形や量が規格に合わないために、一般の流通では販売できずに捨てられてしまう野菜があります。もったいないと思いませんか。
そこで昨年、規格にこだわらず、本当においしい農産物を仕入れて販売する「八百屋のタケシタ」を立ち上げた竹下友里絵。グループ最年少社長、24歳の彼女の素顔に迫ります。
今回話を聞いたのは・・・

photo タベモノガタリ株式会社 代表取締役社長 竹下友里絵
1996年、兵庫県神戸市生まれ。高校2年生でカナダに留学。関西学院大学から神戸大学農学部に3年次編入し、在学中にユヌス&ソーシャルビジネスデザインコンテストに参加。ボーダレス・ジャパン賞を受賞して、2019年2月に起業。

photo 聞き手 ライター エミ
フリーライター&エディターとして数千人を取材。ボーダレスの理念や活動に感銘を受け、客観的な視点で情報を発信している。

 

大学在学中にビジコンで受賞

エミ ゆりえさんは神戸市で「八百屋のタケシタ」をされていますね。しかも大学在学中に起業されたとか。どんなコンセプトでしょうか?
ゆりえ 農作物のフードロス問題を解決したくて、規格外野菜や果物、米などを仕入れて販売しています。
規格外野菜というのは、決まった形や重さなどの要件を満たしていないために、一般流通にのせられない野菜のこと。
ちょっと形が悪いだけで売れずに捨てられるなんて、もったいないですよね。
そんな規格外野菜や、たくさんできすぎて販路が見つからない農作物などを生産者から直接仕入れて、地下鉄の谷中駅の駅ナカや商業施設の広場などで販売しています。
エミ 素晴らしいアイデアですね。仕入れのこだわりは?
ゆりえ とにかく味重視。全て私が産地に行って味見して、本当においしいものしか仕入れないのがポリシーなんです。


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エミ 農業に興味があったのですか?
ゆりえ 地元は神戸で祖父母の家も街なかなので、農業は遠い存在でした。
ただ、中学校の英語の教科書で貧困や飢餓など世界の問題を知り、私は小さい頃から食べることが好きだけど、世界には食べられずに死んでいく人がいるなんて…とすごくショックを受けました。
エミ なるほど。
ゆりえ それで国際協力の道に進みたいと思い、高校2年で1年間カナダへ留学。
すると、ホームステイ先の家族は食べ残しがすごくて、パスタなどをドサドサと捨てちゃう光景に衝撃を受けたんです。
私は残さず食べる派で、残ったら冷蔵庫に入れ、翌日に食べるのが普通と思っていたから。
エミ 「捨てないで」とは言わなかった?
ゆりえ いやあ、言えなかったですね。当時は英語もようしゃべれんし、結構シャイガールだったんで(笑)。
フードロスについて調べると、世界で生産されたものの3割は破棄されていて、日本でもかなり捨てているという現実を知りました。


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ゆりえ 国際協力について学ぶため、関西学院大学の総合政策学部に進学。1年生の冬に先生から「竹下さんはなんで国際協力に興味があるの?」と聞かれて、改めて振り返ってみるとカナダの経験が大きかった。
それまで国際協力をすごく大きく捉えていたけど、自分は食の課題に興味があると気づきました。それで3年次から神戸大学の農学部に編入しました。
エミ 農学部ですか。
ゆりえ 実習で田舎に泊まり、米や野菜や果物の現場を体験させてもらい、「農家さんってマジで偉大やな」と実感しました。
特に精米後の米に混ざった黒い米を目視で選別するとか、想像を超える大変さで…。
エミ 都会育ちでも土や虫は平気ですか?
ゆりえ 虫は大っ嫌いで、家には絶対来ないでほしいけど、畑にいる虫はね、人間がお邪魔してる側やと思うんで、「お邪魔してます」って感じです(笑)。
エミ 確かにそうですね(笑)。


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ゆりえ 3年生が終わって、このまま就活しても自分のやりたいことを仕事にできるイメージが湧かずに1年休学。
NPOで活動したり、東京のベンチャーで働いたりして、最後は野菜のネット販売をしている京都の坂ノ途中という会社の海外事業部でインターンさせてもらいました。
エミ 海外事業部ですか。
ゆりえ ラオスの生産者と一緒にコーヒーを作り、輸入して販売するという事業で、ラオスまでついて行って勉強させてもらいました。
事業リーダーが20代後半で、その人の仕事のやり方を見ていたら、自分にも事業が作れそうと思えたんです。
それでラオス滞在中に「インターンをやめて、自分でやります」とリーダーに話しました。

4ヶ月後には起業していた!

エミ 学生のうちに起業のイメージが湧いたのですね。
ゆりえ はい、4年生に復学して友達3人でタベモノガタリというチームを作り、ユヌス&ソーシャルビジネスデザインコンテストにエントリーしました。
半年で4回なけなしのお金をはたいて東京に通いましたよ。コンテストには100チームくらい参加していて、私たちは学生部門で優勝できなかったけど、グランドチャンピオン決定戦で賞を3ついただき、その中にボーダレス・ジャパン賞がありました。
エミ おめでとうございます。
ゆりえ 2018年10月に受賞してから福岡のオフィスを訪ねて、田口さんや他の事業リーダーに話を聞き、帰り道にボーダレスで起業しようと決めました。


