
社会問題をビジネスで解決したい―そう思い、起業家の卵としてボーダレスに飛び込んだ新卒のメンバーたち。実際に入ってから起業するまで、そしてそのあとの道のりを赤裸々に語りました。
以下、2019年3月21日開催のイベント「【20代限定】起業を目指すあなたに贈る"社会問題の解決とビジネスを両立する方法"」から、文字起こし。
(前の記事:グループ創業者は同僚?!新卒起業家が明かす意外な関係性)
司会(石川):それでは、ここからは会場の皆さんから質問をお受けしていきます。
「雇用」は児童労働削減に繋がるか
参加者:呉原さんに質問なのですが、(グアテマラの家族には)旦那さんもいる中でお母さんに(養鶏に)参画してもらうことに理解というか、女性が働くことで男性が置いてけぼりになってしまう気持ちとか、どう巻き込んで理解してもらう仕組みづくりをしているのか聞きたいです。
呉原郁香(以下、呉原):そこは、すごく悩んだところです。事業モデルは色々変わってきたんですが、当初から確実に子どもの教育につなげたかったんですね。色々な統計やグアテマラの文化を見ていくと、お父さんではなくお母さんを対象にした方が子供たちに、高い確率でアプローチできるということで、一旦お母さんにフォーカスしました。
実際やっていくうちに、お母さんだけではなくてお父さんも重要でしょとなったので、今のモデルだけでいうとお父さんも対象にすることにしました。子供も日本みたいに1人2人ではなくて、3人4人5人といて、その子たち全員を小学校に通わせ続けるとなると、お母さん1人だとすごく負担が大きいからです。子どもたちの教育のためにお金使わなかったということもあるかもしれないですが、今は信じてお父さんも対象(家族経営)にしています。
参加者:中村さんに質問したいことが2つあります。1つ目が、Haruulalaのビジネスモデルです。貧困家庭のお母さんに雇用を生み出すことが、児童労働削減に直結しているのか。母親のインカムが上がる=削減に繋がるというのが自分の中でしっくりきていないので、そこの質問です。2点目が、母親のインカムが上がることで子供たちに教育を受けさせる意識が上がるのかというのも疑問で、お母さんたちの意識を変えるアクションをする予定があるのか、それはビジネスとしてやるのかそれともジャストアクションとしてやるのかをお聞きしたいです。
中村将人(以下、中村):色んな回答があるので、僕たちはあくまで1つのソリューションだと思っています。そういう大前提があった上で、最初の質問については、現状はYesですね。お母さんに限らずお父さんもですが、やっぱり家計の収入が少ない、特に貧困地域は日雇いが多くて、日雇いは毎日は働けなかったり、ちょっと病気になったりすると働けなかったりというので安定しないんですよね。そういうところに安定した収入で、怪我をしたりちょっと働けなくなったりしても借金をしなくていいっていう、その担保ができているから子どもが働きに出なくていい。(ここで言う子どもは)家計を支えるためにみんな働いていて、孤児ではないです。インパクト(お母さんたちの雇用数)は、まだ60人なので小さいですけど。
また、実際にインカムが増えたらお母さんたちは学校に行かせるのか。これは、最初に入るときに約束にしています。僕たちはこういう思いで工場を作っているということが大前提にあるので、必ず高校まで行かせてくださいと。僕たちは今スカラシップ制度を取り入れようともしています。
よくある普通の広告をつけても、ビジョンと合わなくなる
参加者:僕は「どっち?」というアプリを実際に使っていたので廣瀬さんに質問です。アプリなのでどうマネタイズするか難しいと思います。例えば政治の無関心だったら、政治家とつながるというのも(手段として)ある中で、ニュースアプリを選んだ理由。あとはビジネスモデルとしてどういうふうに今後を考えているのかを知りたいです。
廣瀬智之(以下、廣瀬):まず選んだ理由としては、Tomoshi Bitoのソリューションとしておいているのが、「日本に社会や政治の出来事に対して意見をもつ習慣をつくる」ということなんですよ。習慣化させようと思った時に、ニュースは毎日情報を追っていくのがあるし、どっち?に限らずニュースアプリを使っている人はそうだと思うので、ソリューションとして一番マッチしているんじゃないかと選択しています。
