これまで何度か取り上げてきた、アメリカにおけるホームレスの問題。同国でホームレスに対する取り組みが盛んなのは、問題の根深さとともに、アメリカにおけるボランティア精神を示しているように見えます。

例えば、Common Groundはまず、安全で快適な住居を提供します。また、Green Residence Projectは、風雨がしのげる画期的なテントを発明しました。

フードロス事情

アメリカはフードロスの量も非常に多いといわれています。イギリスのCommunity Shopの事例でも述べましたが、消費段階のロス率の高さが際立っています。つまり、食べ残しや期限切れなどによるロスが非常に多いことを意味しています。

フードロスを金額に換算すると、1650億ドル(17.8兆円)とも言われています。しかし一方、国内で食べるものに困っている人は5000万人を超えるとされています。

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DC Central Kitchen

全米で6万人以上といわれるホームレスと、18兆円近い食品ロス。この二つをうまく結び付けようとしているのが、DC Central Kitchenです。

DC Central KitchenはRobert Eggerが立ち上げました。善意はこもっているけれども不十分なホームレスへのボランティア活動に業を煮やした彼が、DC(District Columbia)地区の資源の再活用と、ホームレスの飢えや貧困を解決するべく、1989年に始めた事業です。

そのミッションは、「食べ物を、体を強くし、心を強くし、コミュニティを形成するための道具として利用する」。

Robertの始めた事業は、まだ食べられるのに捨てられてしまう食べ物や残り物を集め、調理をし、契約先(シェルターなど)に届けるというもので、“Mass Distribution”と呼ばれています。そしてその料理は、トレーニングを兼ねたシェルター入居者やホームレスの人、出所者たちが作ります。

ホームレスのトレーニング

シェルターの入居者やホームレスの人たちは、14週間に及ぶトレーニングを受けます。このプログラムを通じて、食品分野での職を見つけることが目標です。トレーニングは、料理のスキルだけでなく、自分啓発などのプログラムも組まれており、その後の1ヶ月のインターンを受けることでプログラムを「卒業」します。

また、彼らが作った食べ物はMass DistributionによってホームレスやDV被害者のシェルターへ格安もしくは無料で届けられています。2014年時点では80を超える契約先を抱え、毎日3,000ポンドの食べ残しを5,000食の食事に変えているとのことです。

年間では807,534ポンドの食べ物を回収し、170万食を危機的な状況の人々の食べ物に変えることができ、NPOなどで使われる370万ドルの食費を浮かせることができたとされています。

2012年には、89名がプログラムを卒業し、そのうち90%が卒業時に職を見つけており、86パーセントが半年後も仕事を続けることができているということです。また、2015年には第100期生が卒業しました。今まででは800人以上が卒業しています。

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事業を広げる

DC Central Kitchenは、最近ではミッションの達成と事業の継続、卒業生の就職先確保のために新しい事業も開始しています。DC Central KitchenがあるDC地区では、住民の薬半数が健康的な食べ物を手に入れることができないといわれており、そのような人々のために、個人の店と契約し、スーパーよりも安い値段で野菜などの販売なども始めています。これは“Healthy Corner”と呼ばれています。

Healthy Cornerでは2014年で、79,826ドルの売り上げを売り上げがありました。各店舗で売っているものは公開されており、おすすめのレシピなども見ることができます。

また、“Health School Food”は低所得世帯の子どもへの給食のサービスを行っています。

食材はすべて地元の市場から調達しており、20人ほどの卒業生も働いています。2014年には10の公立学校にて、2,600人の子どもに876,000食を与えることができたとされ、給食プログラムのみならず栄養に関する教育なども行っているようです。

近年、アメリカ各地でDC Central Kitchenの模倣的なプログラムも始まっているようです。Common Groundと並ぶ、ホームレス対策の恰好なソーシャルビジネス事例ですね。

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批判もある

現時点では、給食プログラムやHealthy Corner、ケータリングサービスなどによって収入の60%を稼いでいるようです。これから収入をどこまで伸ばせるかも、事業継続のポイントになってきますね。

DC Central Kitchenの問題点はといえば、仕事の提供によって本当にターゲットとしている、薬物中毒者や元ホームレス、出所者の生活が改善されているのかが不明瞭である点です。

彼らがトレーニングを修了し、仕事を得たとしても、半年後に続けている人は86%にとどまっているという点で、この取り組みが本当に継続的なものであるのか、という問題が指摘されています。つまり、仕事を辞めて、ホームレスや薬物中毒に戻ってしまう人たちが多いのではないか、ということです。

この点は、確かにCommon Groundは95%近い社会復帰率を示していることに比べると、少し低いかもしれません。これは、Common Groundが住環境を与えることで、初めに劇的に環境を変えることから始まるのに対し、DC Central Kitchenは個人の環境という点まで踏み込めていない点の違いだと考えられます。

収益性にはおいてはまだまだ課題がありますが、ごみとして捨てられる「廃棄物」をホームレスや薬物中毒者の社会復帰とうまく組み合わせたこの取り組みは、ソーシャルビジネスを考える上で、ヒントになるのではないでしょうか。