世界中から作る人や環境に配慮したエシカルブランドの服だけを扱うセレクトショップEnter the Eを経営する植月友美さん(以下、ともみ)。
服を愛するがゆえに向き合い方に悩むこともありましたが、人生かけて人と地球が洋服を楽しむ社会の両立を決意したとき、大きく人生が変わりました。今回はその背景に迫ります。
今回話を聞いたのは・・・

photo Enter the E代表取締役社長 社長
18歳からファッション業界に入りグローバルビジネスを学ぶため渡加、渡米。NYで就労、帰国後12年間大手小売企業で商品企画からバイイングなど幅広く従事。
杜撰すぎる衣類の環境破壊を目の当たりにし、人生かけて人と地球に迷惑をかけずに洋服を楽しめる社会をつくると決意。
2019年ボーダレス・ジャパンに参加し、エシカルファッション専門セレクトショップEnter the Eを創業。

photo 聞き手 ライター 
環境問題に興味を持ち、大学でリサイクルを研究。その後、「書くこと」で環境を含めた社会課題に貢献することを決意し、フリーランス編集ライターへ。

エシカルな服の選択肢を広げ
その魅力を発信する


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のぶ子 ともみさん、今日はよろしくお願いします。
私自身アレルギーの経験から、コスメや食にこだわってきていて、今後は服にもこだわりたいと考えているので、ともみさんのお話を聞くのを楽しみにしていました。
ともみ こちらこそ、よろしくお願いします。
のぶ子 エシカルな服はデザインが(スポーツウエアなど)特殊というイメージでした。
でもEnter the Eオンラインストアを拝見すると、色んなテイストの服が並んでいてうれしくなりました。
ともみ ありがとうございます。世界では少しずつエシカルな洋服が増えてきていますが、日本ではエシカルブランドの選択肢が少なく、テイストもほんの僅かです。
また値段の設定も高く、エシカルな洋服を着てみたいなという方がいてもなかなか手を出しづらいそんな状況があるんじゃないかと思います。
のぶ子 そうですね。やはり値段と自分が好きなものでないと。
ともみ そうなんです。衣類の大量生産・廃棄過程によって引き起こす環境問題や人的被害は残念ながら深刻な状況が続いてしまっていて。
一刻も早く抜け出すためには、エシカルファッションの「選択肢」を増やし、広げていかない限り、これまでの人や環境に負担をかけている状態から抜け出せないなと思いました。
私は10着のうち1着でも普通の人が普通に買えるデザインと価格で選べるようにセットにすることによってこの状況を変えようと思い、セレクトショップを「役割」として始めました。


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のぶ子 エシカルの服への敷居が低くなります。
ともみ ありがとうございます。
2021年9月まで開催中のSHOWROOMストアでも人や環境に配慮した服とは知らずに買っていかれる方が多いです。
のぶ子 ともみさんのセレクト、可愛い服が多いですからね。ところで服にそえられたイラスト入りのサステナビリティ・ラベルとは?
ともみ オリジナルのサステイナビリティ・ラベルを設けて、どうエシカルな過程を辿ってきたのか、作り手の姿勢が一目でわかるようにしています
リサイクル素材やオーガニックな素材などサステイナブルな素材を使いながら、職人さんの支援やフェアトレードなどブランドの取り組みも異なるので、それぞれの取り組みをアイコンで表しています。
のぶ子 ともみさんの「お客さまにブランドのよさを伝えたい」という想いが見えます。
ともみ 具体的にはEnter the E独自の認証基準で、
「天然素材」「有機素材」「リサイクル素材」「生産余剰素材」「ヴィーガン」「公正取引」「経済権限の付与(女性や弱者への社会・労働支援)」
「伝統の職人技」「サーキュラーエコノミー」「ローカルメイド」「ソーシャルプロジェクト」の11種の指標を作っています。


