
WHOによる推計では、聴覚に障害がある人は3億6000万人いるといわれています。この中には全く聞こえない人と、あまり聞こえない人が含まれています。実はこの数、視覚に障害を持つ人口、2億8500万人(推計)を上回る数です(全盲と弱視を合わせた数)。
聴覚障害と補聴器
聴覚に障害を持つ人のうち、8割が途上国に住んでいます。聴覚障害となる人のうち、半数が本来であれば防ぐことができる原因によるものといわれています。
聴覚に障害があると、会話や口語の発達が遅れてしまいます。また対人コミュニケーションが十分に取れず、孤立感を抱え、自尊心が育たないといわれています。学校の授業にもついていけずドロップアウトの原因になり、就労の機会も制限される、といった社会的・心理的にも重大な影響があるといわれています。
途上国では、聴覚に障害を抱える人々の中で、補聴器を手に入れられるのはごく一部にとどまります。それは補聴器が最も安いものでも600ドルはかかる上に、バッテリーが1ヶ月程度しか持たず、交換に4ドルかかるなど、貧しい人々にとっては少なくない出費を強いられるためです。
生活必需品を買うか、バッテリーを買うか、であれば、生活必需品を選ぶでしょう。しかしその結果、職にあぶれ、十分な収入が得られない。子どもを学校に行かせられない。そして結果的に貧困から抜け出せないまま貧困は連鎖していきます。
問題は補聴器自体、またそのバッテリーが高いことです。ここを乗り越えることができれば、聴覚に障害を持つ人の生活を改善でき、また貧困にある人たちは抜け出せる可能性がグンと上がります。
そこで今回取り上げるのは、アフリカはボツワナにある補聴器を作っている企業、Deaftronicです。
DeaftronicのHPより引用
聴覚障害者が普通に住める環境
社名に”Deaf”とあるように、聴覚に障害を持つ人々の生活を改善し、彼らが能力をフルに発揮できる社会を作ることをビジョンに掲げています。
サブサハラアフリカ地域では、補聴器は平均3,000ドルほどかかるといわれます。しかし、彼らの開発した補聴器は、15分の1の200ドルです。
バッテリーはソーラー充電を採用しており、太陽光で充電できます。フル充電で最長4日間稼働し、また3年間ほど繰り返し使える優れものです。充電はソーラーだけでなく、普通の電気などを利用することも可能です。
また、そもそも本体の費用が安い上に、新しくバッテリーを購入する必要もなく、さらに電気を使う必要もないため、年間に換算すると100ドル以上の節約につながります。
この補聴器の製造などに関わるスタッフの大半が聴覚に障害を抱えており、この補聴器を使用しているようです。
隣国ジンバブエでの成功
Deaftronicは、ボツワナの企業ですが、初めに成功したのは隣国のジンバブエだそうです。それは、ボツワナに聴覚障害者が2万人しかおらず、福祉政策が非常に充実しており、補聴器をわざわざ購入する必要がなかったため。とも言われています。
ちなみにボツワナは、日本よりも国際の格付けが上になったこともあるほど、経済は安定しており、今までに内戦を経験したこともないという国です。治安もアフリカでもっとも良いといわれています。
そのため、早い段階から隣国ジンバブエやケニア、南アフリカへと進出を果たしています。現在では、公的機関の引き合いも多く、アフリカでNo.1の聴覚障害研究センターの地位を確立しつつあり、トレーニングなども各国で行っているようです。
近年では、補聴器の提供は根本的な問題解決にはつながらないとして、いかに障害を早く見つけるか、という研究も行われています。
DeaftronicのHPより引用
補聴器のインパクト
Aurolabにおいても取り上げましたが、補聴器は非常に高価なものです。先進国でも決して安いものではありません。しかし、それだからこそDeaftronicの製品は画期的であるといえます。
現在はAurolabも、Deaftronicも本体価格が200ドルです。この価格が本当に必要としている人たちへ本当に届く価格なのか、などは検討すべき課題です。しかしこれを乗り越えて、Jaipur Footの義足のような規模にまで拡大ができれば、とてつもなく大きな社会的インパクトを与えるポテンシャルを持っているといえます。
年を取ると、どうしても耳は遠くなってしまうものだと思います。補聴器に関しては、日本を筆頭に高齢化が進む先進国でも、今後の需要増加が見込まれています。
補聴器小型化し、装着しているとは気づかない外見になっていますが、未だに補聴器をつけるということに対して抵抗を感じている人も少なからずいらっしゃるようです。この問題を解決する、興味深いプロダクトも近いうちにご紹介できればと思っています。