
人や環境に配慮した洋服が当たり前の社会を目指すEnter the Eが、オリジナルプロダクトをつくりました。代表の植月が語る「みんなにとって気持ちがいい服」とは何か。全て天然素材で仕上げたこだわりの洋服に込めた想いとは。
自分もみんなも心地よい 八方よしの洋服とは
――いよいよ、Enter the Eのオリジナルプロダクトが誕生しましたね!簡単に経緯を教えてください。
Enter the Eは、ファッション業界が引き起こしている環境問題や人的被害をなくしたいと立ち上げた事業です。これまで人や環境に配慮した洋服を集めて紹介するセレクトショップを運営してきました。
立ち上げから3年。みんなが求めている洋服が分かってきた、ロスを出さない前提の事業も今ならできる!という自信もつき、今回Enter the Eのオリジナルプロダクトを作ることにしました。
私が一番やりたかった服流通の改革、無駄を出さない完全受注生産のオリジナルです。やっとその時期が来た、という感じです。
――友美さんが作る洋服、どんなものかワクワクします!どんなコンセプトなんでしょうか。
今回のコンセプトは『自分だけじゃなく、みんなにとって気持ちがいいハッピーな服』です。
八方よしな服って呼んでるんですが、自分も環境も作る人も未来さえも、みんなハッピーな服を作りたかったんです。
今はトレンドを追いかけるわけではなく、自分がいいなと思ったものを着ている人が多いですよね。ただ、自分にとって気持ちがいいだけの洋服だと、心がイガイガする部分があるんじゃないかなと思います。
色々なところで言われている人権問題や環境破壊など、アパレル生産の裏側を見聞きするようになって、気持ちよく洋服を買えなくなってしまった人をたくさん見てきました。
洋服の背景が分からないと買えないという人が増えてくる中で、じゃあもう心から気持ちのいい洋服を作ろう!と考えました。
――心から気持ちのいい洋服って、どんな洋服ですか。
デザインよし、着心地よし、着回しがきいてクローゼットが循環して、自分にとっていいだけじゃなくて環境に負荷がかからない洋服。作る人にリスペクトがあり、未来のことまで配慮されて、心のイガイガがないとにかく気持ちのいい洋服です。
心地のいい素材の気持ちよさ、生産の背景の気持ちよさ、人目や流行を意識せず自分ががいいな!と思えるものを着る気持ちよさ、3つの気持ちよさが私たちにとってのバリューです。
しかも着ることで自分が誰かを思いやっているという清々しさも感じられます。
「八方よし」というのはずっとこだわり続けたい。完璧ではなくても、できる限りベターな選択をして清々しさの先を目指していきたいです。
その人らしく 綺麗に見える服を
――記念すべき第1弾のお洋服にはどんなこだわりが詰まっていますか?
未来にツケを押し付けない、無駄をなくす、作りすぎないという合言葉をモットーに、完全受注生産するわけですが、注文を受けてから生産するっていう話だけではありません。
生地の調達、梱包資材、洗濯ネームに至るまで、廃棄を生まないことを信念として徹底的にこだわっています。例えば、洗濯ネームもロットが多いほど単価が安くなるけど、無駄を無くすため注文を受けてからの作成にしてるんですよ。
そして素材のこだわりが一番大きいんですが、国際認証付きのオーガニックコットンと森から生まれた再生繊維テンセルを使用しています。これらの生地は、リサイクルが可能で、生分解性があり、作る人、土壌や森、お水にいたるまでケアしている素晴らしい素材です。
自分にとっても極上の着心地を追求しました。ローン生地というきめが細かい生地を使ったので、肌あたりがとにかく柔らかく優しさに包まれている気分になります。羽衣みたいなイメージです。
――洋服のすべてを天然素材で作るのは難しかったのではないでしょうか。
今回、私は未来のためにポリエステルを使わないと決めていました。
洋服づくりをはじめて、改めてポリエステルのすごさに感服しました。加工やプリントがしやすいし、表情も出るし、安価だし。着る人にとっても作り手にとっても、使い勝手がいい。そりゃみんな使うよ!と思いました。
でも、CO2の問題やエネルギーの問題を考えれば未来に残せない、だったらポリエステルに負けない生地を探そう!と。
そこからは、サステナブルな素材の選択肢の少なさには苦労させられました。リサイクルの観点から混合ではなく100%組成と決めていたので、選べる生地は本当に少なかったです。
需要がないと作る側も力を入れない、という問題点にも気付かされました。
――洋服のデザインのヒントはどこから得ていますか?
