
皆さんはどんな基準で服を選んでいますか? デザイン? それとも色? 素材感? 価格も大事ですよね。たくさん悩んで選んだ服は、毎日でも着たくなるお気に入りの1着だと思います。
しかしそのお気に入りの服が、地球や人を傷つけているとしたら……?
今回はサステナブルファッションのセレクトショップ『Enter the E』を運営する新人社会起業家 植月友美さんに、地球にも人にも優しいファッションの楽しみ方を伺いました。
目次
※インタビュー日:2019年10月15日
※本記事は2019年10月28日『ボーダレス・ジャパン』のブログにて公開された記事を、当メディア掲載用に再編集し、2020年5月29日更新したものです
服への深い愛ゆえに落ちた、人生のどん底
セレクトショップを運営する植月さんに聞くのも野暮だと思うんですが、服はお好きですか?
はい、大好きです。
服を好きになったきっかけが、何かあるのでしょうか?
家族の存在が大きかったですね。洋品店を営んでいた祖父や洋裁が得意だった母が身近にいたので、気付けば服に興味を持っていました。幼少期は好きなアイドルの衣装のようなコーディネートを家族の服を組み合わせて遊んでいましたね。
小さな頃から服やファッションが身近な存在だったんですね。
姉がいたこともあって、幼稚園の頃から『JJ』など年齢より上の世代向けのファッション誌も読んでいましたね。ハイブランドのものも同年代の子よりは早くに手にしていたかと。もちろん高いものばかりを好んで着ていたわけではありませんが。
ファッション感度が高まり続けている……!
また、人があまり着こなさないアイテムのスタイリングも大好きだったので、ユーズド品も多く取り入れていました。好きが高じてユーズドのバイヤーをしていた時期もあるんですよ。
服好きの度合いが深い……! そんな植月さんには、服が好きすぎて地獄を見た経験があると伺っています。
服が好きすぎて500万円借金してしまいました(笑)。
思った以上に地獄ですね……。
約10年前の出来事だったんですが、まさに人生のどん底でしたね(笑)。当時は渋谷の六畳一間の部屋に住んでいたんですが、その90%が服の山だったんです。
借金さえなければ、好きなものに囲まれている幸せな空間ですよね。
500万借金してその光景を見たとき、「何をやっているんだろう。何のために生きているんだろう。」と真っ先に思ったのを今でも覚えています。
目の前に、借金を作った元凶があふれているわけですからね。
私は「好きなことをやっていいよ。人に迷惑をかけなければ、ね」という父の方針のもと育ってきたこともあり、「強くありたい」「やさしくありたい」といった自己表現ができて、しかも人に迷惑をかけずに楽しめる服が大好きだったんです。しかしふたを開けてみれば、借金をこさえるという大きな迷惑をかけている自分がいるわけです。「好きなことをやっていたはずなのに、なぜこんなことに?」と絶望しましたね……。
大好きな服で誰かのためになることをするまでは、私は死ねない
そんな失意の底から、なぜファッションでのビジネスを立ち上げることになったのでしょうか?
500万円借金したことで、自分の欲望を満たすために生きるのがつらくなって、その反動で「誰かのために生きたい」と思うようになったんです(笑)。
反動がいい方向に動いたんですね。ちなみに当時、誰かのためにどんなことをしようと考えましたか?
大好きな服で何か人のためになることはないかと、確か「服 貢献」みたいなワードで検索をかけたと思います。そして、綿畑にまかれる散布剤が大地を枯らし人を殺しているという「服づくりの裏側」に衝撃を受けました。誰にも迷惑をかけずに服を楽しんでいたつもりが、そうではなかったことに気付かされて。
※画像はイメージです Photo by dietitian.mama on Unsplash
たった今、私も衝撃を受けました。もしかしたら私が着ている服も、誰かを傷つけているかもしれないんですか?
可能性はあります。その衝撃から「大好きな服で人の、社会のためになることをするまで、私は死ねない!」と思い、服を楽しみながら社会のためになることを失意の底で考えました。そしてボーダレスアカデミーのファイナルピッチでプレゼンした「体験型農園コットンファーマーズビレッジ」につながるアイデアを思いついたんです。
体験型農園コットンファーマーズビレッジ……?
