
東南アジアの最貧国、ミャンマー。アジア最後のフロンティアとも呼ばれ、近年の経済成長は著しく、民主化を進めている一方、多民族国家で、少数民族の迫害も問題になっており、経済的にも政治的にも熱い視線を注がれている国ですね。今回はミャンマーを取り上げます。
ミャンマーの貧困率
ミャンマーの貧困率は37%といわれています。しかし、州によっては70%を超えている地域もあります。半世紀もの間軍が政権を握っており、都市部ではいまだに軍や権力層とのつながりが仕事に直結しているとも言われています。また地方では、教育水準も低く、農業の生産性も低いため、慢性的に貧困の状態が続いています。
国境付近の州では、少しでもお金になるものを栽培するために、ケシなどの麻薬の栽培が行われており、タイ・ラオスの国境付近は「黄金の三角地帯」と呼ばれ、世界最大の麻薬生産地帯を形成しています。(ケシの栽培はミャンマーでも禁止されています。)
また、ケシでなくても農家は種のディーラーや土地の有力者に借金をして種を買い、収穫時に返済をするというシステムをとります。
利率は非常に高く、そこに台風や干ばつなどの災害や病気などで不作となると、借金が返せなくなります。するとほかの人から借りて・・という悪循環に陥り、貧困から抜け出せなくなってしまいます。(この悪循環をハーブ栽培で断ち切ろうとするソーシャルビジネスも行われています。)
生産効率を向上させる“ポンプ”
Proximity Designは、ヤンゴンに拠点を置き、農家の収入向上のために、「手頃で機能性が高く、収入を向上させるものを届ける」「アントレプレナーシップを応援する」企業です。
農業において必須の条件といえば、水の確保です。
Proximity Designは、主に灌漑に使うポンプなどの道具をデザイン・開発・販売しています。そのポイントは、ほぼすべてのデザインが「足踏み」であるという点です。
では、なぜ足踏み式なのでしょうか?モーター駆動ではだめなのでしょうか?
ミャンマーの農村部は灌漑設備や井戸が整っているところは少なく、農家は水のあるところまで、一日何度も棒を担いで往復しなければなりません。これは非常に体力も労力もかかる仕事で、生産性が低下する原因にもなっているどころか、怪我や病気にもつながるといわれています。
また仮にディーゼルエンジンを持っていた場合、生産性はそれほど変わりませんが、ガソリンを補充しなければならず、その費用が余計に掛かることになります。そういう点を考慮すると、足踏み式がベストということになります。
ポンプは16ドル~40ドルで、ドリップ式の灌漑設備や貯水槽なども40ドル以下で販売されています。フルセットでは、70ドル程度です。貯水槽やドリップは、耐久性に優れたプラスチック製で折りたたむことができ、組み立てや持ち運びも簡単にできる設計になっています。
明かりをともす
また、ミャンマーでは農村部の人口の95%が電力インフラを得られていないとされています。代わりは、既にご紹介してきた国々と同じ、蝋燭や石油ランプです。
Proximity Designは、2年もち、蝋燭や燃料にかかる費用を60%カットできるソーラーライトも10.5ドル~程度で販売しています。これにより、料理を作ったり、勉強したり、涼しい時間帯に作業をすることも可能になります。
また最近では、灌漑設備やソーラーランタンを購入するためのマイクロファイナンスのような取り組みも始めているようです。
Last One Mile
生産性を上げるポンプやランタンを、最も必要としている人たちは、往々にしてもっとも手の届かないところにいる人たちです。(このような人たちにものを届け、物流インフラを構築するソーシャルビジネスも行われています。)
そこで、Proximity Designは800人以上の販売員を村に置いています。販売員は、もともと顧客の人たちで、口コミ的な役割を果たしています。販売や、設置・修理などからマージンを得られるようです。
また、65以上の小さな町に、180軒以上のディーラーがいます。さらには、100以上のエージェントが、キオスクを運営する傍ら、アフターケアやマイクロファイナンスなどを行っています。
このように、民間の力をフル活用することで、最貧困地域へのアクセスを徐々に広げています。
成果
始まってから10年ほどで、部品はすべてミャンマー国内で調達しており、30人のフルタイム従業員と、50の契約先を抱えているといいます。
また、2012年の売り上げは30,708ドルでした。2012年までに10~15%の農地が拡大され、8,838個のソーラーランタンが売れ、486,500人にインパクトを与えたとされています。平均で1人あたり250ドル収入が増加し、2億7600万ドルが生み出されました。人口の80%をカバーしているようです。
最も必要としている人たちが手の届く価格で、届くような流通経路を作る。ソーシャルビジネスでは必須のことですが、ここが実は難しいところでもあります。Proximity Designは民間の力をうまく使い、モデルを構築したいい例だと思います。
世界各地での取り組み
このようなポンプや灌漑の道具は、世界各地で同様の取り組みが行われています。たとえばケニアのKickstarterや、IDE(国際開発エンタープライズ)のドリップ灌漑システムなどがよく知られていると思います。この二つは、Proximity Designよりも大規模に貧困改善に貢献しています。こちらも併せてご覧ください