これまで接客させていただいたお客様からです。
人はそれぞれに自分に対するコンプレックスを持っているけど、そこを気にせずに自分がきれいに見えるとすごい楽だと思うんですね。
自分の悩みが気にならなくなるような、素敵な状態にしたいと思い、肩、二の腕、ウエスト、ヒップまわり、裾丈、身幅など細かいディテールのシルエットにこだわって、綺麗に見える設計にしました。
着たときに、「あ、私ってこんな素敵なんだ」と思わせてくれるような、その人自身の魅力を引き出してくれる洋服です。この洋服を着た日だけは自分以外の誰かを思えるとか、地球を思えるとか。10日のうち1日でも「思える日」にしていただけたらと思って。
昨今カジュアル化が進んで、無理をしない分、 自分を高めてくれるようなある種の戦闘服のようなものは着ないかもしれないです。
でも、だからこそ、Enter the Eの服を着たとき、内側から溢れる自分の心の美しさに気づいて、日々忘れがちな、誰かや環境のことを思える自分に出会えるんじゃないかと思っています。
着たら、自分のすばらしさに感動しちゃうかもです。
環境や人に配慮したエシカルファッション
――Enter the Eがこれまで取り組んできたセレクトショップについて教えてください。
Enter the Eは人と地球環境に配慮した洋服だけを集めるセレクトショップです。現在、世界中から35ブランド、自ら足を運んでファウンダー(創設者)さんに直接お話を聞いたうえで選んでいます。
実は日本には、環境や人に配慮した洋服が着たいと思っている人が約85%いるんです。でもそれを実践したことがありますか?と聞くと、買ったことがある人が3割で、7割の人たちが実践できていないという状況があります。
なぜそうなるかというと、物理的な選択肢がないという問題が大きいです。世界にはエシカルファッションのブランドが700くらいあっても、日本では50しか取り扱いがないような状態です。
そこで、環境や人に配慮したいのに選択肢がないために環境負荷に加担してしまっている人、着たいと思っているのに着れない人からまず救おうと決めました。
日本のエシカルファッションの選択肢の土台を作るために、Enter the Eが先輩たちを日本に連れてきているという感じですね。
ライブにはブランド創業者やデザイナーが出演することも
――オリジナルプロダクトを作ることになったのは何故ですか?
2年前にコロナ禍に突入したときに、約10社のポップアップストアが全て中止になってしまったんです。そして皆さんにお届けしようと思っていた春夏の商品を、大量の在庫として抱えることになってしまいました。
人生をかけて取り組んできた衣類ロス問題に自分が加担しそうになり、”物を作って仕入れて売る”という230年前から続くやり方でいいのだろうか?と悩みました。
そこで事業をリデザインして、注文を受けてから仕入れる『在庫を持たないセレクトショップ』をスタートさせました。
スローファッションライブは毎週開催。1年半の間におよそ2700人が実際に洋服を購入してくれました。当初心配していた「お客様は商品が手元に届くまで待ってくれるだろうか」という心配は杞憂に終わり、「じっくり待つ」という行為はポジティブに受け入れられているという実感も得ました。
と同時に、受注仕入れの限界も感じていて、供給量の問題やディテールの細かな希望など、こちらではコントロールできないもどかしさもありました。
今回は1型から小さなスタートですが、こだわりにこだわって作り上げた1着です。
皆さんにお届けできることが本当にうれしいです。
――Enter the Eの取り組みも、ひろがっていきますね。
『浄明正直(じょうみょうせいちょく)』という私の好きな言葉があります。神道の大切な考え方で、浄く、明く、正しく、直き誠の心(素直な心)のこと。
この言葉、すごくエシカルっぽいなぁと思って。人間は完ぺきではないから…こういう言葉が必要なんです。
Enter the Eはこれからも、清らかさと明るさと正しさと素直さを追求していくんだろうなと思います。
日々の暮らしの中でそういう気持ちを忘れちゃうこともありますが、洋服を着ることで誰かや環境のことを想える気持ちを思い出せるというか。「私ってこんな素敵な心を持ってたじゃない」「私は大丈夫、いい人なんだ」っていう風に、その人が元々持っている気持ちを呼び起こせる洋服が、Enter the Eでありたいですね。
ボーダレスの起業家のオススメ書籍をご紹介!
親のがっこう副代表 大倉昌子
少子化問題を身近なこととして著者2人の対談スタイルで読み進められる本。「保険料を半分にして子育て世代を応援する」出口氏と「子育てと仕事の両立が当然の社会をつくる」駒崎氏。子育てしているしないにかかわらず、一人でも多くの人が幸せに暮らす社会のために何が必要か、日本の人口減少社会を数字・ファクト・ロジックに基づいて理解したい方必読の一冊。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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