牛の幸せを考える牧場「宝牧舎」がクラウドファンディングをスタートしました。ジャージー牛の子牛や黒毛和牛の母牛たちを引き取り、大事に育てる代表の山地竜馬に、畜産業の今と宝牧舎が目指す場所について聞きました。

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牛の幸せを考える牧場で1日でも長く牛を育てる

――まずは宝牧舎の事業についておしえてください。

宝牧舎は、自然放牧で牛を育てる肉牛農家です。
子どもを産めなくなった廃用母牛(はいようははうし)の黒毛和牛、ミルクを出さないために生まれてすぐ処分されてしまうオスのジャージー牛。「人間の都合で処分されてしまうはずだった牛に、少しでも長く生きて欲しい」という思いで、大切に育てています。

「廃用母牛」は通常、処分されるか、1/10ほどの安い値段で取引されています。自然豊かな山地で「リハビリ放牧」をすることで、自然交配し、また子どもを産めるようになる母牛もたくさんいます。

大分県別府市の山奥にある牧場には、牛が約80頭。ポコポコ子牛が生まれているので、正確な数が把握しきれないほどです。耕作放棄された山奥の荒地は、牛が歩くことで耕され、糞尿で土壌が豊かになり自然の循環を取り戻していきます。

――市場価値の低い廃用母牛を引き取って自然放牧で育てようと思ったのは、なぜですか?

宝牧舎をはじめる前のことです。育てていた「あざみ」という牛が出産後に立てなくなり、安楽死させたことがありました。
育った地にそのまま埋めてあげたかったのですが、家畜である牛は死ぬと「産業廃棄物」となり、脳の検査のため解体されてしまいます。バラバラになって埋められるあざみを見て、「家畜は自然に死ぬことはできない、幸せな最期ってどういうことだろう?」という疑問が生まれました。

その後「こゆき」という母牛を屠畜場に連れていき、肉にして持ち帰りました。バラバラで埋められるよりは良かったのだろうか…と複雑な感情でいっぱいだったのを今でも思い出します。

その時から「1日でも長く幸せに生きて、大事に食べる」ことに軸足を置き、「廃用」と呼ばれ低い価格で販売される母牛たちを迎え入れ、育てるようになりました。


RICE MEDIA 社会を知る動画メディアより

――自然放牧で牛を育てる農家は日本にどのくらいいるんでしょうか?一般的な畜産業よりも大変そうに見えます。

自然放牧をしている農家は日本国内に1%未満。牛舎がないので雨や雪の日、風が強い日など、人間にとっても牛にとっても大変な環境だと思います。かといって、牛舎が楽だとも思いません。どちらもメリットデメリットが同じくらいあると思っています。

「自然放牧の方が幸せそうに見える」「牛舎に閉じ込められてかわいそう」と思う方もいるかもしれませんが、それは人間の一方的な考えですよね。本当は「屋根もないし水もないしイヤだ!」「牛舎の方が快適」と思っている牛もいるかもしれません。どういう風に育ってきたかで牛の性格も違うんです。

ジャージー牛のオス牛が殺処分される現実

――今回、ジャージー牛に関するクラファンを「レスキュー」で実施するそうですが、黒毛和牛の廃用母牛のほかにジャージー牛も育てているんですね。

ジャージー牛といえば濃厚でおいしいミルク、いろいろな乳製品にも加工されています。その一方で、“乳を出さない”オス牛は、ほとんどが生後すぐに処分されています。

体格が小さく、成長も遅いジャージー牛は、経済的効率が悪くお肉として市場に出回ることはありません。育てるだけで赤字になってしまうんです。なのでジャージー牛を育てる農家さんたちも、好きで処分しているわけではない、ということはご理解ください。

オスのジャージー牛は生まれてすぐにトラックで回収されているそうで、その後どう処分されているのかは僕にも分かりません。昔はホルスタインのオス牛も処分されていたんですが、「いまだにそんなことがあるのか」と衝撃を受けました。
その事実を知り、1年半ほど前から処分されるはずだったジャージー牛を引き取り育てています。

――人間の都合で命が左右される牛がいるということですね。今回のプロジェクトではどんなことが支援できるんでしょうか。

宝牧舎では、殺処分される子牛を1頭でも多く救うため、生後まもない子牛を引き取り、できる限り費用を抑え、自然放牧で育てています。今回のプロジェクトでは、生後6ヶ月頃までの子牛たちに必要なミルクの費用を支援いただきたいと思っています。

その子牛たちが自分で牧草を食べられるようになるまでの期間をご支援頂くことで、「農家にとって赤字」の状態が解消されます。

リターン品は宝牧舎で大切に育てたジャージー牛のお肉です。
険しい山地で育てているので普段食べているお肉より硬く感じるかもしれませんが、クセがなく甘みを感じますよ。

「1日でも長く生きた牛の命を美味しく、ありがたく食べていただきたい」というのが宝牧舎の願いです。

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牛の幸せのために私たちができること

――タツさん自身は、畜産業が抱える問題をどのように考えていますか?

今の社会では、畜産について厳しい目が向けられていますよね。「地球温暖化・食糧不足」「水質汚染・悪臭」「アニマルウェルフェア」「3K労働」など、挙げればキリがありません。

そして「牛の幸せを考える」ことは必ずしも「肉を食べない」ということではないと思います。肉を食べること自体が悪なのではなく、無駄な生産、無駄な消費が問題なんです。

そんなにたくさん肉を食べる必要があるのか?人間の都合で尊い命を簡単に処分していいのか?大量生産・大量消費のループを”自分ごと”として、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

――タツさんとお話していると、私に出来ることなんてないんじゃないかと多少の絶望感に包まれます。

「私に何かできることはありますか?」というのは、本当によくいただく質問です。
すぐにできることの一つは、スーパーで肉を買うとき、焼き肉屋で肉を食べる時に、「牛の個体識別番号を調べる」ことです。

個体識別番号からは、生年月日や性別、どこで生まれてどこでお肉になったかなどが分かります。肉を食べる時に、その牛の履歴を見て知ってほしいです。そうすると、ただのお肉が牛に見えてくるはず。

それでも、どういう人が育てたか、どんな餌を食べたか、どんな環境で育ったか、までは分かりません。牛の情報はごく一部しか知ることができない、ということも頭に置いておいてほしいですね。

宝牧舎は、牛を屠殺することで収入を得る肉牛農家です。「結局売るなら、生かし育てることに意味はない」思う方もいるでしょう。
畜産の現状を知り、色々な農家の考えに触れることで、皆様がそれぞれの意見を持ち、「牛の幸せ」を考えるきっかけとしてもらえれば嬉しいです。


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最後までお読みいただきありがとうございました。

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