子どもの頃、誰もが受けてきた学校教育。思い出に残っている先生がいるのではないでしょうか。
「子どもたちに誇れる社会をつくる」をミッションに掲げ起業した三原菜央が7月1日、先生たちを本気で応援するユニークな「先生の学校」をスタートします。
常に走りながら前に進んできた彼女の人生や思いをたっぷりご紹介します。
今回話を聞いたのは・・・

photo スマイルバトン 代表取締役社長 社長
1984年、岐阜県出身。大学卒業後、専門学校・大学で教員と広報責任者を兼務して働き、ベンチャー2社、リクルートライフスタイルを経て、2020年2月ボーダレス・ジャパンにジョイン。著書に「自分らしく働く パラレルキャリアのつくり方」。

photo 聞き手 ライター エミ
フリーライター&エディターとして数千人を取材。ボーダレスの理念や活動に感銘を受け、客観的な視点で情報を発信している。

エミ なおさんはどんな環境で育ったのでしょう?
なお 岐阜市出身のひとりっ子です。両親は小学校の先生で、忙しくも楽しそうに働いて
いて、家には父が教え子からもらった絵が今も飾られています。アパレル会社を営む祖父母と同居していました。
小学6年から大学1年までは、バスケットづけの生活。しかも小中高の12年間、一度も学校を休んだことがなく皆勤賞という、超元気で学校大好きな少女ですよ(笑)。
先生は常に新しいことを教えてくれて、自分に期待もしてくれる私にとって欠かせない存在でした。

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エミ 12年間皆勤とは、すごい。将来は先生になりたいと思っていたとか!?
なお いえいえ、動物が大好きで、小学校の頃は獣医さんに憧れました。
中学からはバスケに打ち込みすぎて、高3で部活を引退して進路を考えたとき、ピンとくるものがなくて。
ただ、食べることが好きというのと、母に「先生の免許は取っておきなさい」と言われたこともあり、栄養士の資格と家庭科の教員免許を取得できる女子大に進学しました。
エミ お母さん、さすがだなあ。
なお だけど、大学1年のときに洋服に目覚めちゃって、母に退学したいと言ったんです。
そしたら、「一つのことをやり遂げられない人間が、何をやってもダメ」と返され、結局バイトでお金を貯めて、大学2年からダブルスクールをしました。
昼間は大学で栄養士や先生の資格を取るために勉強し、夕方からはアパレルの専門学校でファッションビジネスを学ぶ日々。
細切れにアルバイトを入れて、大学と専門学校の課題も多く、大量のタスクをさばく力が身についたと思います。

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エミ 好きなことだから、頑張れたのでしょうね。
なお 夜間の専門学校は自分で貯めたお金で学びにきている方が多く、目的も明確で学ぶ姿勢が大学の友人とは全く異なりました。
真逆の環境に身を置いたことで「学びたい」という気持ちで人はこんなにも変わるのだと目の当たりにしました。
そして私自身も、大学4年間の成長率はものすごく高かったと思います。
エミ 自分の成長って、どんなところから感じました?
なお 「18歳より19歳の今の自分の方がすごく楽しく生きてる」「19歳より20歳の今の方が充実してる」とか、毎年ずっと自分が更新されて進化していく感覚が21歳まで確実にあったんですよ(笑)。
エミ なるほど、分かりやすい。そして就職は?
なお 自分が学んだことを全て生かしたい、多感な18~22歳を主な対象とした高等教育に携わりたいと思い、専門学校の教員の道を選びました。あらゆる分野の専門学校を全国で60校ほど展開する学校法人で、計8年勤めました。
担当した授業は、プレゼン、キャリアデザイン、情報処理、スポーツ栄養、食育など。2校目で広報の責任者も兼任し、立ち上げ生徒数60人から5年で600人近くに増やし、同期で最初に役職に就いたり、大勢の前で発表させていただいたりと、特別な経験もさせてもらいました。
天職だと思って働いていました。

