
みなさんこんにちは。社会問題にもソーシャルビジネスにも全然詳しくないのに、それらを取り上げるメディアのライターになりました、クリスと申します。
さてこんな私ですが、実はソーシャルビジネスしかやらない「ボーダレス・ジャパン」の広報として、ほんの一瞬だけ働いていたことがあります。しかし今、「ボーダレス・ジャパンってどんな会社なの?」と聞かれたら、うまく答えられる自信がありません。ボーダレス・ジャパンはよくこんな人材を採用したな……。
そこで今回はボーダレス・ジャパンの「ボス」こと田口一成さんに、「ボーダレス・ジャパンって、一体どんな会社なの?」という質問をぶつけてみました。すると、数々の社会起業家が誕生する仕組みがようやく分かったのです。
目次
※インタビュー日:2019年12月5日
Kin〇i Kids、関ジャ〇∞、少〇隊……。僕らはソーシャルビジネス界のジャニーズだ!
元広報でありながらこんな質問はしちゃいけないかなと思いつつも、今回は「ボーダレス・ジャパンをどう説明したらいいのか」について聞きに来ました。
どう説明したらいいのか、ねえ……。僕も教えてほしいですね(笑)。
社長がそんな感じだと幸先が悪い……! たしか「ソーシャルビジネスのプラットフォーム」と言っていませんでしたっけ? その時はプラットフォームの意味すら分からなくて調べましたが、今でもうまくかみ砕けないままです。
確かにプラットフォームでは伝わりにくいですよね。最近思いついた例えで話すなら、国連の企業版かなあ……。
かなり大きな機関をひっぱってきましたね。
そうですね(笑)。国連は国際平和と安全を守るために存在しているため、世界に対する影響力は大きいものの、それぞれの国をコントロールする力は持っていません。そこがボーダレスと共通していると思うんです。
▲ボーダレスジャパングループ各社社長が集まる世界会議
もう少し詳しく解説を……!
ボーダレスもグループ各事業のコントロールは、それぞれの社長やメンバーがしています。ただ国連と同じようにすべての事業が、同じ目的を持ちそれを実現しようとしている点が共通していると思うんです。国連の場合は「国際平和と安全の維持」、ボーダレスグループの場合は「ソーシャルビジネスを通してより良い社会をつくる」という目的を持っています。
すみません……。国連のたとえでは、まだぴんとこないです。
う~ん……。それでは、さらに最近思いついた、とっておきの例えを。
それは一体?
ジャニーズです。
※画像はイメージです。Photo by いらすとや
はい?
芸能事務所のジャニーズです。ジャニーズにはKin〇i Kids、関ジャ〇∞、少〇隊といったさまざまなアイドルグループが在籍していますよね? その数々のアイドルグループが、ボーダレスでいうところの社会起業家であり、立ち上がったソーシャルビジネスなんです。
国連とはちがいすぎる切り口で、頭が混乱しそうです。
ボーダレスの社会起業家と各社って、みんな個性が強いでしょう?
それは短い期間しかボーダレスにいなかった私も、ひしひしと感じていました。
そういう事業ごとの特性は大切にしつつも、ボーダレスグループにいることが社会起業家にとっての安心感となるんです。社会起業家が一人で抱えがちな孤独や不安を取り除き、果敢な挑戦を可能としている。ここがジャニーズと似ているんじゃないかなと。またボーダレスでは、新人起業家にビジネスプランを練るところからしっかりサポートに入り、さらに起業のための修行期間ももうけています。この期間がジャニーズ事務所でいうところの、ジャニーズJr.。ダンスや歌のレッスンをへてデビューする仕組みを用意している点が、ボーダレスの起業家育成の仕組みと類似していると思うんです。
▲ダンス(ソーラン節)レッスン中のボーダレスメンバー。その様子はまるでジャニーズJr.?
なるほど! ということは、田口さんが故・ジャニー喜多川さんのように「YOU、やっちゃいなよ!」と言うわけですね。
いや、そこは違います。ボーダレスグループでは各社が頑張って積み立てた利益余剰金を使って新会社を立ち上げるシステムをとっているので、僕の一存で「やっちゃいなよ」と決められないんです。新会社を立ち上げる時は必ず、各社の社長が集まる「社長会」を開き、そこで承認するかしないかを決めています。
▲社長会の光景。全世界のボーダレスグループ社長が、新会社のプランを見ている
赤字企業の尻ぬぐいにならない? 財布をともにするメリットとは
ボーダレスグループでは、各社で出た利益余剰金で新会社を生み出しているとのことですが、私だったら積み立ててきた利益も自分たちの会社のために使いたいと思ってしまいます。
もちろん、そういう考えがあって当然だと思います。ただ僕は、その考えだと「起業家の孤独」を救えないと思っているんです。
起業家の孤独ですか?
起業家って、自立はしたいけれども孤独には生きたくないという矛盾を抱えた生き物なんですよ。
▲ボーダレスグループでは、事業をこえた協力が日常茶飯事だ
そこで「利益余剰金を共有する=財布をともにする」という仕組みを作ったんです。こうすることで、独立した起業家同士が身内のような関係で助け合えるようになると、僕は思っています。
なぜそう思うのでしょうか?
