不登校の子どもたちに向けた新たなサービスが2020年11月に誕生しました。
その名も、夢中教室WOW!
学校に通っていない全国の小学生~高校生とオンラインでつながる家庭教師です。
今回は代表辻田寛明さん(以下、ジーツー)に事業にかける想いや今後のことまで、じっくり語ってもらいました。

今回話を聞いたのは・・・

photo 夢中教室
1993年 茨城県生まれ。東京大学経済学部卒。学生時代に経験した中高生向けのキャリア教育がきっかけとなり日本の子どもたちの自己肯定感の低さに問題意識を覚える。
2019年ボーダレス・ジャパンに新卒起業家として入社。他事業部での1年間の修業期間を経て、ワオフル株式会社を創業。

photo 聞き手 ライター タニガワ
2018年よりボーダレスグループの取材を開始。子育て世代・こどもについての社会問題に関心をもつ。今回は小学生の子を持つ母として、他人事ではない不登校のことをじっくり聞いてきました。

「自分はできる!」
自信につながる体験を届けたい


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タニガワ 夢中教室WOW!(以下“夢中教室”)は不登校の子どもたちに向けたオンライン家庭教師なんですよね。
ジーツー 対象は全国不登校の小学生~高校生で、家庭教師と言っても5教科のいわゆるテスト勉強を教えるのではなく、その子の興味があることをとことん一緒に探究していくものです。
タニガワ 事業を始めたきっかけは、ジーツーさんが東京大学に在学中に出会った中学生、高校生の存在が大きいと聞きました。
ジーツー そうですね。大学時代に参加していたキャリア教育プログラムで、800名を超える中高生と出会いました。
当時の僕は現役の大学生として、彼らに目標をもつことの大切さを伝え、“将来との向き合い方を考えるきっかけ”を作れればと懸命に取り組んでいたのですが、
接する中高生の多くが『どうせ私には出来ない』と自分を諦めていたんですよね。


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ジーツー 可能性は無限にあるのに、もう将来に期待できないなんてもったいない。
そのように “自分ならできる”と信じる力(自己効力感)が低い子どもたちを目の当たりにし課題感を持つようになりました。
タニガワ なぜ、『私にはどうせ無理』とやる前から諦めてしまうんでしょう?
ジーツー 幼少期から『自分はできる!』という成功体験をする機会が持てなかったために、自分の意見や自信が持てなくなっていることが理由の一つです。
そして子どもたちの中でも、最もそんな体験に出会えないのが不登校の子どもたちで、その数は現在、全国に少なくとも18万2000人(※1)いると言われています。

※1.文部科学省調べ、2019 年度3における30日間の長期欠席の生徒の数


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タニガワ だから不登校の子どもたちにフォーカスしたんですね。
ジーツー 不登校という選択はいくつもある中の一つの選択なのに、学校教育の中にある架空のものさしから“はみ出した”と認識されてしまいます。
学校に行かない、という選択をした途端に、友人や先生と接する機会も、体験する機会自体も損なわれてしまう。それは子どもにはどうしようもできないことなんですよね。
だから、そんな不登校の子どもたちが夢中になれる体験と出会える機会を作り出したくて夢中教室をスタートさせました。
家でもない、学校でもない、一人の大人との繋がりを持てる第3の居場所です。マンツーマンで一緒に探究していくことができる点は学校にはない強みだと思います

『好き』をきっかけに、
子どもの可能性を拓く


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タニガワ 勉強は教えない、ということですがどんな授業をしているんでしょう?
ジーツー 週に一度、60分のオンライン授業をしています。
最初の授業で、自分の大好きなものをカテゴリーごとに挙げ、一緒にその中の一つの“好き”からテーマを決めるところから。
今の生徒のテーマは、虫・数・カード遊び・韓国語・世界遺産・プログラミングなどさまざま。
授業といっても、“先生と生徒”という距離感ではなく同じ視点に立って『一緒に学ぶ』形をとっています。
僕は人一倍好奇心が強いので、どんなテーマでも一緒になって全力で楽しむスタンスで授業に臨み、心を開いて話せる大人だと思ってもらえるように接しています。
タニガワ 一緒に好きなことを追求していくと、生徒さんにはどんな変化がみられますか?
ジーツー どんどん表情が変わってくるんですよね。中でも一つの大きな基準として見ているのが『授業外の時間がどう変わったか』という点です。
タニガワ 具体的には授業外でどんな変化があるのでしょう?
ジーツー 例えば先日、保護者の方から『初めて子どもから誘われ、授業のように動物の画像を検索し楽しい時間を過ごしました』というメッセージをいただいたんです。
彼は今までやりたい気持ちはあっても明確に何をやるか分からずに悶々としていたのですが、授業をきっかけに『自分がしたいこと』が分かってきたのだと嬉しくなりました。


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最近バイブルとしている一冊。
ホームスクーリングをするためのヒントが満載。

