事故や病気によって車いすが必要な人は、世界中で7000万人にのぼるといわれています。そしてその中できちんと車いすで過ごせている人は、わずか5~15%程度であると考えられています。

車いすがなければ、自分で動くことができず、学校や仕事に通うこともできません。生活に関しても、家族らの介護が必要になります。教育もなく、収入を生み出す手段もない。そうして本人の自尊心にも影響が出てきます。

必要としている人たちへと車いすを届けることは、障害を抱える人のエンパワーメントとしても非常に重要です。

次の段階として、車いすの持つ特有の問題を解決していくことも大切になります。大きな段差や急な斜面を登ることができない、腕の力が弱い人は漕げない、世間の目などです。以前ソーシャルビジネス総合研究所でもWHILLなどの画期的な車いすのデザインをご紹介しました。

そして車いすを使っている人でも服装を気にし、オシャレをすることはできるはずです。今回は、障害を持つ方のおしゃれについてです。特に車いすを利用している人、肢体に障害を抱える方向けのファッションをご紹介します。

車いすはいろいろなハンディキャップになります。

車いすと服装の問題

車いすを使っている人は、いわば座りっぱなしと同じ状況です。下半身を自分で動かすことができない方は、常に同じ体勢をとり続けていることと同じになります。

同じ体勢をとり続けてしまうと、特定の部分にだけ圧力がかかり、血流が悪化します。その結果その周辺の細胞が壊死してしまいます。褥瘡(じょくそう)、または床ずれといわれる状態です。寝ている間に動くのは、血流の悪化や褥瘡を防ぐためといわれています。寝たきりの高齢者の方も、寝ている最中は2~4時間おきに体位を変える必要があります。

肢体不自由の場合、このような感覚も衰えていることがあり、恥骨、つまりおしりの部分などに知らぬ間に褥瘡(じょくそう、床ずれ)ができていることがあるようです。

褥瘡まではいかずとも、一般的に販売されている服では、車いす特有ともいえる気になるポイントがいくつか存在します。
例えば、
・車いすを手でこぐ場合、長袖は車輪にあたりこすれて汚れてしまう。
・ずっと座っているので、ズボンの後ろポケットの縫い目や縫製部分食い込んで痛くなる。
・ローライズのズボンだと、だんだんと落ちてくる。
・ポケットの位置が高く、モノが取り出しにくい。
・ズボンは下から履くので、下半身を入れるのには苦労する。
・短いスカートは下着が見えてしまう。
などなど。

これらの問題を解決できる機能的な衣類はあるものの、ほとんどが高齢者向けで、若者受けするようなスタイリッシュなものはあまり存在していません。あったとしても、非常に高額なものが多いです。

ファッションは自己主張の一環。そう考えると、誰にでもおしゃれをする、好きな服を着る権利はあります。

車いす使用者のためのジーンズ

Alter Ur Egoは、このような悩みを解決したうえで、オシャレをするための服を提供しようとするスタートアップです。

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Alter Ur Egoのホームページより

創業者のヘイディ・マッケンジー(Heidi McKenzie)は、17歳の時に交通事故で半身不随となってしまいました。そこから、先ほどご紹介したような悩みに直面しました。その経験から、デザイナーとともにAlter Ur Egoを設立します。

Alter Ur Egoジーンズは、おしりのポケットをなくし、代わりに腿の部分に深いポケットを付けています。また伸縮性がある素材で、ウエスト部分も調整が可能です。ずり落ちてこないようにおしりも深くなっており、カテーテル(管)にも対応しています。

それでいて、若い人が着てもオシャレに見える、というデザインです。

Alter Ur EgoはKickstarterでのキャンペーンを修了し、プレオーダーを受けて付けている段階です。今後うまくいけば、ジーンズ以外にもスニーカーやドレス、ブラウス、シャツなどにも取り組みたいと意気込んでいます。
これらファッションを通じて、障害者が社会の状況に合わせるのではなく、十分に自己表現をし、自分を楽しめる環境を作り出すことが目標だということです。

障害者用の服の難しさ

実は似たような取り組みは、日本でも、世界中でも行われています。しかし共通して言えることは、どれも通常よりも高くなってしまうことです。そしてメディアに取り上げられたとしても、数年後には残念ながら倒産してしまう、なんてこともあるようです。

障害を持つ方にも優しいデザイン

特別なデザインであること、需要が比較的少ないこと、などが理由だと考えられます。障害者に特化した服というカテゴリーはビジネスとして難しいかもしれません。今後のAlter Ur Egoの動向にも注目が集まります。

しかし、障害者が選べる服を拡大し、自己表現を可能にして行けることができるという点で、今回のジーンズはソーシャルプロダクトだといえます。

障害を持つ方にも優しいデザイン