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エミ でも、8年で区切りがきた。
なお 生徒の成長に立ちあえる先生という仕事が大好きでした。
ですが保育士・幼稚園教諭の専門学校で働いていたとき、ある男子生徒から「保育士や幼稚園教諭では家族を養っていけないから、一般企業に行こうと思う。先生のおすすめの企業を教えてほしい」と言われて、ハッとしたんです。
私は専門的な仕事のことは知っているけど、一般企業や社会の仕組みは全く分からない。新卒から先生になって、教育の世界で井の中の蛙になっているかもしれないと。
外の世界をまずは自分が体験しようと、退職を決めました。
エミ 30歳くらいですね。
なお 退職することは決めたものの、何をしたいかはぼんやりしていて、仕事の探し方も分からない。
そんな状態で転職してしまったので、転職した先の風土と合わず、「私は何のために働いてるんだっけ?自分らしく働くって何だろう?」と悩み、1社目と2社目はそれぞれ1年で辞めました。
ただ、悩みながらも「これからどう生きていきたいのか」と自問自答していました。自分の人生にこれまで本気で向き合ってこなかったことに気付いたからです。
そこで始めたのが、今も毎週日曜日に実施している「ジブン会議」でした。どんな人生を歩みたいか、何が好きか、何が嫌かなどを常に自分に問い、自己を理解しようと努めました。


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エミ 自己理解を深めるために「ジブン会議」というのは、良さそうですね。
なお そんな中、後輩と食事に行く機会があり転職することを伝えたら、「なおさん、先生をしていた8年はキレイなキャリアだけど、あとの2社を1年ずつで辞めたら履歴書に傷がつくと思います」と言われました。
それを聞いて私、猛烈に違和感があったんです。「えっ、人生って過去のバツの数で決まるの?今ここから変わりたいという気持ちに社会は応えてくれないの?」って。
どんな人でもどんな状況でも何歳でも、今ここから変わりたいと本気で思う人がいたら、それを支える社会でありたいし、選択肢にあふれた社会を作りたい。
これが私の原点にある思いで、今も大事にしていることです。


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エミ 彼女によって、自分の思いを再確認できたと。
なお はい、彼女の言葉を聞いて、そんなの自分次第だと思い、本気で転職活動を始めてリクルートライフスタイルに入社しました。
リクルートの面接で、すごく心に残っている人事の方の言葉があります。「自分がどうなりたいかをもう少し描き切った方がいい。あなたのキャリアや人生に、弊社がどんな貢献ができるのかを考えている。そこがフィットするならぜひ入社してほしい」と。
私はそれまで会社が優、働く人が劣と思っていたけど、会社と個人は対等で、お互いWIN-WINになる形を探していると言われて、すごく視界が開けたし気持ちがラクになりました。
自分の思いを正直に伝えて、結局、広報として採用されました。

エミ なおさんには常に気づきがあり、進歩していますね。
なお 自分がやりたいことと会社のやりたいことが合致するところで仕事ができて、すごく楽しかったし、自分がどんな環境に身を置くかが重要だと感じました。
また、副業OKだったので、自分にしかできないライフワークに挑戦したいと思い、2016年9月にプライベートで「先生の学校」を始めました。
エミ 先生の学校とは?
なお 先生たちが、先生以外の方たちと学び合える学び場です。
始めた経緯は、転職した後も「教育」に携わりたいという気持ちが消えなくて、何か始めたいと思っていたからです。
ちょうどその頃、キングコングの西野さんが世界で一番楽しい学校「サーカス!」というのをやっていて、観に行ってみました。
先生ではなく、各業界のいろんな人が20分ずつ円形劇場でプレゼンするというイベント。それがおもしろくて、「これだ!」と思ったんです。先生が学外の人たちとつながり、新しい視点を得られる場は絶対大事だと思い、2016年9月に西野さんなど3人をゲストに招いて、第1回「先生の学校」を開催しました。
だけど、大失敗だったんですよ。全く認知されていない状態だったのに500人収容できる会場を抑えちゃって、160人しか集まらないし、他にも反省点が山ほど…。
その失敗から、まずは自分の身の丈に合う、本当に価値があると自信を持ってすすめられるものをコツコツとやっていこうと決意。
2017年2月からは毎月30人くらいの規模で、テーマを決めてゲストを呼ぶスタイルに切り替えました。フィンランドの教育視察ツアーも企画運営しました。


