社会問題の当事者として語られることが多い「性的少数者」や「LGBT」。
LGBTは、女性同性愛者(レズビアン)、男性同性愛者(ゲイ)、両性愛者(バイセクシュアル)、トランスジェンダーの各単語の頭文字から成っています。ただ、この表現だけでは性的少数者の状態を表しきれず、フェイスブックでは自分の性別を58種類の選択肢から選べるように、その実態は多様です。

LGBTの当事者が直面する問題

LGBTの話題といえば、結婚できない、トランスジェンダーは性別を変えるために手術がある、その手続きが大変などということはよく語られますが、当事者が直面している社会問題はさらに深刻です。

例えば、家族や友人、職場の人との日常会話で性的少数者に対する差別的な言動を聞いたり、周囲に知られたことでいじめや犯罪被害にあったりすることもあります。その結果、引きこもりやうつ病になり、貧困や自殺にまで繋がるケースが起こっています。

参考:「同性愛」ばらされ転落死 両親、一橋大と同級生提訴

周囲に理解してもらえない、自分らしくいられないという苦しさや、「自分がおかしいのではないか」という自責から、生きづらさを感じている方が多いという問題があります。

実態を知り、理解する流れへ

そんな中、「ダイバーシティ」を実現するという企業の潮流から、LGBT当事者への配慮を考えたサービスや仕組みがここ数年で増えてきました。

①LGBTと「暮らし」

例えば行政としては、2015年に東京都渋谷区で「パートナーシップ証明」の発行が可決され、同性カップルに対して結婚に準じる関係が認められることになりました。渋谷区の他には世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市、北海道札幌市の5自治体で、同様の制度が導入されています。

自治体によって申請にかかる費用が異なり、制度根拠にもバラつきはありますが、緊急時の病院での面会や賃貸住宅の同居などがしやすくなる環境を整える狙いがあります。

企業のサービスだと、大手通信会社のソフトバンクが同性のカップルにも「家族割」というサービスを提供。他の大手通信会社2社も、2015年からパートナーシップ証明があればできるようになりました。また、ライフネット生命は2015年から同性パートナーへの死亡保険金受取を可能にし、他社も追随して同じ仕組みが広がっています。

企業ではありませんが、今年4月に開校する千葉県柏市の「柏の葉中学校」では保護者や児童を含めた検討委員会で「LGBTの生徒に配慮するべき」との声があがり、男女ともに「ブレザー」を制定。ボトムスや小物を性別に関係なく選べるようにしています。

②LGBTと「働く」

「働く」場面でも、LGBTを対象とした取り組みが増えています。特定非営利活動法人ReBitが運営するLGBT就活では、LGBTやダイバーシティに取り組んでいる企業の合同イベントを開催。2017年は24社が出展し、就職活動中の学生など約700人が参加しました。

入社後の仕組みとしては、日本マイクロソフトやユニリーバなどが結婚祝い金、休暇制度を同性婚に適用。資生堂は、東京・港区のオフィスの多目的トイレに性別関係なく誰でも使えることを示すマークを取り付け、トランスジェンダーの方の生活に配慮しています。

この潮流を「本当の理解」につなげるために

このように企業や行政で様々なサービス・仕組みができてきましたが、それらの事例の取り入れ方に問題が生じたケースもあります。

昨年、ある病院の問診票の性別欄が「男・女・LGBT」の三択になっていたことがTwitter上で広まりました。L、G、B、Tと全く異なる属性を一括りにした設問と、その情報を問診票に書かせることに疑問の声が寄せられています。

参考:Twitterで話題「男・女・LGBT」の問診票。何が「変」かわかりますか?

性別欄とその選択肢については、昨年ボーダレスグループでも議論になりました。


(ボーダレスグループの採用応募フォーム)

ボーダレスでは採用などの場面で性別に関する設問がなく、例えばコーポレートサイトのエントリーフォームは、性別表記はありません。

しかし、新規事業「MENT」では、アプリの登録時に性別を選んでもらうことになりました。そこで、トランスジェンダーの方へのヒアリングなども経て「自認する性」という質問に「男性・女性・その他」という3つの選択肢を設けることにしました。

メンバー同士で議論をした上で、あえて「男性」「女性」の2択を維持すると決めたのはボーダレスハウスです。


(メンバーがSNSに投稿した問題提起に、日本・韓国・台湾のメンバーが自分の意見を書き込んで議論を進めた)

ボーダレスハウスは国際交流がコンセプトのシェアハウス。”外国籍の人”と”シェアハウスがある国の国籍の人”の比率を5:5、男女比も5:5で運営してきました。自分に合ったハウスを選んで国際交流を楽しんでほしいという観点から、Webサイトには入居者の国籍と性別を載せています。

このため、性別を急に三択にするとハウス内の男女バランスの基準が変わり、住んでいる入居者とのバランスがとりづらくなってしまいます。

また、「その他」を選んだ人の入居希望に最終的に添えなくなった時に「最初から"その他"を選ばなければ良かった」と思わせてしまう可能性もあるという意見や、「その他」をサイトで表示するとむしろ差別を助長してしまう恐れがあるという指摘も。

結果的に「今は2択を維持する」と決め、違う形でLGBTへのサポートを表明しようという結論に至りました。

LGBTの当事者が抱える社会問題を知り、アクションを起こす人が増えてきたことは歓迎すべきことだと思います。

しかし、ただ他社のサービスや制度を丸ごと真似するだけでは、自分たちが向き合うべき「相手の顔」が見えなくなり、本当に相手を理解したものにはなりません。

相手にとって本当に必要なことを考え抜き、選択した先のことも想像しながら決めていくこと。そして、決めるプロセスに多くの人を巻き込んでいくことから、LGBTの人々が抱える生きづらさを解決する一歩が始まるのではないでしょうか。