「インドの貧困問題を解決したい」という夢を諦めず、仕事を辞めて26歳でボーダレスに入り起業した水流早貴(つるさき)。社会起業家になって2年経ち、会社員生活もコロナも経験したからこそ話せることがあります。彼女の歩みと思いに迫ります。

コロナでロックダウン 家事代行からハウスクリーニングに転換


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えみ 今年の5月頃、インドの医療崩壊の様子が日本で報道されて、さきさんのことが気になっていました。
さき 今年4月に急にひどくなり、昨年の10倍ほどの感染者数で医療崩壊していました。ロックダウンで営業停止となり、私のまわりでも多くの人が命を落とし、酸素や医療を求める情報が常に飛び交い緊張感が高くて…。6月上旬に落ち着き始め、今は外出できてレストランも営業しています。
えみ 落ち着いたんですね、安心しました。コロナでさきさんの事業に変化がありましたか?
さき インドの都市部のスラムで暮らす女性の貧困問題を解決するために、もともとは家事代行サービスをしていました。半年かけてスタッフのトレーニングをして、ようやくお客さんが見えてきた昨年3月から2か月ちょっとロックダウンに。
都市部は危ないという空気感が広がり、出稼ぎでスラムに来ていたスタッフたちが農村部に帰ってしまったんです。


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コロナ禍で実施した食糧支援の様子

えみ えっ、せっかく育てたスタッフがいなくなったのですか。
さき はい。結局ロックダウン中に、家事代行サービスからハウスクリーニングサービスに方向転換しました。メイドが自宅に通ってくる家事代行サービスは、コロナのリスクから敬遠されて、反対に家を除菌したりきれいにしたりする掃除サービスの需要が高まると考えたからです。
えみ なるほど、流れをよんだ転換ですね。
さき ロックダウン中にハウスクリーニングのサイトを作り、スラムを駆け回って「誰か仕事をしたい人はいませんか?」と声をかけ、無事に6人採用することができました。掃除用の機材を買い足しトレーニングをして、7月から本格的に始動したところです。


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えみ 事業モデルを変更して気付いたことはありますか?
さき インドの状況をきちんと見て、難しいと思ったら早めに転換を決断していくことが大切だと改めて感じました。結果的に仕事の依頼が来るようになり、コロナの厳しい状況をチャンスにできたかもしれません。
えみ この前はインドの貧困世帯に食料を届けられていましたね。
さき そうなんです、昨年と今年のロックダウンで、スラムには食べることにも困る家族が大勢でてきました。それで急きょSNSで寄付を募り、米や小麦などの食料をパックして、直接1000世帯ほどに届ける活動をしました。ご協力いただいた皆さんにとても感謝しています。

会社とソーシャルビジネスは目的もやり方も全く違った!


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えみ さきさんは会社員を経てボーダレスに入られました。会社員時代とは大きく違うでしょうね。
さき 最初は会社員の感覚が抜けず、一人で抱え込んで人に相談できませんでした。会社員って、自分でアウトプットを出すことが評価につながる感覚だったので。でも、社会起業家としては事業自体を前に進めることが一番大事で、
自分でずっと考えて悩むよりも誰かを頼った方がいいと今は考えています。
えみ 会社員より社会起業家の方が人に相談できるって、意外です!
さき 決めることが仕事なのに、始めはなかなか決められなくて。ボス(代表の田口一成)やボーダレスの人たちに何でも聞き、いろいろな経験や失敗を繰り返すうちに自分なりの軸ができて、今は自分のペースで自分が目指す組織に向かって経営できている実感があります
最近は本当に困ったときだけボスに相談するのですが、ハッとさせられることが多いです。


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会社員時代にMVPで表彰されたことも

えみ 例えば、どんなことですか?
さき 普通にビジネスをやっている人は売上を上げることが最重要なので、ホテルで働いた経験のある人を雇えばいいとか、衛生に関わる商品の販売や代理店をしてマージンを取ったらいいといったアドバイスをもらうことがあります。
でも、ボスはあくまでソーシャルビジネスの観点で、雇っている人にとってどちらがいいか、ソーシャルインパクトが出るのかという軸でアドバイスされます。
えみ 観点が全く違うのですね。
さき 私は教育を受けられず貧困に陥っている人を雇いたくてビジネスを始めました。目先の利益にとらわれてできる人を雇ってしまうと、その人でしか回らないオペレーションができててしまう。
非効率で時間がかかっても、本当に雇いたいスラムの人を雇って、その人に合わせた仕事やオペレーションを作っていくことが大事だと言われて、原点に立ち返りました。