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エミ 先生以外の方も結構参加されますか?
なお 毎回半々くらいです。地道に知り合いの先生に声をかけたり、Facebookで質の高い記事を紹介したりする中で、徐々に先生の学校のFacebookページのフォロワーが増えて、今は2500人くらいになりました。
エミ ボーダレス・ジャパンを知ったきっかけは?
なお それが偶然の出会いなんです。
先生の学校をコツコツやる中で、行動を起こすと何か一緒にやろうと声をかけていただく機会が増えたり、質のいい情報が入ってきたり、つながりもいいものになったりして、いい循環が起こると実感していました。
そんな中、2018年12月、普段は見ないツイッターをたまたま開き、ボーダレスの社長の田口の記事を見つけました。
当時はソーシャルビジネスという言葉もよく分かってなかったけど、社会の困りごとをビジネスという手段で解決する仕組みに感動し、それで成果を出している人がいるということにすごく興味を持ちました。すぐにボーダレスのサイトをくまなくみて、ますます魅力を感じました。
その記事は、エミさんが書かれたものだったんですよね。
エミ 私の記事がなおさんとボーダレスがつながるきっかけになったなんて、本当にうれしいです!
なお ボーダレスの存在を知り、初めて起業を意識しました。人にはフェーズがあると思うんです。まずは先生という仕事にやりがいを感じ、一歩外に出てみたらすごく苦労して、モヤモヤを抜け出すために頑張ったらリクルートに出会い、視野が広がった。
そこで自分らしい1歩を踏み出し、次のステップを考えていたらボーダレスに出会った。ボーダレスがすごいと思ったのは、志の高い人たちが集い、理想の社会づくりに邁進しているところ。
その姿に、私もこれからは自分のためではなく、理想の社会づくりに自分を使っていこうと決めました。
エミ さらにステージアップですね。
なお 2019年6月からボーダレスアカデミーに2期生として参加しました。
そこで先生の学校を事業化するためのプランニングをしたのですが、納得いくものができず、燃え尽き症候群みたいになっちゃいました。


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エミ へー、そうですか。
なお いろいろな迷いが生まれていた11月、社長の田口と話す機会がありました。
思いや考えを話すうちにいろんなアイデアが出てきて、まるで光が差してくるような感覚でした。
あと、ボーダレスの環境はさまざまなサポートを受けられるので、そこに甘えてしまって本当にそれでいいのかなという違和感みたいな気持ちがあったけど、
「社会問題を本当に解決したいという志を持った人たちのために作った仕組みだから、いいんだよ。恩送りのシステムだから」と言われてスッキリ。
リクルートを退社して、2020年2月にボーダレスにジョインしました。
エミ ビジネスプランが仕上がったのはいつでしょう?
なお 11月に田口と話したときのアイデアが原型で、それをプランに落とし込み、2月20日には社長会で事業が承認されました。会社名はスマイルバトンです。
エミ おー、ジョインして1ヶ月で承認とはスピーディ。社名にはどんな思いが?
なお 次世代の人たちがもらって、思わず笑顔がこぼれるようなバトンをつないでいきたいという思いを込めています。
「子どもたちに誇れる社会をつくる」をミッションに掲げた会社で、その一つの手段が先生の学校だと思っています。
今後もたくさんの事業を生み出していくつもりです。

