地球上に存在している水のうち、97.5%以上は海水で占められています。真水は2.5%しかなく、しかも大半が氷河などです。結局、人間が使える真水は0.01%程度だといわれています。

海水をうまく利用する

地球上での陸と海の比率は3:7といわれており、地球の7割が海です。見方を変えてみると、海は資源として大きな可能性を秘めているとも考えられます。現に、波力発電や潮汐発電などの技術も研究が行われ、一部実用化されています。

また海水から真水を作る逆浸透の技術なども一応は存在しています。この技術がコストダウンできれば、世界の水不足解消にも少し光が見えるかもしれません。今回は、このような大規模な海水の活用法ではなく、個人での利用を考えていきます。

海。見様によっては資源です。

フィリピンでの取り組み

フィリピンは、大小7,000もの島で構成される島国です。小さな島々では、人々は農業や漁業で生計をたてています。電気は通っておらず、人々は主に石油ランプやバッテリーによる発電、もしくは蝋燭の光をもとに暮らしています。バッテリーは、貧しい家庭にとってはそれ自体がとても高く、燃料費もかかり、なかなか手が出ないのが現実です。

また灯油は可燃物で、火事の危険性があり、保存にも場所を使います。また、購入できる場所も限られ、何時間も歩いていくこともしばしばあるようです。さらには価格変動が大きく、こちらも家計への大きな負担となっています。

また灯油ランプや蝋燭の光は、ご存知の通り弱々しく、ちょっとしたことですぐに消えてしまいます。蝋燭が転倒すると火災や火傷の原因にもなり、しかも部屋も暗いので思わぬ怪我の原因にもなります。これに頼って仕事・作業をするのは効率が非常に悪いです。

フィリピンでは、このような電気のない生活をする世帯が1,600万にも及ぶといわれています。

資源なし。周りにあるのは海。そこに目を付けたのが、SALt(Sustainable Alternative Lightning)というフィリピンのベンチャー企業です。SALtは、塩水を入れるだけのライトを開発しました。

SALTのランプ、点灯するとこのようになります。

1杯のグラスとスプーン2杯の塩

SALtのランプは、1杯のグラスにスプーン2杯の塩を溶いた塩水を入れるだけで点灯します。明るさは蝋燭約7本分で、1回およそ8時間使えます。また、ランプと同時とはいきませんが、携帯電話の充電も可能です。

このランプは、LEDを使用しており、1年以上は確実に使用できると見込まれています。石油ランプは電球が切れるし、バッテリーは燃料を遠くまで買いに行くコストがかかりますが、このランプはこれらのコストなどが軽減する上に、明るい光をもたらしてくれます。

汎用性の高さ

SALtのランプは、必要なのは塩水だけとシンプルなため、他国でも汎用性が高いといえます。

塩

例えばインドネシアは、同様に電気のない世帯が6,300万世帯、ミャンマーは2,600万世帯、カンボジアで1,000万世帯などといわれています。このような人たちにも、すぐに明かりをもたらすことができそうです。

また、SALtのランプは災害時にも活躍します。災害時に困るのは、飢え、渇き、寒さに加えて、電気の供給がないことだといわれています。塩と水があれば電気が確保できるというのはありがたいですね。

太平洋の熱帯地域にあるフィリピンは、台風の発生する地域でもあり、しばしば猛烈な台風に襲われます。また、フィリピン海プレートも存在するため、火山活動も活発で、地震に襲われることもあるようです。国連の評価でも、世界で最も災害に遭いやすい国の一つといわれています。

万が一災害に遭った時でも、これを配ることで電気という問題は解決できそうです。

電気のない不便な暮らしをなくす

SALtの共同設立者であるAisa Mijenoは、灯油バッテリーと月明かりに暮らす少数民族と暮らしている中でこの着想を得たそうです。

Aisaは「この製品は電気へのアクセスを持たない人たちのために作り出したものである」と明言しています。SALtの目標は、「電気がなく不便な暮らしをしている人たちをなくすこと」。これから低価格化などの課題に取り組むところですが、今後の動向が楽しみです。

現在の製造コストは35ドルで、貧困層が購入するには厳しい値段といえます。まだ実際の販売は行われていませんが、フィリピンに暮らす少数民族など電気へのアクセスを持たない住民たちへの寄贈プロジェクトなどは着々と行われているようです。

また、シューズのメーカーとして有名なTOMSの1 for 1 model(TOMSの靴を1足購入すると、1足が途上国へと贈られる仕組み)のようなモデルも検討されているようです。

島国では、電気が問題になります。

途上国の問題に取り組む

以前紹介した、インドのPrakti Designのコンロや、今回の事例のように、ソーシャルプロダクトには、特別な技術や革新的なデザインが必要なわけではありません。

貧困と密接に関係する社会問題をターゲットにするときは、低価格化のためにもローテクで十分です。問題は、いかに新しい切り口を持てるか、というところにあります。今回は、周りにありふれたものである「海水」を、資源として活用したところが革新的だと思います。