タニガワ 生徒さんは発達の特性を持つ子どもたちも多いとか。コミュニケーションをするうえで心掛けていることはありますか?
ジーツー 絶対に否定しないことは心掛けています。
例えば、急に違うことをやり始めて没頭している、ということもありますが、特性を考え『理由があるのかもしれない』と状況を受け入れるようにしています。
同時に、発達特性はその子の一つの条件であり、その子が今向き合おうとしていることに対しては、特性うんぬんを抜きにして一人の人と人として同じ視点で向き合うことも大事だと考えています。
タニガワ 同じ視点で向き合おうと感じたきっかけはありましたか?
ジーツー 大学時代や社会人になって以後も、発達の特性がある友人とたくさん出会ってきました。
たしかに生活しづらい部分や難しさはあっても皆それぞれに良い部分があって、個性を活かして輝いていました。
そう実感してきたからこそ、発達の特性があることによって配慮しすぎたり、可能性を狭めることはしなくて良いと思っています。

不登校―答えは探さず
“一緒に作っていく”もの


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タニガワ 私にも小学生の子がいます。
もし不登校になった場合、学校に行けていない焦りやこの先の不安も生まれると思うのですが、不登校をどう受け止めるか、保護者の方とお話されていますか?
ジーツー そうですよね。僕が保護者の方によくお話しているのは、たとえ不登校にならずに大学まで行ったとしても、子どもが『どう生きていくか』という道を選ぶタイミングはいつか皆に来るものだということ。
それは大人になればなるほど一人で答えを出さないといけなくなるものなんですよね。
不登校になるとすごく不安になるかもしれませんが、もしかすると、お子さんにとっては今がそのタイミングで別のレールの可能性を考えている時期なのかもしれない。
もしかしたら10年後、20年後に一人で抱えて苦しむかもしれなかったところを、
今この時期に一緒に考えるきっかけが出来たのかもしれない
ですよね。


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サービス名WOWは、子どもたちへ“未来に期待できる気づき”『ワオ!』の瞬間を届けたいという思いから

ジーツー 答えは一つじゃないしすぐ出てくるものではないかもしれない。
だから、今ある可能性のなかから答え探しをするんじゃなくて、答えを作っていくような道を探っていけたら。
親と子だけでやるのではなく、そこにもう一人の大人が選択肢を広げて一緒になって考えていけたらいいですね、とお話をしています。
タニガワ なるほど。夢中教室という強い味方と一緒に、どう進むのかを作っていくイメージが持てるといいですね。
ところで、夢中教室には『この状態を目指そう』というゴール設定はあるのでしょうか?
ジーツー 実は不登校の状況のなかでも段階があると言われているんです。(下図)


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不登校の子どもの段階

ジーツー 1-2(初期~本格期)は保護者が受けさせたくても、お子さんが何もしたくない状態であることが多いので、無理に何かをさせようとしても逆効果になることも。
逆に、5(活動期)は自分で学校に戻る選択をしたり、フリースクールや自分のやりたいことを見つけている状態。
しっかり休んだ後、3-4(安定期・始動期)のお子さんたちが夢中教室の対象となる子どもたちです。
5(活動期)をゴールにしっかり寄り添っていきます。


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『めざせ!昆虫はかせ』2年間不登校の小3の男の子の授業中。
一緒に盛り上がる様子は、虫好き少年同士の会話のよう

タニガワ スタートしたばかりではありますが、この事業をやっていてよかったと思うことはありますか?
ジーツー 最初の授業の日のことは一生忘れないと思います。
緊張のなかでやり切った授業の後、保護者の方から『初対面の人とこんなに話したのは初めて。こんなに笑っている息子を久々に見ました』と感謝の言葉をいただいて胸が熱くなりました。
子どもたちの良い変化をご報告いただく度に、それがどんなに小さな変化であっても、そこから子どもたちの可能性が広がるのを感じ、ご家庭にも少し明るい空気が生まれると思うとたまらなく嬉しくなるんです。


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タニガワ 今後の目標について教えてください。
ジーツー 1対1という今のスタイルを基本に、今後は1対3で子ども同士の繋がりも持てる授業や、オンラインではなく場所型のものも実現出来たら。
そして、統計上“社会の認識が変わる目安”とされている3.5%という基準があるのですが、不登校生徒の3.5%、つまり6,000名の生徒たちに夢中教室の授業を届けることを大きな目標としています。
もし実現出来たら世間に対しても『学校だけが全てじゃない』という価値観を作れて、学校に行かない選択をした子どもたちに『こんな道もあるんだ』という機会として届けられるようになるんじゃないか。
そう信じてチャレンジしていきたいですね。


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タニガワ 先生ともちがう、友達ともちがう、心を開ける大人との繋がり。
一緒に喜んだり悲しんだりしながら、自分にとっての大切なものを、一緒に大切にしてくれる。そんな存在が子どもの世界をどんどん広げ、毎日を変えるきっかけとなる。
お話を聞いていると「自分は何だってできる!」そう胸を張って言える子どもたちがここからたくさん生まれていく予感がしました。

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最後までお読みいただきありがとうございました。

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