自分が着る服を畑で綿を育てるところからつくる、体験型プログラムです。
なぜそのアイデアにたどり着いたのでしょうか?
このアイデアを考えていた当時のサステナブルファッション界では、「フェアトレード」や「グリーンファッション」といったキーワードをよく見かけました。しかしこれらが示すつくり手側の社会問題を解決するとなると、借金まみれの私にとっておこがましすぎるなと思ったんですよね。
決してそんなことはないと思いますが……。
なにより「誰にも迷惑をかけずに服を楽しむ」という私の原点を軸に、人や社会のためになることを考えたかったんです。そして消費者側への「体験」というアプローチを思いつきました。このアイデアが思い浮かんだとき、自分が育ててつくった服を着て楽しそうに笑う人たちの姿が見えたんですよね。
「これだ!」と思えるひらめきだったんですね!
だから、当時働いていた会社の新規事業コンペに応募しました。それと本音を言うとこのコンペで1位をとれば賞金が出たので、借金を返すあてとして応募したところもあるんですよね……(笑)。
(笑)。ちなみにコンペの結果は?
3位でした。残念ながらトップは取れませんでしたが、自分の頭の中に思い描いていたことが周囲にも認められたことで「まだ私は生きていてもいいんだ」と思えたんです。そしてこのときに、アイデアを事業として形にしていこうと意識しました。
体験型プログラムは今…。ビジネスプランの練り直しは尋問!?
「体験型農園コットンファーマーズビレッジ」でビジネスを考えていたとのことですが、今やっているのはセレクトショップですよね? なぜこのような形で起業したのでしょうか?
体験型農園コットンファーマーズビレッジのプランには、「体験をした人たちにどうなってもらいたいのか」という継続性や連続性の視点が足りなかったからです。
継続・連続性を考えたときに、セレクトショップのほうがもともとのプランよりも適していたのでしょうか?
このビジネスの原点は「人や地球にに迷惑をかけずに服を楽しむ」という私の実体験からきています。だから体験は、楽しむ服の選択肢を増やしてからでも遅くないかなと気づいたんです。
また世界のサステナブルファッションの動向をあらためて調べてみたところ、同じような意志をもって服をつくっている人がこの10年で増えていると知りました。だったらその人たちがつくったものを広げるところから始めてみようと思い、セレクトショップでの起業にたどり着いたんです。
確かに体験は、服を好きになったあとのステップのような気がします。ただコンペで3位を取ったプランを変えるとなると、思考の転換が大変だったのでは?
ビジネスプランを見てくれたボーダレス・ジャパンの田口さんが「考え得ることは全てやるべきだけれども、やる順番を考えよう」と言ってくれたので、冷静に考えられました。とは言いつつも、何度も何度もプランを0⇒1でつくり直してはダメ出しされるので、相談するたびに尋問を受けているような気分を味わいましたけれども(笑)。
私だったら心が折れそう……。
早く動き出さなきゃと思うのに、ビジネスプランが決まらないというジレンマを抱える日々を送りましたよ……(笑)。ただ、ボーダレスアカデミーでの経験があったので、「つくったものへの執着を捨て、柔軟に変えていく」ことへの免疫はついていたんですよね。
第1期生だったんですよね?
はい! アカデミーでは5、6カ月間ひたすらビジネスプランを練っていたのですが、どんなに自信のあるプランもフィードバックを受けては1から練り直すという経験をしていたので「必ず、ゴールにたどりつく」と思えるようになったんです。だからセレクトショップへの方向転換も柔軟にすすめられました。
4.カワイイ+αに出会えるセレクトショップに
ちなみにサステナブルな洋服って、どうしても着るシーンや人を選ぶうえ高価な印象があるのですが、そのような服で選択肢は増やせるものなのでしょうか?
私は「この服、かわいい!」から入るサステナブルファッションを理想としています。日常づかいができて手に取りやすい価格帯のサステナブルな服があれば、これまで以上に多くの人に届けられると思うからです。実際に私が立ち上げたセレクトショップ『ENTER THE E』でも、着るシーンを選ばず無理なく手が届く価格帯の、しかも着れば一気に気分があがってしまうような服をそろえています。
※lovjoi/ENTER THE E
か、かわいい……!! しかもオシャレにあまりお金を使わない私も、全然手に取れる価格帯の服もある! もはや、今すぐ買いたい(笑)!
