
このブログではサハラ砂漠以南のアフリカ地域をサブサハラ地域と呼んでいます。一般にいう「アフリカ」のイメージに近いのはこの地域のことだと思われます。日本では、大きなニュースになることも少ない、物理的にも心理的にも遠く離れた地域かもしれません。
サブサハラアフリカ地域は、クーデターや内戦、エボラ出血熱など、政治・経済・衛生など様々な面で多くの課題を抱えている一方で、南アフリカやナイジェリアなどの国々は成長著しい国として注目されています。
今回はその成長著しい国の一つで、すでに何回か取り上げてきた国、ケニアの話です。
ケニアでは、ナイロビなど都市部の居住者の70%がスラムに住んでいるといわれています。スラムは人口密度が高く、衛生状態も低く、仕事も学校も十分ではありません。
ケニアの医療
ケニアは、政府主導の国民保険はなく、民間保険も未発達で貧困層はとても加入できるものではありません。
病院や診療所の数は限られており、長い時間をかけていかなければならず、いざ通うとなると非常に不便です。しかも、病院についたところで医師や看護師は無資格も多く、薬は在庫切れや偽物ばかりという状態。さらに病院が清潔でないために待合室で感染する危険性も高いといわれています。
このような絶望的な状況を改善すべく、近年は保険に入る余裕のない低~中所得層向けの医療サービスが出現し始めています。今回はその中の一つ、Access Afyaをご紹介します。
スラムでの医療サービス
Access Afyaは現時点ではMukuruというスラムに2つのクリニックを運営しています。清潔な診察室、処置室、研究室、待合室、薬局などが備えてあり、薬も十分なストックが確保されています。週7日開いており、平日は7時から21時まで受け付けているようですが、そのうち数時間はコミュニティへの出張診療なども行っているようです。
現在までに合計5,000人の顧客がおり、毎月100人の新規顧客も獲得できているようで、3つ目以降の診療所も随時オープンしていく予定だそうです。
このクリニックのポイントは2つあります。
①スラムの真っただ中にあり、地域に密着している点
②サービスをプライマリーヘルスケア、つまりかかりつけ病院(プライマリーケア)+予防接種、感染症の診断・治療、家族計画(ヘルスケア)に限定している点
です。
①地域密着に関しては、「かかりつけ医」であることを考えると当然のような気もしますが、フォローコールや患者からの質問なども受け付けており、先述のような訪問回診も行っています。またスタッフはスラムの人々と同じものを住み、飲み食いします。
②また、サービスを絞って高度な治療などを行っていないのは地域のニーズに基づいた結果であるといえます。聞き込み調査の結果、スラムでは病気である人たちの治療よりも、より住民の健康を保ち、疾病の予防も含めた「総合診療」の方が必要であると結論づけられました。また、毎月100人ずつの新しい顧客が増えていることを鑑みても、ニーズは確かに存在していると考えられます。
Access Afyaホームページ(http://www.accessafya.com/)より引用
学校プログラム
また、Access Afyaはかかりつけ病院として、カナダの政府機関の援助を受けながらヘルスケアサービスも実施しています。両親が1年間に900シリング(9ドル)を払うと、毎タームごとに子どもが健康診断を受けることができ、もし必要であればフォローアップも受けることができるというサービスです。
何かの病気にかかっていても、毎週医師が学校に立ち寄ってくれチェックを受けることができます。また生徒が50人を超えると、その学校で手洗いキャンペーンや先生の健康診断などのプログラムが始まります。
このサービスは、もちろん新規顧客獲得のためにやっていますが、予防・衛生教育や健康診断という重要な側面も抱えています。現在は200人の子どもが登録されていますが、今後は700人まで増やす予定です。
寄生虫
日本ではあまりなじみがありませんが、途上国では寄生虫の感染による病気は深刻です。また衛生状況が悪く、感染症のリスクも高いこと、病院に行くのは高くつくことなどを考えると、年間9ドルは決して高くないと考えられます。
子どもの健康を保ち、きちんと衛生教育をしていくことは、学校での出席率を上げ、成績の向上や将来の教育機会の拡充も期待されています。(※最も感染者の多い寄生虫である回虫は、日本では感染率が0.2%程度ですが、欧米でも数%、途上国の中には40%を超えている地域もあるといわれており、感染者数は数十億人といわれています。たくさん寄生してしまうと、栄養障害や発達障害、めまい、失神などの症状が現れるといいます。)
貧困層に医療を届ける
まだパイロット段階ということで、2医院と規模も小さく、学校プログラムも今後の展開が待たれます。他にも不安定な電力供給や、土地の所有権などの解決すべき問題があります。
しかし、Access Afyaは付加価値の高い高度医療ではなく、プライマリ―ケアに着目することで、貧困層にも医療サービスをもたらす可能性を示しています。また、スラムにおいてもお金を払って健康管理を行うニーズがある、ということを示した点で、非常に参考になるモデルであるといえます。