
皆さんは、難民と聞いて何を思い浮かべますか? 2016年のリオデジャネイロオリンピックに難民選手団が出場したことを覚えている人もいると思います。
では、日常生活で難民のことを最近考えたのはいつでしょうか?
私はというと、ニュースなどで難民の現状を知りとても大変な問題だという認識はするものの「私にできることなんてない」と思ってしまいます。
そこで今回は、日本の難民の問題解決を目指す事業を展開している『ピープルポート株式会社』の青山明弘さんに、日本における難民の現状や私たち一人ひとりにもできることはあるかどうか、聞いてみました。
※インタビュー日:2019年10月16日
そもそも難民とは? なぜ社会問題なの?
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あの……そもそもなんですが、難民ってどういう人のことをいうのでしょうか?
難民は、『難民の地位に関する条約(以下、難民条約)』で定義された人たちのことを指します。
絶対に読んだことのない条約です……。
紛争や深刻な人権侵害などを理由に、それまで生活していた母国から強制的に逃げざるを得なくなった人のことですね。また避難しなければ命が危ないという状況は難民と同じであるものの、手続きの関係などで国外に出ない、出られない人は「国内避難民」と呼ばれています。
難民の人たちは、自分たちが暮らしていた場所から命からがら逃げてきているんですね。ちなみに今、世界にはどれくらいの難民がいるんですか?
7,080万人といわれています。そしてこの数はなんと、日本人口の半数を超えているんですよ。命の危機にさらされている人がたくさんいるという、大変な問題なんです。
まさかそんなに大きな規模の問題だったとは……。
不透明だから分からない!? 日本における難民問題の現状
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難民問題の規模の大きさに驚きました。でも難民問題が日本にも関係あると言われても、正直ピンとこないというのも本音でして……。
その感覚は日本において、割と普通ではないでしょうか。今、難民と聞くと、シリアを思い浮かべる人が多いと思いますが、この国は中東という日本から遠く離れた位置にあります。その国で起こっていることを「自分ゴト」として考えようと言われても、難しいという人がいて当然だと思いますよ。
そんな遠い国にいる難民の人は、なぜ逃れる場所として日本を選ぶのでしょうか?
そもそも難民の人々の中には、逃れる国を選べない人もいるんです。実際、ビザのおりた国が、たまたま日本だったという場合も多々あります。
選んで日本に来ているわけではないんですね!
しかも、その逃れた国で難民として受け入れられないこともあります。特に日本は、難民の受け入れ制度が国連の人権関連の委員会から是正を受けるほど厳しいんです。ちなみに、2018年に日本で難民として受け入れられた人の人数をご存じですか?
もちろん、知りません……。
10,493件の難民申請に対し、難民として認定されたのはたったの42人なんですよ。
※平成30年における難民認定者数等についてより引用(2019.3) 法務省
え!? 少なすぎませんか?
認定される人数が少なすぎることが、「どこか遠い国の問題」だと思わせるのを加速させていると思うんです。
確かに、国連から是正を受けていると知らなければ、「それくらいしかいないのか~」とのんきに考えてしまいそうな数字ですね。
また難民の人がこの認定を受けるのに、申請を出してから平均して2~3年くらいかかっている現状もあります。長い人になると、10年を超えている人もいるくらいです。
え! 長っ!!
しかもこの認定の可否の基準は外に公表されていない上、認定がおりなかったときにその理由を尋ねても回答は絶対にもらえません。
制度が不透明すぎません?
制度の中身がオープンでないこともきっと、難民問題を近くに感じられない原因になっているような気もしています。
ここまで難民がいかに日本で受け入れられていないかを解説していただきましたが、そもそも難民を受け入れないといけない理由って何かあるのでしょうか。日本って、自分の国のことでもいっぱいいっぱいな雰囲気があるというか……。
確かに自分の国のこともままならないのに、という意見があるのも分かります。ただこれを自分に当てはめて想像してもらったら、隣に倒れている人がいたとして声をかけない人ってそうそういないと思うんですよね。たとえ自分に余裕がなかったとしても。
私は無視できないと思います。
そういう無視できない現実が世界のあちこちで起こっているんです。
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とはいえ、その難民の受け入れにはお金のハードルもありますよね?
