子どもが生まれたら、幸せな生活が待っていると思いますよね。でも、厚生労働省の発表によると、母親の10人に1人が「産後うつ」と診断され、コロナ禍でさらに増えていると推測されています。母親が子育てを抱え込んでうつにならないために、2021年11月に「親のがっこう」を立ち上げた上条厚子に話を聞きました。


ママとパパになるふたりに
全3回のオンライン講座を開講

――「親のがっこう」というネーミングはインパクトがありますね。どんな学校で、なぜ立ち上げられたのでしょうか?

妊娠10週から産前までの、これからママとパパになる方を対象として、全3回のオンライン講座を開いています。ポイントは、必ずママとパパの2人で参加してもらって、一緒にワークなどに取り組んでもらうことです。

立ち上げたきっかけは、母親が産後うつになるのを防ぎたいと思ったから。日本では今10人に1人の母親が産後うつと診断されています。

でも、筑波大学の松島みどり准教授が2020年に行った調査によると、コロナ禍で4人に1人産後うつの可能性があり、しかもその3人に2人は自身が危険な状態にあると認識できていないのだとか。自覚がなければ助けを求めないから、耐え続けて子育てすることになりますよね。


産後うつと診断されたころの上条

――確かに、私も産後は大変でした…。ただ、うつかどうかは、自分で分かりにくいですね。

私自身も無自覚で、産後うつと診断されたんですよ。今13歳と8歳の子どもがいて、下の子が2歳のとき、体調が悪くて2つの病院に行ったんです。トイレが近いので泌尿器科と、呼吸が苦しくなるので循環器内科と。そしたら両方の先生が「老人の症状を30代で発症しているから、精神からきている。心療内科に行ってください」と言うんです。

自分では、子育てしている女性なら誰しも抱えているレベルのストレスだから大丈夫だと思ったけど、念のため心療内科に行くと「軽度の産後うつです」と診断されて衝撃を受けました。私の場合は幸い子どもが幼稚園に入り、一人の時間ができて治ったのですが、同じ落とし穴に陥る母親を減らしたいと思い、「親のがっこう」を始めました


産後うつが改善されたころの上条

――なるほど、ご自分の経験から使命感が湧いたのですね。「親のがっこう」では、どうやって産後うつを防ぐのでしょうか?

まず現状の課題として、母親は産後に辛くても自分が家事と育児の主担当と思い、パートナーを頼らずに産後うつまでに至ってしまう、父親は子育てを自分ごと化していないという問題があります。

その原因は、男女ともに妊娠・出産・育児の実態を知らないこと、そして「家事と育児は母親がするもの」と無意識に思い込んでいることだと感じました。
だから、子どもが生まれる前の段階で、産後のリアルを伝え、なおかつ家事と育児に関するジェンダーバイアスをなくすための講座をしようと思ったのです。

母親が抱え込み、父親は察しない…
実践的なワークで事前に解決

――どんな講座なのか興味があります。具体的な内容を教えてください。

1回目のテーマは、産後の実態を知ることです。今の日本社会には「父親がもっと頑張れ」という空気感があるけれど、たくさんヒアリングを重ねて分かったことは、父親に悪気はなく、産後に母親がどれだけ大変なのか本当に知らないだけということ

赤ちゃんが生まれたら簡単におっぱいが出ると思ってるけど、胸が張ってすごく痛いとか、乳首を強く吸われて血が出るとかまで、行政の両親学級では教えないですよね。だから母親も知らないかもしれない。


「親のがっこう」講座で使用するスライド

産後は母親のメンタルバランスが崩れる上に赤ちゃんのお世話でいっぱいになり、片付けもできなくて、パートナーにあたってしまう…。みんな「思っていたのと違った」となるんですよね。そして一番大きいのが母親の「察しろよ」、父親の「言ってくれよ」問題

コミュニケーションのすれ違いが起こるから、ワークを通して対話のやり方を実践しながら身につけてもらっています。この部分がネットや書籍で得られない価値として受講生さんの満足度100%に繋がっているのだと思います。