ありがとうございます。
しかし、安くてかわいいとなると普通のお店と変わらない服選びになってしまいそうですよね。
そもそも私は、持っている服すべてがサステナブルである必要はないと考えているんですよ。あくまで服を選ぶ際に社会貢献できるものもあると知り、身につけてもらえたらいいなと。
サステナブルなファッションブランドをつくっている人からそのようなメッセージをもらえると、なんだか安心します。
ただやはり、その服がどのような想いでつくられたものなのかを伝える仕組みはしっかりとつくります。 1つは、服を陳列しているところに出すQRコード。このコードを読み取ることで、その服のつくり手の想いに触れられるようにします。そのために私は、つくり手の皆さんの話をしっかりと聞いて、その服に込められた想いごと服を仕入れているんです。
なんだか、真のセレクトショップという感じがします。
それから貢献タグを服につけます。
貢献タグ?
手に取ったその服が、水やエネルギーをどう削減してつくられたものなのかを表示したタグです。こうすることで、何げなく手に取った服がほんの少しよりよい社会づくりに役立っていると実感できますよね。
社会貢献の見える化ですね。
サステナブルな服をつくっている人たちも、環境や人への配慮が完璧なプロダクトをつくれているわけではありません。今はいろんなブランドがつくる人の労働環境を改善するのか、環境への配慮をするのかといった優先順位をつけて、少しずつ社会のためになるモノづくりを進めている段階です。だから私は、何を大切につくられた服なのかをきちんとお客さまへ届けていく必要性を感じています。
その取り組みは、消費者の共感を生むかもしれませんよね。
そうなんです! だからブランドの想いを見える化することはとても大切だと思っています。またお客さまのリアルな声を服づくりにいかしてもらいたいので、つくり手の皆さんにも、選ばれた・選ばれなかった服のフィードバックをきちんとしていく予定です。
環境面への理解もある消費者の声があれば、よりよい服づくりができそうですね!
私は『Enter the E』をただ服を売るセレクトショップにするつもりはないんですよ。つくり手の想いとお客さまの想いを繋げるコミュニティ、発信基地のような場所にしたいんです。
※Mila vert/ENTER THE E
また今後はレンタルやリユースなどの事業も展開して、サステナブルファッションにもっと身近なものしていけたらと思っています。サステナブルな服を体験したことのない人は、世の中にまだたくさんいると思うので。もちろん10年前から形にしたいと思っている体験型農園コットンファーマーズビレッジも実現したいと思っていますよ。
これからも大きな目標が控えているんですね! 自分のためだけに服を消費していた人とは到底思えません。
私は「持続可能な衣生活を支える循環社会をつくっていくこと」が、自分の人生の目標であり使命だと思っています。大好きな服で社会のためになることをするまで、私は死ねないので!
<インタビューを終えて>
私たちが日常生活を送るうえで、服は欠かせないものです。
「欠かせない=これからも必要とし続ける」と考えると、これまでの服の選び方のままではきっと、知らず知らずのうちに地球や人を傷つけ続けることにもつながってしまう気がしてなりません。
デザインも色も素材感も、そして価格も服を選ぶためのとても大切な基準です。私もこれまでの基準をいきなり変えるのは難しいと思っています。
しかしそこに「環境」や「人」への配慮があるかという基準が加われば、ファッションは自分だけでなく社会全体で楽しめるものになるかもしれません。
■Enter the E ホームページ
https://enterthee.jp/
■植月友美さんSNS
インタビュー・執筆 / クリス
福岡在住のフリーライター。ボーダレス・ジャパンを4ヶ月で退職し、いまはパートナーとしてインタビューや執筆を手掛ける。愛猫“雛”をおなかに乗せソファに寝っ転がってアニメを見たりマンガを読んだりする時間が至福。仕事よりもこちらに時間を割きすぎる傾向があるが、やるべきことはやる。企業の採用コンテンツやブライダル、エンタメなどのメディアでも執筆。