
新卒として入社後わずか4ヶ月で、AMOMAでのハーブ栽培事業立ち上げのために単身ミャンマーへ。そして入社3年目となる今年、「貧困農家を世界からなくすオーガニック農業 BORDERLESS FARM」を新規事業として立ち上げた田崎沙綾香。
「なぜ『農業ビジネス』で貧困解決を目指すのか。」「農業分野でのソーシャルビジネスに必要なこととは何か?」BORDERLESS FARM社長として語りました。
内容は、2016年月12月18日(日)、ボーダレス・ジャパンの社会起業家たち9名が登壇した、SEED BUSINESS FORUMのプログラム1「ソーシャルビジネス・プレゼンテーションからです。
↓以下、全文書き起こし
農業との出会い
田崎沙綾香と申します。私は3年前に新卒として入社しました。東京農業大学出身で、農業についてずっと勉強してきました。インドで一年間農業について勉強したりしましたが、ボーダレスに入るまではビジネスについては本当に無知でした。
3年前に入社した時はAMOMAで、ミャンマーでのハーブ栽培事業を担当することになりました。今年の8月からBORDERLESS FARMの事業社長をやっています。
初めに、なぜ私がこの事業を始めたのか、ってことをお話しさせていただきます。
まず私は昔から漠然と国際協力がしたいと思っていました。そんな中で農業という分野に行き着いたのには理由があります。
それは、高校生のときに訪れたカンボジアという国がきっかけでした。
カンボジアに行った時にいろんなところを見て回ったんですけれども、病院に行きたくても行けない人だとか、ゴミ山で働く小さな子どもたちだとか、スラム街に住む人たちだとか、いろんな人たちを目の当たりにしました。
そして農業をやっている農村にも行きました。そこで農家のひとの話を聞いて私はすごく衝撃を受けました。
それは、農家の人たちが自分たちで作ったお米を食べることができないということでした。なんでお米を作っている農家がお米を食べることができないんだろう?と思ったんです。
農村で自分たちでお金を稼ぐことができないから都市部に出てお金を稼ぎに行く、住むところがないからスラム街に行く、働くところがないから、ゴミ山にいく。そういった負の連鎖がたくさんありました。
私がそこで思ったのは、人間の一番の基本となるもの、それが「食」だということでした。
農家の人達がちゃんとした食事をとることができれば都市部に行かなくても済む、ちゃんとした食事をとることができれば病気にならずに病院にいく必要もなくなる。1番大切なのは「食」、「農業」なんじゃないかと思いました。
農業ビジネスに目覚める
それから私は東京農業大学に入ってずっと農業の勉強をしてきました。野菜から果物、お米の栽培、畜産、今では鳥の屠殺・解体までできるようになりました。
農業では土作りから種植えまで約1年間かかると言われています。それで1年間かけて農業をがっつり学びたいと思い、私はインドに農業を勉強しに行きました。
インドにもカンボジアと同じように貧しい人たちがたくさんいました。写真を見ていただいても分かるように、この壷の中にはお米と油としか入っていません。こんな風に、栄養の偏ったご飯を食べることしかできなかったりとか、ボロボロの服を着るしかなかったりとか、そういう現実を目の当たりにしました。
そしてインドでは実際に農作業だけでなくて、つくったものを売るという経験もしました。
この写真の自転車の後ろに野菜をのっけて、1週間に一回野菜を売り回ったりしていました。私はここでもすごく衝撃を受けたんですけれども、なんと、作ったものが全然売れなかったんです。丹精込めて作ったオーガニックの野菜なのにです。
農村だけでは売れないなぁと思ったので、都市部に行って富裕層に向けても販売してみました。でも、そこでも全然売れなかったんです。
そこで私が思ったのは、農業技術を学んで農家さんにそれを伝えることも大切だけれども、一番大切なのは売り先をつくること。売り方やマーケティング、つまりはビジネスが大事なんじゃないかと考えました。
カンボジアに行って農業で国際協力がしたいと思い、インドに行ってマーケティングやビジネスで国際協力がしたいと思い、こうした経験の中で、私の志はすごく明確になりました。
それは農業ビジネスを通して、貧困農家が安定した所得を得られるような仕組みを作るということです。
就活、そしてボーダレスへ
そして、自分の人生を賭けてこれをやりたいという志が明確になったとき、私は就活を始めました。私の志を実現できる会社を探したんですけれども、ピンとくるような会社を見つけることは出来ませんでした。
ないなら自分でやろう、自分で起業して農家のひとのためになるようなことをやろうと思ったんですけれど、やっぱり私はビジネスのことなんて何もわからない。そんな時に出会ったのがボーダレス・ジャパンでした。まさに自分のやりたいことを実現できる会社だ、と思って、私は入社を決めました。