マネタイズはおっしゃる通りで、クレさんがマイクロフランチャイズでとか、ユーモア溢れること言ってるんですけど、僕はただの広告収入しかなくて。そこが1つの課題ではあるんです。一方でユーザーが伸びれば間違いなく収入は入ってくるので、ただ、そこでよくある普通の広告をつけるというのはどっち?のビジョン的に合っていないんじゃないかと。
たとえば、ゴディバのチョコレート、バレンタインやめませんか?って新聞で出しましたよね。ああいう、企業が意見を社会に発していくような広告とか。さっきも出たんですけど、エシカルプロダクトをもっと買っていかないといけないと思いますか?みたいなトピックをつけて、ソーシャルグッドなもの紹介したりとか。いずれにせよ、ユーザーさんが社会や政治に対して意見を持つのにつながるところに絞った広告をやりたいなと思っています。そこでモデルは作ってますね。
ビジネスではなく、ソーシャルビジネスだからこその難しさとは
参加者:できれば全員にお伺いしたいんですけど、事業モデルを考える上でソーシャルビジネスだからこそ難しかったこと、あるいは工夫したことをお伺いしたいです。NPONGO・行政機関とか、他の企業ではなくソーシャルビジネスだからこそ社会問題を抱える人を助けるためにビジネスも両立する難しさを乗り越えないと、事業は成り立たないと思うんですね。その上で難しかったこととか、その壁を乗り越えるために工夫したことがあったら教えてほしいです。
呉原:普通のビジネスとソーシャルビジネスの違いってところかなと思います。こんなことをいうとあれですけど、会社をつくって普通の事業しようと思ったら、誰でもできるというか、よくありますよね。例えば、レストランを経営して利益を上げればそれもビジネスで。でもそこじゃなくて、私たちが対象としているのはソーシャルインパクト。私は事業モデル作るのに6ヶ月くらいかかっているんですね。あれじゃないこれじゃないってずっと右往左往していて。ビジネスモデルができてもソーシャルインパクトが全然出せない、例えば1年事業やっても(雇用は)5人の家族だけとか。
「10、20年先をみたときにどれくらいソーシャルインパクトを出せるか」というところが私たちが目指しているところです。売上も事業をまわしていくうえで必要なんですけど、売り上げだけじゃない。それだけあげてもソーシャルインパクトがなかったら、ボーダレスグループでは事業スタートのGOサインがでないんですよね。そこは難しいというか、普通のビジネスだけじゃだめで、苦労したところかなと思います。
犬井智朗(以下、犬井):僕が思うのは、こんなこというのも恥ずかしいんですけど、お金にするのはそんなに難しくないなと思っていて、色んな手段があるじゃないですか。1個1個コツコツやるといつかは黒字化するだろうというのがある。何が一番ソーシャルビジネスで難しいかというと、ソーシャルコンセプトですね。誰のどんな状態をどうするか、それをどう実現するかという話があるんですけど、ここを組み立てるのが一番難しい。なんとなくできても、次の日の朝考えてみるとなんだか違うなって。もっと言うと、ビジネスやっていくうちに、なんか違うってなる。農家さんのためにやっていたのに、どんどんビジネスの方に行っちゃって、実は農家さんのためになってなかったみたいな。
ソーシャルコンセプトがちゃんと固まっていると、そのあとはなんとでもなる。そこが一番気をつけないといけないし、難しいところですね。それがはっきりしている人はすぐにでもボーダレスにきてやれば良いんじゃないかなって思うぐらいです。
廣瀬:僕も2人とほぼ共通していて、ソーシャルコンセプトを決めるのがめっちゃ難しかったんですよね。僕は去年の1月(大学卒業前)から福岡に何回か通うようになっていて、ボスと時間もらってやっていたんですけど、一番時間かかったのがそこなんですよ。っていうのも、最初は「無関心を関心に」って言っていたんですけど、「どういう状態が無関心じゃないの?選挙行ってたらOKですか?」「うーん…」「署名活動やってたらいいですか?」「えー…」みたいな(笑)。それが分からない時があって、じゃあ「なんのために僕は事業をするんだ」ってなるんですよね。そこが明確にあるのが、他の事業にはない一番難しいところかなと思います。