「親のがっこう」講座風景

――ちょっと聞いただけでもかなりリアルで、産後ではない私も勉強になります。

ありがとうございます。他にも、家族のビジョンやミッションなどを作るワークや、家事分担について考えるワークもします。

あとは、産後に母親ひとりや夫婦の時間を捻出できるように、自治体や民間の託児サービスを検索して、辛くなったら生後何か月からどこで1時間いくらで預かってもらえるのかもリストアップします。短時間でもサービスを使うことでリフレッシュできて、産後うつの予防になりますから

リアルな情報を得ることで
母親と父親の意識が変わる


子育て支援活動時代の集合写真

――こんな素晴らしいプログラムを厚子さんが考えられたのですか?

このプログラムはわたし自身のしくじり体験とこれまで5年間子育て支援の現場で関わってきたパパとママたち1万人の合作です。

子育てに悩んでいたときに親子のコミュニケーション講座を受けて、知識さえあれば子育てはこんなにラクになるんだと感動しました。

だから教える側になろうと2016年からお母さん向けのセミナー講師を始めて、それから子育て支援団体を立ち上げ、これまで1万人の父親と母親の声を聞いてきたところ、みんな産後に同じ落とし穴に落ちていくことが分かったんです。だからその乗り越え方を「親のがっこう」というコンテンツにしました

――11月にサービスが始まったばかりですが、どのくらいの方が受講されたのですか?

トータル25組50人で、予想以上の手応えがありました。やっぱり女性も男性も産後の実態を知らないんですよね。ネット社会で情報があふれているように感じるけど、SNSはきれいなところを切り取っていて、専門家の話は教科書的で…。講座では、先輩の母親や父親がSNSにはアップできないようなリアルな体験談を赤裸々に話してくれるんです。

人は知るだけで、こんなに意識が変わるんだなあと感じています。特に男性が義務感や時流だからじゃなくて、純粋に自分のパートナーの支えになりたいという気持ちで育休を取るとか、平日の夜と休日に妻とどうコミュニケーションを取るかという基本姿勢がめちゃくちゃ変わっています

女性側も、産後がこんなに大変ならパートナーに頼らなきゃ、こういうサービスも使おうと思ってもらえるのがうれしいです。

――私も子どもが生まれる前に受けたかったです。ちなみに厚子さんのパートナーは協力的だったんですか?

いえいえ、私はまさに日本一のしくじり先生でして。産後に夫が協力的じゃないという不満があり、「なんで私ばっかり」と思って、いわゆる産後クライシスでした。

だけど今振り返ると、私がもっと頼れば違ったかもしれないし、彼は彼で学ぶ機会がなかっただけなんだと思うんです。産後クライシスの期間は、どうしたらこの不本意なギクシャクした状態から抜け出せるのか分からず家庭が冷めてしまって、子どもにとって申し訳なかったという後悔があります。

1万人の母親と父親の話を聞いてみて、日本中でこのしくじりが起きていると実感しているんです。だから私と同じ落とし穴に落ちないように、講座によって穴をふさぎたいし、落ちても抜け出せるような心構えや対話の方法を伝えています。

私のビジョンは、子育ても自分の人生も楽しむ母親と父親であふれる社会をつくること。好きな人と結婚して子どもを授かって…というハッピーなはずの産後がそうではない現状が今の日本にはあるけれど、この活動を広げることで、子育てを通して母親と父親の絆が深まり、より幸せになる家族を増やしていきたいです。

ご自分たちはもちろん、友人や兄弟姉妹、お子さんなどまわりの人にも勧めていただけるとうれしいです。大切な幸せの種をプレゼントできると信じています。


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小さな森の学童
代表 松野恵利香

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最後までお読みいただきありがとうございました。

今回のインタビューは、ボーダレス・ジャパンが月に2回発信しているボーダレスマガジンのコンテンツです。
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