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ともみ 私の役割は、作り手(ブランド)と使う人(消費者)をつなぐことだと考えています。
人が持つ洋服に対する想いや物語を伝えることで、長く大切に使っていただけると信じています。仕入れは直接私がブランドの創設者にお会いし志や人となりなどもみて持ってきています。
のぶ子 エシカルな服をつくる人はどんな方でしょうか?
ともみ 人としてもみんな魅力的なんですよ!
私は必ずインタビューをするようにして、創業の話、ブランドのコンセプトや哲学などお伺いして動画を作っています。
毎週木曜日に行っているスローファッションライブにもオンラインで創設者を繋いでゲスト出演してもらっています。
洋服の表面ではわからないその人の努力や裏側の想いを知ってもらって長く大切にきて欲しいんです。
のぶ子 素晴らしい試みです。雑誌などで流行の服を見ると、物欲が出てきます。
ともみ 流行に左右されるのではなく、まずはエシカルな服を1着
同じ服を大切に着る喜びを是非とも体験していただきたいです。

大好きな服の裏側を知り
芽生えた決意とは?


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のぶ子 ともみさんのお話をお聞きしていると、服への愛着がすごく伝わってきます。昔から服が大好きだったとか?
ともみ 小さい頃から好きなことに没頭してしまうことがあって、洋服もその1つでした。洋服を見るのも着るのも好きで年がら年中洋服のことを考えていました。
仕事もずっとファッション関係で、ただ社会人になりたての頃過度なストレスを全て洋服にぶつけてしまい、気づいたら借金するほどになってしまいました。
のぶ子 その時の心境は?
ともみ 洋服は誰にも迷惑がかからないで楽しめることと思っていたのに、借金することで人に迷惑をかけてしまって、申し訳なさと情けなさでいっぱいでした。
自分のためだけに時間もお金も浪費する愚かな自分と向き合って、自分のために生きるのが嫌になり、自分が好きなもので誰かや何かの役に立って死のうと思いました。


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のぶ子 すごい話です。人のために生きるということは、仕事の本質だと思います。
ともみ その時はじめてネットなどで、「洋服 問題」とか「洋服 貢献」と自分で能動的に調べて綿花栽培の製造工程の映像を見つけました。
大好きな服の原材料である綿をつくる過程で、大量の農薬が使用され、作る人や土壌に悪影響を及ぼしている映像でした。それは安く早く大量に洋服の原料を作る生産の裏側でした。
一番ショックだったのは、農薬で健康被害を受け、亡くなっている農家さんが年間3万人いるという事実を知ったことです。
のぶ子 自分が着ている服が、誰かを傷つけていると思うとショックです。
ともみ 好きなものが何かや誰かの犠牲になる社会を変えたいと火種が生まれた瞬間でした。人生をかけて「人や地球に迷惑をかけずに洋服を楽しめる社会をつくる」と決意しました。


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のぶ子 その後、すぐに起業へと?
ともみ いえいえ、どの事業をすれば社会が変わるかわからなかったので紆余曲折の日々が続きました。
当時は会社員だったので、社内の新規事業に応募したり。
「服の生産過程を知れば、問題が解決するのでは?」と考え、オーガニックコットンを自分で育てて服をつくる「自産自着ビジネス」を10年ぐらい温めていました。
ビジネスコンテストで入賞はするのですが、その先がなかなか実装できませんでした。
のぶ子 やる気はあるのに、もやもやした苦しい日々だったかと思います。そして?
ともみ 2018年に参加したソーシャルビジネスのイベントでボーダレス・ジャパン社長の田口さんと出会いました。
これが私のしたいことだ!と思い、すぐに会社を辞めてボーダレスアカデミーに参加しました。


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ボーダレスアカデミーファイナルピッチの様子

のぶ子 ボーダレスアカデミーに入ってどうでした?
ともみ その10年前の綿花の農薬の話が私の火種の原体験だったため、入学してもまだ「自産自着ビジネス」にこだわっていました。
しかしアカデミーで自分自身や事業と真剣に向き合って、本質を明らかにする作業をくりかえし、現実的なアドバイスもいただきました。卒業後ボーダレスに入り、何度も何度も田口さんとプランを再検討して「まずはエシカルな洋服の選択肢を増やし、エシカルを受け入れる土壌をつくることが先決」と結論。
翌年の2019年にEnter the Eを立ち上げることになりました。