それはもちろんあります。ただしそこを受け入れる側の負担だと思ってしまう感覚が、僕はずれているなと思うんです。
ずれている、というと?
難民の中には、本当にすぐれた人間性とスキルを持っている人がたくさんいます。もしその人たちのスキルが企業が欲する人材像とマッチングしたら、その会社の成長につながりますよね。またその人のスキルが、新たな事業を生むきっかけになることだってあるかもしれませんし!
難民のかたも、難民になる前は仕事をしていたと言っていましたもんね。
難民を受け入れることはきっと、その国のダイバーシティー化を推し進めるだけでなく、経済を成長させる可能性を秘めていると思うんです。実際にヨーロッパでは、難民との共生による経済成長の見通しを立てていました。
※参考:2017年までにEUに難民300万人流入、成長押し上げ見込む=欧州委 REUTERSロイター
そう考えると日本は、人材不足にあえいでいるので、真っ先に難民との共生をはかりたいはずでは?
でも現実はそうはいかないんですよ。
それは、なぜですか?
難民が日本人と同じように安定的に日本で暮らしていくために必要な難民認定は、難民申請をしたうちの0.4%の人にしかおろされていません。しかも認定されるまでの期間には、6カ月ごとのビザ更新が必要など、踏まなければならない手続きがたくさんあるのです。
日本に来た難民の皆さんは、申請してから認定がおりるまでの間、どうやって生活しているのでしょうか?
難民申請後は日本政府からの支援金が受けられるようになっています。しかしこれも、申請後すぐに受給できるわけではなく、数カ月後にやっと支援してもらえるという状況です。だから日本に命からがら逃れてきても生きていくのがやっと、という人も少なくありません。
支援を待つだけでなく、それこそ働くという選択肢もあるのでは?
難民申請中の人が日本で働くためには、就労許可が必要なんです。しかもこの就労許可は来日してから約8カ月後にしかおりません。だから日本に来た難民は、数カ月間収入がないこともめずらしくないのです。
ハードすぎません?
本当にそう思います! しかもやっとのことで就労許可がおりても、就ける仕事のほとんどが肉体重労働。命の安全を求めてやってきた日本で、命の危険と隣り合わせの危ない職場で働いていたり、給料がもらえなかったりと劣悪な環境に置かれている人も多いのです。
救いがなさすぎる……。
また難民認定がおりた人でも、日本語でのコミュニケーション面への不安からなかなか就職が決まらない現状があります。難民が日本で働くには、まだまだ乗り越えなければならないハードルがたくさんあるんです。
難民問題解決に向けて、私たち一人ひとりにできること
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聞けば聞くほど、「国の対応が遅すぎる」と思わざるをえない、日本の難民問題。一方でやはり、政府でなければ解決に向けた動きができないのかなとも思うのですが……。
難民問題は国と国との関係も絡んでくるため、政府主体で動かなければ大きな変化が期待できない問題でしょう。しかしその政府を動かすのきっかけとなるのも国民です。だから日常生活の中で私たち一人ひとりにできることは、もちろんあります。
私が思いつくのは、やはり寄付金かなと。
もちろん寄付金は解決に向けた大きな力となるでしょう。国連UNHCR協会ではシリアの難民を救うために、難民支援協会では日本国内にいる難民の生活・就労・自立のために、寄付金を募っています。
【寄付金募集ページ】
それから日本語でのコミュニケーションが就職のハードルとなっているため、日本語教室などを会社や有志で実施するのも1つの手ではないでしょうか。ピープルポートでも難民従業員に向けた日本語教室を開いてます。また難民の現状を知ることも、解決のための第1歩だと思います。
確かに「なぜ日本に来たのか」「何に困っているのか」という部分が分からなかったかた、支援しようと思うところまでたどりつかなかったのかも。
問題を知ることで、どんな支援の仕方があるかについても把握できますよね。また知る方法として僕は、難民と直接交流することも大切だなと思っています。やはり問題の渦中にいる人から実体験に基づく話を聞くことで、問題理解の深度が変わってくると思うんです。
難民の人たちと話す場所って、あるのでしょうか?