ミャンマー・リンレイ村との出会い
入社してからはAMOMAという事業部に配属となりました。
私はウェブマーケティングを担当していたんですけれども、ちょうど私が入社したのがAMOMAでハーブ栽培を始めようとしていた時でした。でも、ボーダレスには農業が分かる人が誰もいませんでした。
なので、私がミャンマーの担当になって、ミャンマーのどの地域で栽培したらいいのか、どんな種類のハーブを栽培したらいいのかというところから始めました。(→ミャンマーでの事業立ち上げ当初の記事を読む。)そこで出会ったのが、リンレイ村という、少数民族が住む、山の中にある小さな村でした。
リンレイ村ではタナペと言うタバコの葉を栽培していました。それによって農家の人達は多額の借金を抱えていたり、農薬をたくさん使って栽培をしていたりと、いろんな問題を抱えていました。
そんなリンレイ村の農家さんに話を聞いてみると、「もう何十年も前から、おじいさんおばあさんの時からタナペを栽培していて、自分はタナペしか知らない。他の作物を栽培してみたいけれども、やり方がわからない。もしハーブを栽培できるのであればやってみたい!」という話を聞きました。
ここで私は、タナペの畑を全部ハーブの畑にしてしまおう、ハーブを栽培すればもっと安定的な収入を得ることができる、と確信して、プロジェクトを開始しました。
実際に一番始めは住む場所から探して、ミャンマー語がわからないのでミャンマー人のスタッフを雇いました。で、ここまでで、なんと入社してから4ヶ月です。ビジネスのビの字もわからない時に、ミャンマーでのハーブ栽培事業の立ち上げを行いました。
事業は、農家さんが実際にどんな問題を抱えているのかヒヤリングすることからはじめました。5ヶ月ぐらい現地に住んで働いたんですけれども、リンレイ村の中に2ヘクタールぐらいの畑を借りてテスト栽培をしてみたりしました。
そして軌道に乗ってきたときに、すべてミャンマーのスタッフに任せよう、私はビジネスやマーケティングの勉強がしたい、そう思って、一度日本に帰国しました。
BORDERLESS FARM立ち上げ
それからはAMOMAの事業部で、ウェブマーケティングや営業を担当してきました。そして今年(2016年)の6月に久しぶりにミャンマーに行きました。農家さんに話を聞くと、みんな口を揃えて言いました。「もっとハーブを栽培したい。栽培できる土地が余っている。」
写真を見てもらっても分かるように、村には土地がたくさん余っていました。また、これまでハーブを栽培していた農家さん以外でも、ハーブを栽培したいという農家さんがたくさん出てきました。
しかし、AMOMAの商品に使用するハーブの量は決まっています。また、AMOMAでは30種類ぐらいのハーブを栽培していますが、このうち全部がミャンマーで栽培できるわけではありません。
水がなかったり、環境が違ったり、その土地その土地にあったハーブがあるので、全てがミャンマーで育つわけではありません。ミャンマーで育つAMOMAのハーブは、既に全て育てていたので、これ以上栽培するハーブを増やすことはできませんでした。
ハーブ以外の作物をもっともっと栽培していかないと、栽培したいという農家さんがいるのに間に合わない。そう思って8月に立ち上げたのが、このBORDERLESS FARMです。
ハーブ以外のいろんな作物を栽培して貧困農家のためのビジネスをしよう、そうして立ちあげたのがこの事業です。今はリンレイ村だけをメインにやっていますが、今後はリンレイ村以外のミャンマーの農家さんのためにもやっていきたいと思っています。
BORDERLESS FARMの3つの特徴
BORDERLESS FARMには3つ特徴があります。
まず1つが、適性価格で全量買取保証をしているということ。ビジネスをやっている会社だと、月によって買取の価格が異なったり、すべてを買い取るということが難しいという状況があります。
しかし、BORDERLESS FARMでは「1年間この値段で買い取りますよ」ということをやっています。そして作ったものを全量買い取るということも行っており、農家さんのモチベーションアップにつながっています。
2つ目は、農作物の栽培から販売まで一貫して行っているということです。普通だったら栽培したあとに、その農作物をブローカーに持っていって、ブローカーがマーケットに持っていって、マーケットがさらに大きなスーパーマーケットに持っていって、といういろんな段階を踏んで、たくさん中間手数料がかかるんですけど。そういった手数料をかけないために、私たちは一貫して栽培から販売まで行っています。
