今回は途上国に多い健康問題を解決し、女性のエンパワーメントも行う「コンロ」のお話です。
発展途上国では、まだまだガスや電気などのインフラが普及している地域は非常に少なく、どの家でも薪か木炭を使っています。実は、この薪集めがなかなかに複雑な問題を含んでいます。


薪集めは、調理も女性の仕事とされているようです。(水汲みも女性の仕事であれば、ものすごい負担になりますね。)

「調理」による4つのマイナス

しかし、この「調理」が、途上国の女性の時間を奪い、環境に重大な影響を与え、健康被害を起こしている上に、家計を圧迫しているといわれています。順番に説明します。

小さな部屋で薪を燃やすと、もうもうと煙が立ち上ります。

①女性のエンパワーメント

まずは、薪集めです。燃料のほとんどを薪に頼っている途上国では、女性が朝から数時間をかけて薪を集めます(水汲みもあったりします)。薪を求めて長距離を歩くので、暴力に巻き込まれるリスクもあるといわれています。

②環境問題

地球の7割近い人口が毎日の燃料を薪に頼っているのですから、その量は膨大になります。また薪集めは放牧と並ぶ砂漠化の最大の原因といわれています。
砂漠化が進むことで薪が不足すると、燃料は流通している木炭に移行します。木炭は、木材を使っており、自然破壊になる上に、燃焼効率も悪く地球温暖化の大きな原因でもあります。

③健康被害

薪拾いの次は調理です。いわゆるキッチンは、大体の場合、煙突もなく室内あります。そこで薪を燃やすと、猛烈な煤煙が室内に立ち込めます。この煤煙には、有害物質も含まれており、“Inside Air Pollution”(室内大気汚染)と呼ばれています。1回の調理でタバコ2箱分に匹敵する量です。

母親と、室内にいる子どもが吸引するため、途上国の死因で呼吸器系は上位を占めます。一説では年間に400万人の死者を出しているともいわれます。

④経済的負担

現時点でも貧困層の収入の1/3が燃料に充てられているといわれています。しかも、環境破壊がこのまま進むと、ただで集められる薪から、買って使う炭へとシフトせざるを得なくなり、収入を圧迫することになります。
このように、「調理」には、とてつもなく重い課題が潜んでいます。

Prakti Designは、この点に注目し、「煙の少ないコンロ」を開発しました。

煙が少ないコンロ

インドのPrakti Designは、モトローラなどでエンジニアとして働いていたMouhsine Serrar氏たちが立ち上げました。

彼らの開発したコンロは、木材用と木炭用の二つがあります。一口コンロは重量が5キロほど、二口コンロでも10キロ以下で、どれも持ち運びが可能な小さなものです。

これを使うことで、薪の消費は、5人家族であれば1日2キロも抑えられ、木炭の消費は8人家族が1日0.5キロ抑えられる優れものです。燃料消費の50%にもなるといわれています。また煙の排出も80%減らすことができます。

実際に利用した人たちからは、「目の痛みがなくなった」、「調理にかける時間が減った」などと上々の評判で、国際機関からの評価も高いようです。
具体的にどうやって削減を可能にしているのかは不明ですが、きちんと灰をキャッチできるデザインになっているようです。

Praktiの炭火用コンロ。驚くほどシンプルです。

Mass Customization

このPraktiのコンロは、インドで一括して原型の生産を行っていますが、実際に売るのはこれを購入した女性たちです。

この女性たちが組み立てを行うことで、国や地域に最適な形にカスタマイズすることを可能にしています。これを“Mass Customization(マスカスタマイズ)”と呼んでいます。機能を変えずに、その地に合った形にすることで、料理の時間を最大限削減できる仕組みです。

サプライヤーにあたる女性たちの収入の増加とエンパワーメントについては現在取組中とのことですが、きっと現在でもインセンティブのようなものがあるのだと考えられます。

現在は、業務用の大きなコンロも販売しているようです。また、インドだけでなくネパールでも販売されており、ハイチやスーダン、コンゴなどでも援助機関を通じて配布されているようです。

Praktiのコンロは、女性のエンパワーメントにもつながります。

今あるものを、うまく活用する

このような煙の出ないコンロは、すでにPrakti以外からもいくつも出ています。このコンロは、木材や木炭を使うということ自体には変わりないので、さらに良い解決策がある可能性は十分にあります。

Solar Cookerなど、火を全く使わない調理法も最近話題になっています。奇抜なアイデアのSolar Cookerに対し、Praktiのコンロは地味な感じもします。

しかし、いざ生活に受け入れるとなった時に受け入れやすいのは、生活スタイルをあまり変えないコンロの方だとも言えます。利用できるものをうまく利用して、問題に対処することも重要なことですね。

Praktiのコンロは学校用にも開発されています。

オセロの角をとるようなモデル

今回の事例のように、貧困問題環境問題、女性のエンパワーメントなどの課題は、お互いに深い相関関係があります。貧困問題を解決するには、環境問題を解決しなければならない・・といったジレンマにもなります。

しかしこれは裏を返せば、何か一つを変えれば、それが次の問題解決につながる・・という連鎖を生み出せ、大きなインパクトになるということも意味しています。

Praktiのコンロは、成功すれば、オセロの角をとるように問題に対処ができるきれいなソーシャルビジネスのモデルだといえます。