
大学時代にボランティアで訪れたエクアドルで元女性受刑者と出会い、出所後も偏見や再犯などから社会復帰の難しさを知った宮浦歩美(MIRAI S.A.代表)。今後、エクアドル現地で元受刑者の女性を自社雇用し、石けんの製造・販売を通じて再び社会とのつながりを創出しようとしています。
ボランティアから
ビジネスという選択肢へ
――あゆみさんはボーダレスアカデミーで学んだ後にエクアドルでの事業を立ち上げていますね。アカデミーに参加する前はどんな活動をされていましたか?
大学生の時に「外国に住んでみたい」と思い、費用を抑えて長く滞在する方法としてNGOの活動に参加することにしました。偶然目に留まったエクアドルに渡り、首都キトにある刑務所内の託児所のボランティア活動をすることになったんです。
託児所内ではスペイン語を話す必要はなく、手遊びや歌を通して赤ちゃんとコミュニケーションを図るなど楽しく過ごしていました。赤ちゃんが初めて歩いたり、お話するようになったり、日々の成長を目の当たりにして感動の連続でした。
しかし、刑務所内で育った子どもたちは、その境遇から罪を犯して刑務所に戻ってくることが珍しくないという、悲しい現実も知りました。
そして子どもたちの母親である元受刑者の女性たちは、出所後も仕事に就きにくく、子どもを養うために犯罪を繰り返してしまいます。
その悪循環から抜け出すことは容易ではありません。そんな実情を知るうちに、彼女たちの社会復帰をサポートしたいと思うようになりました。
――エクアドルの元女性受刑者の社会復帰をサポートするために、どんな行動を起こしたんですか?
彼女たちに「上を向いて生きてほしい」との思いから、エクアドルで花火を打ち上げようと考えました。花火を見れば「明日も頑張ろう」と前向きな気持ちになってくれるんじゃないかと。
帰国後すぐに「エクアドルで花火を打ち上げたい」と花火会社に手紙を書いて、その会社に就職しました。
しばらく働いた後、日本とエクアドルが外交樹立100周年を迎える2018年に、エクアドルで花火を打ち上げるプロジェクトを立ち上げました。いろいろな事情があり現地では実施できず、エクアドルとゆかりのある福島県猪苗代町で花火大会を実施しました。
花火に関わってから約10年が経過していました。
――長年ボランティアで活動されてきたあゆみさんが、ソーシャルビジネスという手段に辿り着いたきっかけは何だったんでしょうか。
イベントは成功しましたが、「エクアドルの元女性受刑者を救う」という社会問題は少しも解決に近づいていませんでした。モヤモヤを抱えたままこの問題を解決する方法を探しているときに出会ったのが、ボーダレスアカデミーです。
「社会問題をビジネスで解決する」という言葉を見たとき、もしかしたらエクアドルの女性受刑者の課題も、雇用を生み出すことで解決できるかもしれない!と目の前が明るくなりました。
とは言え、私はビジネスの初心者ですし、自分がビジネスに向いている方ではないと不安な気持ちがありました。でも、ボーダレスアカデミーのプログラム内容を詳しく見ていくうちに「ここなら私でも起業ができそう!」と感じたことを覚えています。
アカデミーを通して
見えてきた理想の社会像
第2期ボーダレスアカデミー ファイナルピッチの様子
――実際にボーダレスアカデミーに参加してみて、どんな学びや出会いがありましたか?
私はビジネス初心者だったので、学んだことすべてが目から鱗でした。アカデミーにはビジネスの経験者、まだ迷いのある方、子育て中の女性など、色んなステージの方が参加していました。
日本では馴染みの薄いエクアドルという国の、さらに知られていない女性受刑者の問題について、一緒に学んでいるアカデミー生が真剣に考えてくれるということが何より嬉しかったです。
また、参加者それぞれが解決したい社会問題は、私が知らなかったものばかり。社会起業を目指す同志としてお互いの気持ちも分かるので、この出会いは起業を目指すうえで、もちろん現在も大きな心の支えになっています。
――アカデミーであゆみさんが一番苦戦したところはどこでしたか?
