
世の中には本当にたくさんの社会問題が存在します。そのなかでも私たちにとってとても身近な社会問題が「食品ロス」ではないでしょうか。
社会問題への関心が低い私もこの問題に関しては、買いだめをしない、野菜のヘタ部分は極力小さく切る、残さない量の食事をつくるなど、以前より少し意欲的に取り組んでいるつもり……でした。
しかし今回、この社会問題解決に取り組む『タベモノガタリ』の竹下友里絵さんに話を伺ったところ、私の知らない「食品ロス」があることが判明したのです。
※インタビュー日:2019年10月10日
目に見えていない「食品ロス」がある!?
今回のインタビューに向けて「食品ロス」について少し調べてみたんですが、年間2,759万トンの食品廃棄物の中でまだ食べられるのに捨てられている食品が640万トン以上あるそうですね。
そうなんですよ。しかもこの数字の中には含まれていない「食品ロス」があるってご存じですか?
え? まだこの数字がふくらむんですか?
実はこの数字の中には、畑や港で「規格外」だからという理由で廃棄されている食品は含まれていないんです。
※画像はイメージです Photo by keisuke3 on 写真AC
消費者の手に届くことなく捨てられている食品があると……?
私が「タベモノガタリ」を始めたきっかけもその驚きからきているんですが、畑では市場で規格より小さかったり、形が悪かったり、傷がついていたりする野菜は出荷されずに廃棄されているんです。味は間違いなくおいしいのに!
実際に野菜が捨てられている現場を見たんですね……。
学生時代に農業体験をしたことがあって。そのとき私は、畑の隅に山になっている廃棄野菜を見て衝撃を受けたんです。そしてどの野菜も農家の皆さんが手間ひまかけてつくっているのに、こんなに簡単に捨てられていいはずがないと思ったんですよね。
あなたが口に入れる食品、本当に自分の意志で選べていますか?
私も「規格外」だからという理由で丹精こめてつくった野菜が捨てられるのはおかしいと思うんですが、それって野菜の値段を少し下げたら解決しないんですか?
そうしたい気持ちは山々だと思うんですが、今の日本の農業はもうすでに薄利多売の世界なんです。もったいないからとたくさん収穫できた農産物を市場に出してしまうと、その野菜全体の価格がますます安くなってしまうかもしれません。泣く泣く廃棄するのは、効率よく価格を調整するための手段なんですよ……。
それって、市場に主導権を握られているような。
そうなんですよ……。しかもこの仕組みが、消費者のもとに「規格外だけれどもおいしい野菜」を届けにくくしているんじゃないかなとも思っていて。
どうしてそう思うのでしょうか?
クリスさんは、いつもどこで野菜をはじめとする食品を買っていますか?
近所のスーパーです。
では、そこでどういう基準で食品を選んでいますか?
比較的痛みが少ない野菜や賞味期限が長いものを選んでいます。
痛みが少ない野菜って、どれにしようか結構悩みません?
悩みますね~。野菜をぐるぐる回しながらいくつもチェックしています。でも正直どれを手に取ったとしても、買って後悔することはないかなあ。
そこなんです! 私は、市場で選別されたキレイな野菜が並ぶ売り場が、規格外だけれどもおいしい野菜について知る機会を奪っているんじゃないかなと思っています。
※画像はイメージです Photo by 羽鳥 on 写真AC
売り場に並んでいるのも、野菜ですからね……。こうやって話を聞かなければ、規格外の野菜が選択肢に入っていないことを意識すらしなかったと思います。
私はその状況に対して「本当に自分の意志で食品選びができている」と言えるのかなと、疑問に感じています。私たち消費者は、あくまで市場基準で選ばれた食材の中から選んでいるだけですから……。
た、確かに!