3つめ目徹底した技術指導を行っているということです。ハーブを栽培してください、ということで放置するのではなくて、何というハーブをどこで栽培したらいいのか、といった指導まで行っています。
その指導を行っているのが農業のスペシャリスト集団です。
日本で農業について学んだりだとか、実際にミャンマーの農家さんだったりとか、こういったスペシャリストの人たちが村に住み込んで農家さんへの技術指導を行っています。
農家によっては水がある農家もいれば、ない農家さんもいる。斜面になった土地もあれば、平らな土地もあります。そういったそれぞれの農家にあったハーブの栽培を提案・指導しています。
農業ビジネスのためのビジネスプラン
これまではハーブだけの栽培を行っていました。しかし、これからは違う作物を栽培しないといけない。育てる作物を考えるときには、市場に左右されない作物ってなんだろう?どうやって負荷価値を付けて販売したらいいんだろう?ということを考えなくてはなりません。
今そういったことを考え中なんですけれども、私がいいなと思っているのは、ミャンマーの健康問題に特化したビジネスです。
実はミャンマーの死亡原因の第7位は糖尿病だと言われています。
糖尿病って先進国の病気だと思われがちなんですけれども、ミャンマーはアジアの中でいちばん糖尿病が多い国だと言われています。高血圧の割合は成人の約25パーセントだと言われています。その原因が食生活でした。
ミャンマー人は日本人の約3倍の米を食べると言われています。そしてすべての料理に油が使われていて、3食いつも油料理を食べています。また、塩も多くとります。
そういった食生活が原因で生活習慣病が増えていると言われています。
実際に糖尿病や高血圧の人に話を聞いてみると、全然解決しようとしていない人がほとんどでした。大きなスーパーマーケットに行ってみても、こういった食生活を改善するための商品は全然売られていませんでした。
こんなにたくさん悩んでいる人がいるのに、誰もアプローチしていない。ここにアプローチしたらすごくおもしろいんじゃないか、そう思って生活習慣病に対してアプローチする商品を販売しようとビジネスプランを考えています。
じゃあどんな作物を作ったらいいのか?
ここで着目したのが雑穀です。
雑穀といえば、ひえ、あわ、キビなどがあると思うんですけれども、ミャンマーにもたくさんの雑穀があります。
雑穀ってものすごく栄養価が高いのってご存知でしたか?雑穀は糖尿病や高血圧などにいい食物繊維や、カルシウム・カリウム・ビタミンなどを豊富に含んでいます。かつ、すごくいいのが、生命力がものすごく強いということです。
リンレイ村には水が全くないというところもあり、土地もそんなに豊かではありません。しかし、雑穀はそんなところでも簡単に育てることができます。そして雑穀には虫がまったくつきません。これはリンレイ村にぴったりじゃないかと思いました。
雑穀を育て、それをミャンマーの生活習慣病の人たちのために販売しよう。農家さんにとってもとてもいいし、ミャンマーの人々にとっても、とてもいいと思っています。まだ実際に販売しているわけではないんですけれども、ミャンマーのお米屋さんに置かせてもらって販売しようと考えています。
ソーシャルインパクト
2014年に事業が始まった頃には10人だった農家さんは、現在では95人になっています。この農家さんの数を増やすために、今年からはハーブだけでなく、雑穀の栽培を始めたいと思っています。そうすることで、2018年までには500人の農家さんと働くことを目標としています。
実際にハーブを栽培している農家さんに「何が変わりましたか?」と聞いてみると、今まで街に買い物に出るためのバイクを買うお金がなかったけれど、ハーブ栽培で貯めたお金でバイクを買うことができた、出稼ぎに行っていた子どもたちが帰ってきて一緒に暮らすことができるようになった、雨漏りがひどかった家の改修ができた、などという嬉しい声も聞くことができました。
覚悟ある志
これは、私がこのプレゼンテーションで一番伝えたかったことです。私は8月から事業を始めて、今も日本とミャンマーを行ったり来たりしているんですけれども、つらいなぁと思うことももちろんあります。
それでも私を支えてくれている、ブレないでいさせてくれているのは、覚悟ある志だと思うんです。
カンボジアやインドで経験したこと、考えたことが、今の自分の支えになっているなと感じています。
ものすごくツライことがあると、「これって本当に自分のやりたい事ことじゃないんじゃないかなぁ」って考えたりすることもあると思うんですけれども、それに負けないで、ブレないでいさせてくれているのは、やっぱり志があるからなんじゃないかなと思います。
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