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浴室清掃の様子

えみ 難しくても意義のある方を選ぶ…大切なことですね。事業の手応えはいかがですか?
さき 大変な事業だなと思うこともあるけれど、明らかにスタッフが変わってきたんですよ。立ち振る舞いも格好も違うし、ちょっとした気遣いができる。貧困から抜け出すために所得が上がったというのはもちろん、それ以上の成長が見えて感動します。
学校を出ていなくて読み書きができないスタッフがほとんどだけど、うちに入って英語を覚えたり、できることがどんどん増えていく。そんな姿を見ていると、学校みたいな存在になれるといいなと思います。
えみ 研修を通して成長するのですか?
さき 研修はあくまでもベースで、みんな仕事の現場で成長していきます。失敗してお客さんから怒られることがあっても、「ありがとう」「すごくよかった」と声をかけてくださることがモチベーションになり、もっと頑張ろうと思うんですよね。

社会起業家に必要なスキルは 起業体験でしか身につかない


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えみ 今後の展望を教えてください。
さき 規模を大きくして、困っている人をたくさん雇い、ソーシャルインパクトを出したい。社会事業としては、他の機関と組んでもっともっと多くの人にハウスキーパーとしてトレーニングする機会を提供していくつもりです。
えみ 具体的に進んでいるのですか?
さき はい、3者で進めています。スラムや農村の人にスマートフォンを届ける活動をしている会社があり、私たちがトレーニングのプログラムや動画を提供し、NGOに実働で入ってもらう。
動画でハウスクリーニングのスキルを身につければ、うちで採用できなくても、どこかのホテルなどで働けるようになると思うので。うまく回るようになって、インド政府のスキルトレーニング機関などと組んで広げていけたらいいなと思っています。


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スタッフの自宅にてお子さんの誕生日会(コロナ前)

えみ 起業家としてボーダレスの魅力はどんなところでしょうか?
さき 自立してできるけど一人じゃないところと、志ひとつで挑戦できる環境ですね。
私は社会人3年目で仕事を辞めて、経営するには力が足りないと分かっていたけど、それでも挑戦させてもらえる土壌があるのはすごいと思います。志ひとつで始めても、いろんな視点でアドバイスしてくれる人がいて、自分でやりながら学んでいける。
それに失敗がマイナスではなく、そこから何を学んだかが大切という考え方があるから、失敗を恐れず本気でチャレンジできるんです。
えみ 学生の頃から社会問題に関心を持っていても、企業に就職する人は多そうです。
さき 就職してモヤモヤしている人はいると思います。
社会問題が気になりつつ、目の前の仕事が何につながるか見えない。かといって社会問題解決だけに取り組む実力がないからどうしようと。私の場合は、会社ではここまでの成果を出そうと決める一方で、国内でもできる活動に参加したり、休みにはインドに行ったりして、自分がやりたかったことを感じられるようにしていました。


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えみ そうすることで起業家になろうというタイミングが来るのですか?
さき 社会起業的なプロボノなどで活動していると、「私はこういうことをやりたいんだ」という思いがどんどん強くなり、力が湧いてきました。プロボノを通して、自分のスキルがここで役に立つんだとちょっと自信になり、小さな成功体験が重なって、何かできるかもしれないと決断できました。
えみ まずは行動することで見えてくるのですね。
さき 「起業家のスキルを身につけるためにはどうしたらいいですか?」とよく聞かれるのですが、起業して思うのは、起業の体験を通じてしか起業家としてのスキルは身につけられないということ。会社員では営業や事務など特定のスキルは得られますが、事業の立ち上げはまた全然違うと実感しています。
えみ 実体験に勝るものはない、ということですね。
さき はい。ボーダレスが提供しているRISEプログラムは、 1年間のリアルな起業体験を通して、起業家に必要なスキルが最短で身につけられるプログラムです。1,000万円の資金提供を受け、3人1組で事業を経営していきます。
本気で社会起業家になりたいと思っているなら、RISEに参加するのが一番の近道だと思います。7/26(月)にも説明会が開催されるようなので、興味がある人はぜひのぞいてみてくださいね。みなさんの志を応援しています。

最後までお読みいただきありがとうございました。
今回のインタビューは、ボーダレス・ジャパンが月に2回発信しているボーダレスマガジンのコンテンツです。
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