しかいなかったんです。

一緒に焼き肉を食べてお酒を飲みながら、「この人たちとは、絶対に戦争したくない」と思った事を覚えています。

その後、シリア難民のラガディという女性と知り合いました。シリア難民について深く知っていくうちに、福島の話と重なって見えて。僕自身が東北出身ということもあり、福島の原発事故とその後の問題についてはずっと気になっていたんです。原発事故は自分たちのせいではないのに、家族がバラバラになったり、愛するふるさとに二度と戻れない人たちがいる。家族が殺され、逃げてきたトルコでは差別されながら、苦しい状況で希望もなく生きているシリア難民の問題に同じような不条理を感じました。

たぐっさんに「たかし、事業やってみる?」と声を掛けられ入社6年目の2017年に、トルコに逃れてきたシリア難民に安定した仕事と居場所を創る事業をスタートさせました。(同事業は2019年に業務終了)

自分の可能性を信じて チャレンジできる世の中に

――ボーダレスらしいスピード感ですね。

ゼロイチの事業づくりだったので、いわゆる「正解探し」をして意思決定が遅れたり、今アカデミー生に対して「やらないで」と言っていることをやらかしたエピソードもたくさんありますよ。(笑)

事業を始めたばかりのころ、トルコ人の社員が、一緒に働くシリア難民の社員に対して「シリア人は国に帰れ!」などひどい言葉をかけることがありました。僕らが諭しても、根付いていた偏見はなかなかなくなりませんでした。

でも一緒に働くうちに「シリア人は嫌いだけど、アブドゥル(同僚のシリア人)はいい奴だ」なんて言い始めたんです。その時に、事業や職場コミュニティに対する可能性を感じました。こうした変化を目の当たりにして、韓国で僕が感じていたこと、つまり、どこの国出身という以前に地球人だっていう、原点を思い出しました。

世界平和の一番の近道は、こうして草の根で繋がっていくことなんですよね。


トルコ人とシリア人を含めて家具を作るなど交流を深めた

――これまで様々な事業を経験をしてきたたかしさんが、ボーダレスアカデミーをやる意義はなんでしょうか?

実は、僕もライフラインチャートを書いて、そこから出てきた信念が二つあります。「人は変われる/努力は報われる」「希望をもてる社会であって欲しい」ということ。僕がやってきたことは一見するとバラバラに見えますが、根底ではこの信念で繋がっています。

トルコに逃れたシリア難民も、インドで物乞いをする子どもたちも、変わりたい、この状況から抜け出したいと思っている人たちです。そういった全ての人が、夢を描いたり可能性を信じてチャレンジできる世の中であってほしいと思っています。

僕はボーダレスアカデミーを通して、人は変われるということを人生をかけて証明していきたいと考えています。社会のために何かしたいと思っている人たちが、自分の可能性を信じて生き生きと一歩を踏み出せるように、一緒に走っていきたいと思っています。僕のエゴかもしれませんけど。

未だに「ビジネスと社会貢献の両立は難しい」と言われていますが、そんなことはありません。目の前の困った人のために、行動を起こそうとする人と社会を変えていきたいです。

ボーダレスの起業家のオススメ書籍をご紹介!



夢中教室代表 辻田宏明
本書は非行を行う青年の背景には認知機能の低さが関わっていることを説明した本です。問題の表面上だけを見るのでなく、その裏にある構造的な問題を考えるのにいい一冊です。人誰しもが同じではない、という観点から、多様性や社会構造、マネジメントについて考えたい方にも、おすすめできます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

今回のインタビューは、ボーダレス・ジャパンが月に2回発信しているボーダレスマガジンのコンテンツです。
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