僕らはみんなの余剰利益を使って新しい社会起業家をサポートするようにしています。そうやって立ち上げサポートを得たことで事業を成功させた起業家は、次は自分が助ける(お金を出す)側に回ろうと思うんです。このことをボーダレスグループでは「恩送り」と呼んでいます。そうやって脈々と恩送りを繋げていくことで、みんながお互いに助け合う起業家の相互扶助コミュティを作っています。
▲ボーダレスの「恩送り」システム
支えあいの連鎖ですね。しかしやはり、「財布をともにする」ことにはリスクがあるように感じます。他の事業の黒字でもまかなえないほどの極端な赤字がある1つの事業で発生したとしたらと考えると、怖いなと。
実際にありましたよ。CORVaというバングラデシュの児童労働問題改善のためにアパレル製品をつくっている会社が以前あったんですが、とてつもない赤字を出しました。そのときは事業を飛び越え、グループ社員が一丸となり、CORVaを支えました。
正直私は、そういう事態をすんなりと受け入れられる自信がないというか。あえて言葉を選ばずに言うと、「尻ぬぐい」じゃないですか。
確かにそうですよね。でも不思議なことに、それを「尻ぬぐい」と思わない雰囲気がボーダレスにはあるんです。それはやはり、自分一人で事業をしているわけではない、誰かの支えがあって自分はここにいるという感謝の想いがメンバーの中にあって、「恩送り」という行動につながっているんじゃないかと思います。もちろんこのことは美談にするつもりはありませんが(笑)。
ちなみにCORVaの社長は今……?
Sunday Morning Factory株式会社でベビー服ブランド「Haruulala」を立ち上げ、当時と同じくバングラデシュの児童労働問題解決に取り組んでいますよ。現地での雇用数は増加しています。また国内でも「Haruulala」のベビー服は取り扱い店舗が全国各地に増えて、事業の黒字化も達成しました。さらにおさがりを前提とした「おさがりお名前タグ」はSNSで話題となり、テレビにも取り上げられたんですよ。
財布をともにしているからこそ、再チャレンジもできるんですね。
起業家だって、人間だから……
それから財布をともにすることは、ノウハウを心おきなく共有するためにも有効ですよ。
それはどうして?
財布をともにした人間同士なら、気兼ねなくノウハウを共有できるからです。社会起業家だって人間なんですよ。ノウハウを広げたほうが世の中的にいいってことは分かりきっているけれども、そのノウハウは自分が貯金を切り崩しながら寝る間も惜しんで積み上げてきた資産。それを赤の他人に「教えて」と言われて、はいどうぞと言えるほどできた人間ばかりじゃありませんよね。
そりゃあ、そうですね。
でも、そうやってせっかくの社会づくりのノウハウが世界に広がっていかないのはもったいない。
だから僕は、みんながノウハウを自然と共有したくなる「財布をともにする」システムをつくったんです。グループ内はもちろん、2018年からは社会起業家養成所『ボーダレスアカデミー』で未来の社会起業家たちに、ボーダレスが積み上げてきたソーシャルビジネスのノウハウすべてを伝授していますよ。
社会のために動いている人がつぶれない仕組みを届けたい
なぜ、ボーダレスグループでは「恩送り」文化がはぐくまれているのでしょうか?
やはり「1人ではできなかった」「支えてくれる人がいたからできた」という想いからくる感謝の気持ちが、メンバー一人ひとりにあるからではないでしょうか。
僕もボーダレスを立ち上げるときは、本当に苦労したんですよ。そんなときに僕を支えてくれたのが、前職で同期だったすーさん(ボーダレス・ジャパン副社長 鈴木雅剛)や、よっしー(POST&POST社長 吉田照喜)、李ちゃん(BORDERLESS HOUSE社長 李成一)、作ちゃん(元ボーダレス・ジャパン スタートアップスタジオ マーケター 作内大輔)。彼らは会社が従業員を雇うのも無理だという創業期から一緒に働いてくれたんです。
田口さん自身も「一人ではできなかった」という体験をされたんですね。
僕は、本当に恵まれてここまでやってこれました。だからこそ、自分と同じ危ない道をわたる起業家が出ないようにするために、この仕組みをつくったんです。
そういうコミュニティがあればきっと、社会をよくしようとしている人たちがのびのびと活動できそうです。
社会のために動こうとしている人が、資金面でも精神面でも苦しい思いをしてつぶれてしまうのは、大きな社会的損失だと思います。だから僕は、社会をよくしようと動いている人のために、孤独にならず支えあえる環境・仕組みを整えたいんです。
<インタビューを終えて>
「一人ではできなかった」「支えてくれる人がいたからこそ踏ん張れた」
このような感謝の想いを感じたことがある人もいると思います。
ただその想いを次につなげていくとなると、案外難しいもの。ボーダレス・ジャパンのような資金面と精神面で人を支えるコミュニティが増えればきっと、次の世代へ感謝のバトンがつながり、そして広がっていくのではないでしょうか。
インタビュー・執筆 / クリス
福岡在住のフリーライター。ボーダレス・ジャパンを4ヶ月で退職し、いまはパートナーとしてインタビューや執筆を手掛ける。愛猫“雛”をおなかに乗せソファに寝っ転がってアニメを見たりマンガを読んだりする時間が至福。仕事よりもこちらに時間を割きすぎる傾向があるが、やるべきことはやる。企業の採用コンテンツやブライダル、エンタメなどのメディアでも執筆。