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エミ 在学中に起業準備ですか。
ゆりえ はい、大学に通いながら遠隔でボス(ボーダレスジャパン社長の田口)に壁打ちしてもらい、プランを仕上げて2019年2月に法人化しました。
ちなみに、一緒にビジコンに参加した友人のひとりは今ボーダレスのデザインチームで働いているんですよ。
エミ へー、いろんな道があるんですね。それにしても、受賞から4ヶ月で法人化なんてはやい。
ゆりえ グループで最年少の社長になりました。


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エミ それから?
ゆりえ まずは2019年4月に神戸で2週間くらいテスト販売。
そこから卸メインにするかとか方針が迷走して結局、今年1月に駅ナカで頑張ろうと戻ってきました
コロナで駅ナカ販売を休んでいる間は、トラックに野菜を積んで神戸市内で移動販売
販売する曜日や時間などを配信するLINE@には、700人以上が登録してくれています。ぜひSNSを見てもらえるとうれしいです。
エミ 売る場所はどうやって探したのですか?
ゆりえ ご縁ですね。知り合いにたまたま地下鉄の場所貸しをやっている人がいて。
起業すると決めてから、いろんなイベントに顔を出ししてネットワークづくりを頑張ったので、そのコネクションが活きてきているというのはあります。


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エミ 仕入先の農家さんとはどうやって出会うのですか?
ゆりえ 最初は農業系サークルの知人に農家さんをひとり紹介してもらい、
そこから農家さんが紹介してくださったりして、農作業を手伝いながら話を聞いたりしています。
今は25件の農家さんと提携しています。
エミ 味にこだわるなら、訪問したけど取引に結び付かないことも?
ゆりえ めっちゃあります。本当においしい野菜ってマジでおいしいんですけど、そういう生産者に出会うのはとても難しくて。
エミ 期待したほどおいしくなかった場合は?
ゆりえ またタイミングあれば、みたいな感じでご挨拶して…タチ悪いですよね、ホント(苦笑)。

いつの間にか
愛してもらえる存在になっていた

エミ 農家さんとのお付き合いはいかがですか?
ゆりえ すごくうれしいのは「これ出されへんか?」みたいな相談をもらえるとき。
例えば、ちょっと傷がついたズッキーニや小さな玉ねぎなど、今まで売れないと思っていたものをうちなら売ってくれるかもしれないと相談されると、コンセプト通りの動きができてるという実感があります。
お客さんがコンセプトを理解した上で来てくれるので、形が多少悪くても安心して出せる。お客さんの顔が見えているからこその仕入れができているのは大きいですね。
エミ お客さんはどんな人が多いですか?
ゆりえ うちは値段が安いわけでもないけど、味がいいからと来てくれたり、顔見知りになって気に入ってくれたり。メインの名谷駅は、60代以上の高齢者や仕事帰りの女性客が多いですね。
高齢者はいい野菜が分かるみたいで、最初は「ええ野菜やな」と寄って来てくれました
5月にテレビ朝日の「あいつ今何してる?」に出してもらって、それを見て来てくれた人も多いですね。
(「私たちの食生活を変える!?(秘)スーパー才女」として紹介されました。)


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エミ この事業の難しさは?
ゆりえ 今は仕入れが安定しないという課題にぶつかっています。産直でやってる分、その人の野菜が出なかったら野菜がないんです。
今年は特に梅雨が長く、ハウスが水と泥まみれで…安定供給の難しさを感じています。
エミ 自然が相手ですからね…。やりがいを感じるところは?
ゆりえ やりがいだらけですよ。
コロナで駅ナカ販売を休むと決めた最終日は「どないしよう」と思ってたら、お客さんたちに「いつか帰って来てな」と声をかけてもらって、すごくグッときましたね。
いつの間にか愛してもらってたんやなと。そして6月に戻ったら「あー、帰って来たんか」「待ってたよ」とあたたかく迎えてもらって感激しました。


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エミ いい話ですね。これからの目標を聞かせてください。
ゆりえ 当面のテーマは、販売場所をもっと増やして、神戸市のどこに住んでいてもうちの野菜を手に取れる状態を作ること。
神戸はコンパクトな商圏で、コミュニティの中で生産物を流通させることが理想の形だと考えています。
できれば福岡や名古屋など政令指定都市に横展開したい。のちのちは、どうしても出てしまう売れ残りを自分たちで加工して回せる体制も作りたいです。
エミ 現在新しい仲間も募集しているようですね。
ゆりえ はい、アルバイト採用で配送スタッフ
名谷駅での販売スタッフを募集しています!
野菜と共に、物語と思いも届ける仕事に興味がある方にぜひ仲間になってほしいです。


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エミ 8月25日に「BORDERLESS TALKS」に出演して、田口さんと対談されるそうですね。
ゆりえ めっちゃ楽しみにしています。ボスとはいつも遠隔で仕事の話メインで、普通の話をする機会がなかったので。
エミ へー、そうですか。
ゆりえ 受賞から起業まで2回しか会ってなくて、私は経営的な数字にすごく弱かったんですけど、それでも「大丈夫だよ」とよく受け入れてくれたなと感謝してます。
エミ コンテストのビジネスプランが良かったのでは?
ゆりえ いやいや、それがですね…受賞後にボスから「プランはどうでもよかったけど、ゆりえが面白かった」と言われたんですよ。
えっ、プランはどうでもいい???と、あのひと言は今も忘れられないですね。
まあ、社会起業家として見てもらったということで、うれしいような、でもうれしくないような(笑)。
そうだ、BORDERLESS TALKSで、ボスに真意を聞いてみようかな。

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