例えばNPO法人のWELgeeでは、WELgeeサロンという難民の方と出会い語る場を定期的に設けています。ピープルポートでも、働いている難民のメンバーと工場見学会で話せますよ。
そういう場所が日本にあるということすら、知りませんでした。
そうですよね。またこういう場を設けると、「難民問題について学びを深めなければ」と意気込んでしまう人もいます。もちろんその姿勢も大切ですが、友達と遊ぶときのように気軽に会話を楽しんでもらえたらいいんじゃないかなと思います。
▲ピープルポートで働いていた元メンバー
どこか遠い国のことだと思っていた難民問題だから妙に構えていたのですが、なんだか肩の力が抜けたような気がします。
おそらく難民の人々も、そういう気軽なコミュニケーションを求めていると思います。というのも、日本にいる難民は孤独なんですよ。
慣れない土地だという人も多そうですしね。
難民同士のコミュニケーションはあったとしても、逃れた先の国の人との交流はほとんどありません。その国の人とのコミュニケーションが育まれていないことで、難民受け入れが進んでいるドイツでは、事件があったときに難民が疑われるというトラブルも実際にあったそうです。
すでに制度が進んでいる国でも起こっているのなら、日本ではこれから十分起こりえますよね。
▲ピープルポートにメンバーが加入したときの写真
その国の人、難民という垣根を取り払って交流を深められればきっと、その人となりに触れられます。人となりを知ればきっと、その人に何かあったときに手を差し伸べられますよね。反対に自分が困ったときに、出会った難民の人が救ってくれるかもしれません。
そうなれれば、もう友達ですよね!
もちろん、難民問題を知るために友達にならなければならない、というわけではありません。あくまで友達になるのは、気が合うかどうかという、一般的な友達づくりと同じ過程を踏めばいいんです。
難民だから仲良くなってほしいとは、その人も思っていないでしょうし。
僕は、自分のことを知ってくれている人がいることが、日本にきた難民の人を支える力になると思っています。だからピープルポートでは、そういう居場所づくりをしていきたいんです。
<インタビューを終えて>
「目の前の人を助けたい」
難民問題について知る中で、この至ってシンプルな想いに基づく行動が、問題解決のための最短ルートなのかもしれないと感じました。
また青山さんに話を聞く中で、自分の中にあった潜在的なヘイト意識が浮き彫りになったとも思っています。
「自分のこともままならないのに、他の国の人のことなんて……」
「ましてやそこに、税金が使われているなんて……」
と口には出さないものの、心の中で思っていたことが取材を通して出てきたのです。難民問題に限らずあらゆる社会問題を知ることは、自分の中に眠る“見直したほうがいい感覚”と向き合うチャンスだということも、今回のインタビューを通して学びました。
難民の人は、好きこのんで国外へ避難しているわけではありません。本当は自分が生まれ育った国で暮らしたいと願っているでしょう。理不尽な迫害は、そんな願いをたやすく奪ってしまうのです。
体も心も傷ついた難民の人々のために、1人ができることは小さなことかもしれません。しかしその1人の行動が広がりをみせれば、より多くの難民が日本でも生きていく希望を見い出せるのではないかと思うのです。
■ピープルポート
■青山明弘さんSNS
【参考】
・「基本的法制度に関する世論調査」令和元年度 内閣府
・ 「難民を知る」 認定NPO法人 難民支援協会
・ 「今さら!?聞けない 難民問題、ポイント解説!」 なんとかしなきゃ!プロジェクト
インタビュー・執筆 / クリス
福岡在住のフリーライター。ボーダレス・ジャパンを4ヶ月で退職し、いまはパートナーとしてインタビューや執筆を手掛ける。愛猫“雛”をおなかに乗せソファに寝っ転がってアニメを見たりマンガを読んだりする時間が至福。仕事よりもこちらに時間を割きすぎる傾向があるが、やるべきことはやる。企業の採用コンテンツやブライダル、エンタメなどのメディアでも執筆。