制約条件が多い中で、どうアイデアを出していくか
中村:同じく、っていう感じな気がする(笑)。いま一生懸命考えたんですけど。3人が言ったことも1つだと思います。やっていくときに1つあるとすれば、それは制約条件の多さだと思います。例えば、通販で買うと、そのあとよくポストに広告入ってきますよね。もう1回続けませんかとか。あれはなぜやるかというと、効果があるから。だけどあれ、すごく紙を使うじゃないですか。1000人に1人(の購入)のためにあれ何枚配ってるのって。社会を良くするために手段を選ばないっていうのは、できないですよね。環境破壊は、雇用を増やすためでもできないから。これは、やってみてぶち当たる壁かなと思いますね。ソーシャルコンセプトが決まっていざ走り出して、色んなマーケティング方法はあるけど、それができないっていう制約条件。できないというよりはやりたくないっていう方がもっと大きいかもしれないけど。
犬井:始めてからの制約条件の話でいうと、それは本当に多いなって。例えば僕がいる地域って街からめっちゃ時間がかかるんですね。町から2時間くらいの場所。そうなったときに、そこでモノを売りたい、マイクロファイナンスやりたい人なんていないんですよ。規模が小さくてオペレーションコストとか色んなコストがかかって難しい、だからやらないって。そこから取り残されてきた人たちが、いま社会問題の渦中にいるんです。こういう、他のマーケットがないってみんなが思うようなところに企業を作ってマネタイズしていくっていうのは、いろんな制約条件があって、そこが難しさかなと。それを打破するには、やっぱりクリエイティブなアイデアとかを思いつかないと。イノベーションを起こすようなアイデアを出していかないといけないですよね。
参加者:呉原さんに質問があります。僕もメキシコで働いていたことがありまして、すごく思ったのが、僕ら日本人は事業の提案やプロモーションをしていても(現地の人から)なかなか受け入れてもらえないということです。マイクロフランチャイズの仕組みも、入ったそのあとも続けてもらうのはすごく難しいと思うので、その工夫とか、信頼関係の築き方とかあれば教えてください。
呉原:私がいるのがシェラという地域の一番貧困地域と呼ばれるところで、町から2時間くらい離れたところです。標高は2,700mくらいあって、寒暖差があって農作物も育たないと。遠いし、水もないし電気もないし何もないところなんですね。そういったところでかなり閉鎖的な地域・コミュニティもあって。私たちが行っても全然話を聞いてくれないんですよね。
そこで私たちがやったことはコミュニティの代表者と最初に会って、まず受け入れてもらうこと。コミュニティの一部になる。「私たちは主従関係ではなく対等な関係で、ビジネスを使って社会に貢献したいです。なので私たちに協力してください」と。私の旦那さんはグアテマラ人なんですけど、ラディーノとよばれるハーフで、マヤのコミュニティの人ではないので入っていっても無視されるというか。それくらいの閉鎖的なコミュニティでした。やっぱりきちんと順序をふんだというか、文化やコミュニティをリスペクトしないといけない。ぽっと来た人がどうやって信頼関係を作っていくかというと、時間をかけるとか、思いを伝えるっていうシンプルなことしかできない。それを毎日毎日、うざいくらいにやっているという感じですね。
司会:スピーカーの皆さん、質問してくださった皆さん、ありがとうございました!
※連載ここまで
■スピーカー
Sunday Morning Favtory
代表取締役社長 中村将人
( Facebook / Twitter )
ボーダレスグアテマラ
代表取締役社長 呉原郁香
( Facebook / Twitter )
BORDERLESS LINK
代表取締役社長 犬井智朗
( Facebook / Twitter )
Tomoshi Bito
代表取締役社長 廣瀬智之
( Facebook / Twitter )
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(2019年3月21日(木)開催 / イベント詳細)
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