コロナ禍の中で、
新たな展開へ


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のぶ子 一度方向が決まると、事業展開へのスイッチが入りましたよね。しかし2020年のコロナ禍の中、アパレル業界も厳しい状況が続いています。
ともみ アパレル業界では1年以上前から商品を企画して、半年以上前に受注を受け需要予測をして商品生産に入ります。
コロナのような想定外な状況で工場が止まり、需要時期がズレて、あらゆるブランドが新品の洋服の在庫をかかえてしまう「衣類ロス」に悩まされました。
のぶ子 ともみさんのお店も?
ともみ 残念ながら。これまでEnter the Eは固定の拠点を持たず、商業施設などでポップアップイベントなどを開催していますが、決まっていた10のポップアップがキャンセルになってしまいました。
皆さんに届けたかった春夏の服が行き場のない状態になり。初めて自身が「衣類ロス」の問題に加担しかけました


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ともみ アパレル産業は、ヒット商品の売り逃しを恐れて需要よりも過剰に作る傾向もあるんです。
新品の半分は売れ残りどこかで処分されていて。大量破棄することが温室効果ガスとも大きく関わっていると言われています。ものを事前に作って、仕入れて売るっていう構造自体ではロスを未然に減らすことができないし、200年近く変わってないシステム自体を変えないとということにも気づいたんです。
今が変わる機会ではないか?と。
のぶ子 コロナ禍をチャンスととらえたんですね。
ともみ 取引先のブランドの賛同を得て、在庫を持たず、仕入れる前にお客様に受注をとる仕組みを構築することにしました。
オンラインで毎回紹介する洋服がどこで誰のどんな思いで作られたのかを丁寧に伝え、ゆっくりスローに届くのを待っていただく取り組みで「スローファッションライブ」と題しYouTubeのストリームでライブショッピングを配信しています。


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スローファッションライブの様子

ともみ 「物語を着よう」をコンセプトに洋服の背景やストーリー、コーディネイト、お手入れ方法について解説しています。
ブランド創設者にもゲストで参加してもらい、お客様はチャットで質問できますし、気に入った洋服はその場で注文できます。
その後Enter the Eは必要なものだけ注文します。
のぶ子 拝見しましたが、ともみさんのトークが熱くて。
ともみ 仕入れが前提のセレクトショップがこうした受注会を開催するのは珍しく、画期的なことかもしれません。
こうした在庫を持たないセレクトショップとして事業をリデザインしていく予定です。
のぶ子 そのほかにもEnter the Eはコロナ禍の中、大躍進でしたよね。
ともみ 今年は創業1年目でしたが、お陰さまでTOKYO GIRLS COLLECTION
KOBE COLLECTIONなど参加させていただいたり、
FRaU ETHICAL AWARDを受賞させていただいたり。
地道にコツコツですが、「エシカルファッション」や「サステイナブルファッション」の認知の架け橋になれたらと思います。


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のぶ子 今後の展開などは?
ともみ 在庫を持たないこのライブコマースのやり方で「エシカル界のジャパネットたかた」を目指し衣類ロスの問題に立ち向かいます。
また3つの「ない」を極めていきたいです。3つの「ない」とは「在庫を持たない」「店舗を持たない」「人を雇わない」。
セレクトショップとしてサステイナブルな洋服だけを提供するだけではなく、サステイナブルな経営をしていきたいです。
のぶ子 サステイナブルな経営、大切な視点ですね。具体的にはどのように実現していくのでしょう?
ともみ 拠点を構えず、ショールーム出展をし、置くのもネットショップのサンプルだけにします。
人も単純な雇用関係ではなくEnter the Eの取り組みに賛同してくれる仲間をアンバサダーと呼んでいて、その仲間たちと共に活動を広げつつ「同じ未来をつくりたい共同体」という立ち位置で新しいスタイルを築いていきたいと思います。
それから!
のぶ子 まだ何か面白いことを?
ともみ 来年はボーダーレス・グループのソーラーシェアリングとコラボして、休耕地でオーガニックコットンの栽培もEnter the Eでスタートしようと思います。
綿花栽培で炭素を吸収できない土壌を元気にして、洋服で地球に恩返ししたいです!
のぶ子 今後もEnter the Eの更なる飛躍を見ることができそうですね、楽しみにしています!

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最後までお読みいただきありがとうございました。

今回のインタビューは、ボーダレス・ジャパンが月に2回発信しているボーダレスマガジンのコンテンツです。
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