
環境後進国とも呼ばれる日本のゴミ問題を解決する「リユース食器事業」。この事業を展開する認定NPO法人スペースふうが目指す未来と、いまの経営課題とは?
2019年3月21日(木)に開催した「スペースふう・経営者募集説明会」より、代表・永井さまによるプレゼンテーションをレポートします。
↓以下、全文書き起こし
使い捨て食器を減らす「リユース食器」
私たちスペースふうは、「イベントでのゴミを減らすためにリユース食器で循環型社会を実現しよう」ということを基本理念に、今から16年前に立ち上がりました。例えばイベントでのゴミのほとんどは、実は使い捨て食器のゴミで、これを減らしていきたいと思っています。
プラスチックゴミは社会で問題になっています。私たちのリユース食器の事業は、山梨県の富士川町という小さな町から始まりました。当時のメンバーは女性10人ほどで、知識もお金もなくゼロからのスタートでした。
私たちが考えたリユース食器の仕組みは、洗って繰り返し使えるリユース食器の使用をイベントの主催者に広めることです。ゴミを出さないように、エコステーション(食器を回収する場所)を設置し、食器を回収します。回収された食器は、スペースふうが衛生的に洗浄・管理しており、また次のイベントで使います。衛生管理や検品作業は目視で一つ一つ丁寧に行っています。
この仕組みはドイツを参考にしました。ドイツでできるなら日本でできないことはない!と思い立ち、導入してみました。イベントといっても様々ありますが、一番大きなイベントで10万人規模のものもあります。若い方に馴染みあるものでいくと学園祭や、田舎の桃畑での結婚式など、どんなに小さなグループでも活用できる仕組みです。
この数字は2017年の年間の食器のレンタル数で、年間で64万5千個ほどでした。2008年は100万個を超えています。
こちらはCO2の排出量です。この計算は東京大学の安井教授に算出いただいた数値です。使い捨ての食器を使うのとリユース食器を使うのとではCO2の排出量が80%ほど異なることが分かります。
「CO2の排出量が何%減った」とか「何キロ減った」と言われてもイメージが湧きにくいと思うので、使い捨て食器100個を使用した場合、杉の木の年間のCO2吸収量に置き換えると、使い捨て食器100個の使用は杉の木5.5本分に相当すると表しています。
私たちは様々なイベントでこういった活動を伝え続けてきました。2003年に事業を本格的に開始し、その翌年にはJ2のサッカーチーム、ヴァンフォーレ甲府の試合会場で採用されました。杉の木を例にした「CO2削減の見える化」を毎試合サポーターの方々に伝えてきました。
リユース食器は捨てられてしまったり、持ち帰られてしまうことが考えられたので、デポジット制を導入しました。貸し出しの際に100円をお預かりし、回収の際にデポジットを返金する仕組みです。
日本全国にリユース食器を広げるための動き
2018年12月にポーランドで行われた国連の環境会議COP24で、このヴァンフォーレ甲府のリユース食器の取り組みが紹介されました。ヴァンフォーレ甲府のゼネラルマネージャーが招かれて分科会でお話をされ、この取り組みによって65トンものCO2が削減されたこと、小さなクラブでも環境にいい影響を与えられるということを世界にアピールすることでできました。
私たちがこの事業を始めると、「これを待ってました!」という環境団体がたくさん出てきました。北海道から沖縄まで注文が入るようになりました。しかしここで、長い距離での郵送、送ったものを返してもらうことは環境に良くないということに気がつきました。また、近場にリユース食器の事務所があったらいいな、というお声をいただいたことや、地方で事業化を考えている人も出てきたので、2006年に全国展開をしようということで「リユース食器ふうネット」を設立しました。
現在は全国に12か所の事業所があり、洗浄施設を持っている事業所を赤、普及活動を行っている事務所を緑で記しています。年に1度みんなで集まって、ふうネットサミットを新宿で行っています。サミットでは情報交換やどうやって活動を広めていくかを話し合うのですが、2年前からは一般公開をしていて、市民を集めてみんなで議論をするようになりました。
今年は7月11日に新宿で開催予定です。今年は京都府・亀岡市、神奈川県・鎌倉市、東京都、山梨県・富士川町といった先進自治体を招き、パネルディスカッションをする予定です。先進自治体の事例を共有することで、この動きを全国に広めていきたいと思っています。
私たちの経営課題
今回の本題に入るのですが、ここまでお伝えしてきたように、スペースふうは様々な事業をやってきましたが、実際は経営的に行き詰まっているというのが現状です。
現在の課題は、「収益の伸び悩み」と「コアメンバーの高齢化」です。これまで一生懸命にやってきましたが、収益化の形にはまだなっていません。営業力を外から借りたいと考えています。また現在のコアメンバーは60代、70代で構成されています。あと2・3年で私たちは退きたいと考えていますが、次世代が不足していて世代交代ができる状況ではありません。