私はタベモノガタリを立ちあげて、少量多品目の農家から仕入れた野菜を「形はワルいが、味はイイ」をコンセプトに駅の中などで移動販売をしてきました。その活動を通して、多少食材の形が悪くても安全でおいしいなら食べたいという人がいることに気付きました。でもこういう願いは今の市場流通の仕組みがある以上、実現しにくいですよね……。
「知る」から始めよう! 食品ロス解決のために私たちにできること
規格外で世に出回らない野菜を無駄にしないためにはやはり、市場のシステム自体に改革が必要なのではないかと感じました。
市場流通に切りこめたら理想的ですよね。ただ実行するのは、難しいでしょう。だからタベモノガタリは、今の市場を変える以外のアプローチを考えています。
具体的には?
今は駅構内などでの移動販売に絞っていますが、幼稚園や企業で共同購入のような形での販売を考えた時期もありました。これらのアプローチを通して、規格外でもおいしい野菜と出会うことで、口に入れる野菜は自分の意思で選択できるんだと知ってもらえたらうれしいですね。
▲駅構内で「形はワルいが、味はイイ」をコンセプトに移動販売をする、八百屋タケシタ
まずは、規格外だけれどもおいしい野菜があると知る機会をつくろうとしているんですね。ただそうなるとそういう野菜と出会える人は、地域限定になってしまうかなと。
確かに始まりは、地域限定の取り組みになってしまうと思います。ただその地域でつくられた農産物すべてが近隣の消費者に届く仕組みを実現できたら、他の地域でも広がりを見せてくれるとも思っているんです。
タベモノガタリが、すべての農産物と消費者をつなぐ架け橋になるんですね。
あとは子どもの頃から自分が食べているものに関心を持つ機会も必要だと思っているので、実際に農業を体験する場も用意できたらいいなと。子どもの食環境は親の影響を強く受けるものなので、座学で問いかけたり教えたりするだけでは知ることはできても考え続けたり行動したりできないと思うんですよね。
確かに、座学で知ったところで私なら動かないかも……。
※画像はイメージです Photo by みっく― on 写真AC
しかも体験も「楽しい」時間を届けるだけでは同じような結果になると思うので、私はあえて農業の「大変さ」も実感できるようにしたいと思っています。
竹下さんもご自身が農業を体験してその大変さを知ったからこそ、食品ロスを解決するための事業を立ち上げたんですもんね!
私は「こんなに大変な思いをしてつくられたおいしい野菜が捨てられているなんて」という衝撃はきっと、食材の選び方を変えてくれると思っています。だからこそ「知る」機会づくりは、とても重要なんです。きっとこういう機会が増えれば、食品ロスは少しずつ解決に向かうと信じています。
<インタビューを終えて>
スーパーで安売りされている野菜を見て、「めっちゃ安いやん!」と喜んでいた私。しかし今回竹下さんから「農家の皆さんが丹精込めて育てたおいしい野菜が、捨てられている」話を聞いて、「こんなに安く買えて、本当にいいのかな」と思うようになりました。
「少し傷が入っていたり変形していたり小さかったりしても、おいしいのならばそっちがいい」
スーパーなどの売り場でこの選択ができるようになれば、畑で捨てられる野菜は減るはずです。
規格外の食品があり、捨てられている現状があること。これらの事実を「まずは知る」ことが、目に見えていない部分の「食品ロス」を解決するための第一歩ではないでしょうか。
■八百屋タケシタホームページ
https://www.yaoyanotakeshita.com/
■タベモノガタリ事業紹介
https://www.borderless-japan.com/social-business/tabemonogatari/
■竹下友里絵さんSNS
Twitter⇒@yurie_s2
【参考】
・『知ってる?日本の食料事情』 食料自給率・食料自給力について (2019.8.6)/農林水産省
インタビュー・執筆 / クリス
福岡在住のフリーライター。ボーダレス・ジャパンを4ヶ月で退職し、いまはパートナーとしてインタビューや執筆を手掛ける。愛猫“雛”をおなかに乗せソファに寝っ転がってアニメを見たりマンガを読んだりする時間が至福。仕事よりもこちらに時間を割きすぎる傾向があるが、やるべきことはやる。企業の採用コンテンツやブライダル、エンタメなどのメディアでも執筆。