エミ 事業化する先生の学校では、どんなことをされるのでしょう?
なお 私が個人でやっていた先生の学校は、リアルのイベントにこだわり、これまで60回ほど開催し、約3000人の方が参加してくださいました。
先生方から意識や行動が変わったと言ってもらうこともあり、意義を感じていました。スマイルバトンを設立後はコロナの影響もあり、オンラインイベントに切り替えました。
すると、世界中とつながれて、これまで以上に興味を持ってくださった方が集まって来てくれることが分かりました。
7月1日からはオンライン上に先生の学校を開校して、無料やメンバー価格でイベントを楽しめたり、プロジェクトに参加できるという月額制のコミュニティをスタートします。
メンバー特典の一つとして、「HOPE」という雑誌もお届けします。
エミ 「HOPE」を読ませてもらいました。ものすごく良質なコンテンツがそろっていますね。
なお ありがとうございます!国語・算数など教科の実践につながる内容ではなく、先生のスタンスに影響を与えるコンテンツや、先生にこれから必要とされる知識、例えば脳科学や心理学、ファシリテーション、コーチングなどのスキルにフォーカスしたコンテンツを提供していく予定です。
教え育む「教育」を超え、新しい「きょういく」を探究できる雑誌を目指しています。


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エミ 雑誌名「HOPE」にはどんな思いが?
なお スウェーデンの環境活動家グレタさんが言う、大好きな言葉です。
みんなHOPE、つまり希望を探そうとするけど、希望は探しても見つからない。でも、行動を起こすと希望が生まれてくるから、まずはできる行動から探してやってみてください、と。
私の人生もまさにそうで、暗闇から脱するために希望を探しても見つからなくて、本を読んだり誰かに会ったり、小さくても1歩を踏み出すことですごく変わっていったと実感しています。
だから、小さな1歩だとしても行動を起こして自分の人生に、そして他人の人生にも希望を作り出せる人を増やしたいという思いを込めてHOPEと名付けました。
エミ 先生という仕事は、尊いなと思います。
なお 先生と子ども、両者の人生を豊かにするということをミッションとして、先生の学校をやってきました。
先生の元気がないと子どもに伝わるし、先生が子どもに与える影響は想像以上に大きい。
だから先生が何かを楽しんだり挑戦したりすると、子どもも自然とそうなると思っています。先生は個性や可能性を発揮して、人生を楽しんでほしい。
先生の学校は、そんなきっかけになりたいと願っています。
エミ なおさんは今1歳のお子さんを育てながら起業されて、本当にパワフルですね。
なお 夫がすごく応援してくれるんです。私はやりたいことがいっぱいあって、どんどん行動するタイプ。夫は真逆のタイプで、のんびりマイペースに生活を楽しんでいる。
最初は彼に「何かやりたいことはないの?もっとやりたいことをやればいいじゃん」と求めちゃったけど、彼はやりたいことがある人をサポートするのが好きだと分かり、「ああ、人は多様で、それぞれの役割があって、違うことが素晴らしいんだ」と学びました。


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エミ とても大切な気づきですね。
なお はい、だから、私は先生に私の理想を押しつけたくなくて、ドンドン現状を打破し開拓する先生、子どもたちに優しく寄り添う先生、コミュニケーションは苦手だけどオタクのように物知りな先生…
どんな先生もそのままでいい。ただ、時代が大きく変わっていく中で、昔の風習を押しつけたり、子どもがやりたいことを邪魔したりしてはいけないし、おかしな仕組みは変えていった方がいいと思っています。
エミ 先生が変わることを是としたら息苦しくなりそうで、そのままでOKと認めてもらいつつ、いろんなことを学べるのはとてもいいなと思います。
なお 先生たちの個性や魅力をもっと解放するにはどうしたらいいかをずっと考えています。自分の良さは人を通して分かることも多いので、先生の学校がそんな場になれるとうれしいです。
先生も、そうでない方も、ぜひ先生の学校をのぞいてみてください。皆さんとともに、「きょういく」を探究し、創造できればと思っています。また、7/8(水)のBORDERLESS TALKSでは、私のこれまでの経験や今後実現したい社会をより深掘りしてお話する予定ですので、ぜひこちらもご覧ください。

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最後までお読みいただきありがとうございました。

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