そうした悩みを抱えていた時に、ある経営者の方からボーダレス・ジャパンの代表・田口さんを紹介していただきました。早速田口さんに連絡を取りお話をしたところ、ボーダレス・ジャパンの「社会問題を解決する」という志と仕組みを聞くにつれて、ボーダレス・ジャパンの力を借りたいという話になりました。ここに行き着くまでには、スペースふうの内部でも激しい議論がありましたが、最終的には合意に至りました。
世界からみた、日本のゴミ対策の「いま」
2015年にはプラスチックの海ゴミ問題が浮上し、スペースふうは新しいステージを迎えました。これからの時代は新しい風が吹くチャンスの時です。なぜ今、海ゴミ問題がこんなに注目されているかというと、2015年に国連総会でSDGsが採択されたからです。この14番目の目標として、海の豊かさを守ろうということになったのです。海の豊かさをを守るために193ヶ国が採択を決めたのです。
2030年までに目標を達成するために、毎年G7で議題に挙がっています。2015年からはG7での表現が変わってきました。プラスチック問題が世界問題として扱われるようになり、2016年には「脅威である」2017年には「使い捨てプラスチックの削減を徐々に進める」と宣言。2018年には削減の数値目標を決めました。
しかし193ヶ国のなかで、アメリカと日本だけがサインを拒否して世界中から非難を浴びました。アメリカは州によって独立しているので、拒否しているといても各州でプラスチックの削減に取り組んでおり、何もやっていないのは日本だけということになります。
世界からみた、日本のゴミ対策の「いま」
マイクロプラスチックは、便利だけど自然界に分解しないので、いったんゴミになると大変な厄介者となってしまいます。どんなに小さくてもプラスチックはプラスチックのままです。マイクロプラスチックは世界中に漂い、海の鳥や魚が胃の中に溜め込み死んでおり、海の生態系を脅かしています。
使い捨てプラスチックは削減する方向で世界中で動いていて、国によって様々な規制が始まっています。例えば2016年には、フランスで使い捨てプラスチックの販売が法律で禁止になり、2020年に施行される予定です。
日本でもレジ袋削減やストローを減らす動きなども始まっていますが、去年の7月の段階でアジアやアフリカを含め、世界60ヶ国で使い捨てプラスチックの規制を何らかの形で行っています。その中で日本は禁止や課金(有料化)の仕組みがありません。
日本では、スーパーなど一部では取り組みがあるものの、コンビニなどでは導入されておらず、国としての取り組みがありません。国としての日本の動きは鈍いのが現状です。
一方で、地方や市民から動こうという流れになってきています。神奈川県では、県として「かながわプラごみゼロ宣言」を出しました。SDGs未来都市として、鎌倉市もプラごみゼロ宣言を2018年10月に出しています。2020年までに条例をつくるとした京都府の亀岡市の取り組みは新聞の一面で報じられました。「目標」として頑張るのではなく、「条例」として定め本気で取り組んでいます。私たちは2週間ほど前に亀岡市から招かれて、リユース食器の説明や問題点・効果を、市長をはじめ職員の方々にお話をしてきました。
オリンピックが開催されることもあり、東京都もリユース食器を使ってイベントをするためのガイドラインを作成中です。大阪でも「おおさかプラスチックごみゼロ宣言」をしました。昨年から天神祭で一部、リユース食器の導入を開始しています。
市民から始めるリユースを、全国に広げたい
このように大きな都市も動き始めましたが、自治体の動きを後押しするには市民の活動が大切になってきます。市民の活動は全国で始まりつつあります。山梨ではマイクロプラスチック削減プロジェクトといって、マイクロプラスチックの削減に向けて県と一緒に動いており、スペースふうももちろん参加しています。行政と市民と県が一緒になって、山梨からこの動きを発信する動きが始まりました。
このように世界は変わりつつあります。自治体も市民の意識も変わりつつあります。リユース食器を使う動きは波に乗ってくる時代です。ですが、私たちの力だけではなかなかうまくいきません。若い力を借りつつ、連携しながら全国にリユース食器の波を広めていきたいと思っているので、ご協力をお願いします。
今は経営手腕を発揮していただける方を求めています。オペレーションとフロントを分けて考えたいと思っています。オペレーションの部分はこれまで通りスペースふうが担い、広げる部分は新たに事業会社をたててボーダレスとして動いていくことになります。スペースふうとボーダレス・ジャパンはパートナーとして協同していきます。
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この「経営者募集」に関する詳細の説明会を、4月4日(木)に実施いたします。環境問題解決に事業経営で携わりたい方や、この事業を継承するリーダーのポジションに関心のある方はぜひご参加ください。