
以前、フィリピンのSALtという海水ランプの事例を取り上げました。今回はそこで少しご紹介したTOMSの“One for One”というプログラムについてご紹介します。
TOMSとは?
今や日本でも人気のあるシューズブランド“TOMS”は、2006年に設立されました。設立者のBlake Mycoskieがアルゼンチンを旅行しているときに、裸足で生活している子どもたちを目の当たりにしたことで、彼らの生活をどうすれば改善できるか、というときにたどり着いた答えがこの“One for One”でした。
女性ものを中心に欧米で人気を集め、日本においても近年、取り扱う店舗が増加中です。ソーシャルビジネスの一環として、販売している店舗もあるようです。
初めは靴から始まりましたが、現在ではこのOne for Oneの考え方をバッグ、サングラス、コーヒーなどにもひろげ、幅広い商材を扱っています。
One for Oneプログラムとは?
始まりは、TOMSの靴や商品を1足買うと、TOMSと提携の援助機関を通じて靴1足が途上国の靴を必要とする子どもたちに贈られる、というプログラムです。対象は、幼児から、学校に通う年齢の子どもたちに限っています。
支援する靴は中古ではなく、新しくTOMSが作ります。世界中のどこでも同じ靴ではなく、寒冷地ではブーツ、そのほかではカンバスシューズというように、気候やニーズに合わせたデザインをします。
この考え方を拡大して、サングラス(Eyewear)でも、サングラスを一つ買うごとに、途上国で目の検査・治療を行うという取り組みを行っています。ほかにも、バッグでは妊婦さんたちの安全で衛生的な出産を支援するキット(石鹸やガーゼ、メスなど)を送っています。
現在では、45,000,000足の靴を70ヵ国以上の子ども達に届けており、サングラスでは13ヵ国以上、325,000人の治療を行っています。
裸足の危険性
日本では、靴で歩くことが半ば当然のようになりつつあります。裸足でいるのは、室内や、プール、海の時くらいでしょうか。
日常的に裸足で生活をする人々がどのくらいいるのかは不明ですが、裸足で歩くことは、ガラスを踏むなどの思わぬ怪我や、土壌にいる細菌や寄生虫の感染(炭疽菌や破傷風菌など)などを引き起こす可能性があります。寄生虫は日本ではあまり問題になることがありませんが、特に途上国では細菌・ウイルス感染と並ぶ大きな問題です。
また、学校へ行くのに舗装されていない道を何キロも裸足で通う大変さは、容易に想像ができると思います。
世界中での目の病気
目に関する病気は、Aravind Eye Hospitalでもご紹介してきましたが、発展途上国における症例のうち8割以上が予防・対策可能なものであるといわれています。また世界では失明も含め、眼に何らかの障害を持つ方が5億人以上いるといわれています。
消費者を「恩恵人」へ
TOMSの商品を購入したとき、消費者は、自らの購買力を「国際貢献」に転化させたことになります。この力を最大限に活用することがTOMSのミッションであり、TOMSは自分たちの商品を購入する消費者を「恩恵人」と呼んでいます。
つまり、誰しもが国際貢献に参加できるようになったという点に、TOMSの大きな功績があります。
もちろん、前提として「売れる」ブランド、モノであることは必要で、これによってTOMS自身も規模拡大の可能性と事業の継続性を担保できています。
TOMS、One for Oneへの批判
ただ、「靴を得ることで子供たちの生活はどのように変わるのか」ということは見えづらい部分です。TOMSのホームページでも、新しい靴を作るコストはどのくらいなのか。靴はどのくらいの寿命があるのか。ボロボロになった場合、2足目はもらえるのか。などのことは書かれておらず、ちょっと不透明です。
これについては、TOMSはまだ若い会社ですし、貧困に関する研究も日々発展していくので、いずれ明らかになるかと思われます。
またTOMSは、“One day without shoes”というキャンペーンも展開し、一日裸足で過ごしてそのつらさを体感し、またその様子をインスタグラムにアップすることで、一人1足の靴を途上国に届ける、という運動も毎年行っています。
しかし、TOMSに対しては一部から、「ローカルマーケットを破壊している」「与えることで人としての尊厳を失わせている」などの批判がなされています。
これは援助やソーシャルビジネスに関して常に付きまとう批判ですね。この議論に関して深入りはしませんが、適正な数を、本当に困っている人たちに届けられているのであれば、マーケットの破壊や、人間の尊厳を傷つけている、という批判は的外れですし、靴がない状態のほうがよほど尊厳を傷つけていると思います。
TOMSがこの批判に対してどのような行動を起こすのか、注目すべき部分です。
いずれにしても、ソーシャルビジネスに先進国の消費者を「自動的に」うまく巻き込む仕組みを作ったことは十分評価に値することだと思います。
もしかしたら、このように購買力を自然と社会貢献に転化することができる仕組みこそビジネスの理想的なカタチだとも言えますね。