私の場合は、誰のどんな課題を解決するのかといった「ソーシャルコンセプト」は早い段階で定めることが出来ました。しかし、どう解決していくのかを定める「ビジネスコンセプト」をつくっていくのが難しかったです。元々はそれまでやってきた花火をビジネスにつなげられればと思っていましたが「本当にそんなこと出来るの?」と迷いがありました。
そんな時に鈴木さん(ボーダレス・ジャパン副社長)が「花火があるじゃん」と言ってくれて、自分で無意識に無理だと決めつけてブレーキをかけていたことに気付きました。
――ボーダレスはビジネスの捉え方が他の企業とは違いますよね。
はい。ソーシャルビジネスにおいて一番大事なのは「ソーシャルコンセプト」。ソーシャルコンセプトに合わせて、ビジネスの形はどんな風にも変えられる。
そういう考え方があるということに衝撃を受けました。
もしもビジネス重視の進め方だったら、私はついていけなかったかもしれません。
アカデミーで学ぶうちに、それまでぼんやりとしていた、私はどんな社会を作りたいのか?という問いに対する答えがハッキリ見えてきました
。
エクアドルの元女性受刑者やその子どもたちが明るい未来を描ける社会づくりがしたい!と自信をもって説明できるようになったことは、大きな成長でした。
元受刑者と社会を
つなぐビジネスとは
――ボーダレスアカデミー卒業後は、そのまま花火事業を進めていったんですか?
アカデミー卒業後、エクアドルに花火の調査へ行ったんですが、環境への負荷などからエクアドルの法律で花火の打ち上げが禁止になっていました。花火については一度諦めて、2020年にボーダレス・ジャパンに起業家採用で入社し、新たなプランニングを開始しました。
当初はエクアドルで飲食事業を計画し、勉強のために都内の飲食店でアルバイトも始めました。
しかしコロナの状況がひどくなってきて、エクアドルにもいつ行けるか分からず…
そこで、さらにビジネスプランを練り直し、石けんの製造・販売する今のモデルに辿り着きました。
アカデミーで学んだ「ソーシャルコンセプトが一番大切、ビジネスはあくまで手段である」という考え方がここで生きてきたと思います。
――石けんを事業に選んだのはどうしてですか?
子どもがいても働きやすい環境や時間帯で作業ができること、またシンプルな工程であることから、石けんを選びました。「女性を綺麗にする」という価値あるものを丁寧に作ることが、元受刑者さんの心理面にもすごくいいんじゃないかと思ったんです。
エクアドルではスキンケアに力を入れるより、メイクを濃くして「お化粧で綺麗になる」という意識を持つ方が多いです。洗顔料もつっぱるものがほとんどで、洗顔後にクリームで保湿するのが当たり前。
洗顔は肌を直接こするのではなく「泡で洗う」という習慣も一緒に紹介しながら、ショッピングモールやオンラインで石けんを販売しています。
――石けんのこだわりや、どんな方が購入しているのか教えてください。
日本の石けん屋さんと開発した、オリーブオイルやココナッツオイルから作る無添加の石けんです。私自身、作っていてうっとりするような素晴らしい石けんが出来ました。
植物オイルの力で洗顔中も洗顔後も潤いが感じられるので、使っていただいた方には「つっぱらない」と大変喜んでいただいています。
エクアドルにはガラパゴス諸島があるので、「ゼロウェイスト」や「環境負荷の少ないもの」に興味を持つ層がいます。そういった安心・安全で無添加の製品に関心のある方が手に取ってくれています。
日本人が作っているということも、エクアドルの人たちにとっては信用できるポイントのようです。
価格帯としては、普通の石けんは3ドル~5ドル、高級石けんは24ドルくらい、私の石けんが15ドルなので、アッパー層から浸透しています。
石けんを真空パックにして、パンフレットやお手紙を添えているので、「ここまで丁寧な商品は初めて!」と感激されることも。石けんに添える手紙は、今は私が書いていますが、いずれは一緒に働くメンバーが書くことでお客様とコミュニケーションを取り、社会参加しているという自信にもつながればと思っています。
――最後に、この事業を今後どのように広げていく予定ですか?
今は製造も販売も一人でやっていますが、まずは現地の女性を一人でも雇用したいです。早く女性たちに石けんの製造方法や温度管理など伝えて、一緒に石けんを作っていけたらと思います。エクアドルから南米へ販売を広げていくことも視野に入れています。
私は自分の石けんで洗顔する時間が一番幸せなんです。それをより多くのお客様に伝えたいし、綺麗な石けんをお届けできるのが嬉しいんです。その気持ちを彼女たちにも体感してほしい。
社会問題に個人でアプローチする方法もありますが、ビジネスとして会社という形態だからこそ、描ける社会像がある。元受刑者の女性たちと一緒に実現していく未来こそが今の私の原動力です。
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ローカルフードサイクリング
代表 たいら由以子
本年8月のIPCCの発表はわたしたちにもう環境問題に「迷う暇も、悩んでいる暇もない」今日から取り組む必要性を教えてくれました。私たちが力を合わせてできること、個人として一人ひとりが果たす役割を知りたいと思う人が、わかりやすく解決策を理解する一冊。また発展の途上であり改訂されているものである本調査がまとめてあります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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