
こんにちは!
6月上旬から7月下旬まで、約2ヶ月間アルファジリでインターンをしていた芳賀です。
私の最後となるこの回では、ケニアの農家が直面している問題という観点から、2ヶ月間のインターンを通じて私が学んだこと、気付いたことをお伝えします。
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1. インターンに応募したきっかけ
私が元々アルファジリでインターンをしたいと思ったきっかけは、大学院の授業でアフリカの農業の生産性や農家の所得が低迷していることを知り、なぜアフリカでは他の地域で実現した「緑の革命」が実現されないのか、アフリカの農業の生産性を引き上げるためにはどのような支援が(例えば日本政府などから)必要なのか、といった疑問を持ったことです。
途上国の農業の土地生産性(穀物単収)
World Bank World Development Indicators: Cereal Yield (kg/ha)
こちらのグラフから、サハラ以南のアフリカだけ伸び悩んでいるのが分かるかと思います。
そこで、関連する論文やレポートなどを読み、自分なりの仮説をいくつか建てた上で、実際にどうなっているのかを自分の目で見て仮説を検証すべく、現地の農業に関わることのできるアルファジリのインターンに応募しました。
これまで、アルファチャマやフィールドオフィサーの業務の標準化に取り組んだ話をご紹介しましたが、実は最初の数週間は現地の農家宅に滞在させてもらい、農作業を手伝いつつ、その地域のフィールドオフィサーと一緒に地域の農家を回って農作業の状況をチェックしたり、アルファチャマのミーティングに参加したりしていました。その後標準化に取り組む中でも、訪問先のスタッフや農家から色々な話を聞けることも多く、そうした機会を使って自分の持っていた疑問に対する答えを探していきました。
2.ケニアの農業の課題
2ヶ月間のインターンを通じて見えてきたのは、ケニアの農家はいくつもの課題に直面しており、しかもそれらは互いに絡み合っているため、農業の生産性が伸び悩んでいるのはこれが原因だ!などと簡単には言い切ることはできない、ということでした。
「優れた種子を導入すればよい」
「肥料の投入量が少ないので、それを増やせばよい」
といったある意味明快な提案を耳にすることもあるのですが、実際に現地で感じたのは、様々な問題が絡み合っていて、そんな簡単な解決策ではうまくいかない、ということです(簡単に解決できる問題であれば既に解決されていて然るべきなので当然なのですが。)。例えば、2ヶ月間という限られた期間だけでも、以下の数多くの課題を目の当たりにしました。
• ほとんど農家が自給自足の農業を行っていること
私が出会った多くの農家は、自分たちが食べる作物を育てるのが中心でした。この点、市場で売れる換金作物を育てて、その販売収入で生活するという先進国の農家のスタイルとは大きく異なっていました。こうした自給自足の農業ではそもそも現金収入が乏しいため、生活水準を引き上げることは困難です。したがって、アルファジリと契約して行っている大豆の生産・販売は、彼らにとって貴重な現金収入源になっているようでした。
• 農家当たりの農地面積が極めて小さいこと
地域によって差がありましたが、大半の農家は所有している農地の面積が極めて小さく(数エーカー)、自分たちが食べる分の作物を植えてしまえば、あとはわずかな農地しか残らないという状況でした。当然、農地面積の小ささは収入の乏しさに直結します。このため、彼らが所得を向上させるためには、どうにかして面積当たりの単収を向上させるか、あるいは面積当たりの収益が高い作物(果物・野菜など)に挑戦するしかないと感じさせられました。しかしながら、以下のとおり、彼らはそうした挑戦を阻むいくつもの壁にも同時に直面していました。
• 農業面で指導・助言をしてくれる機関が不在であること
基本的に、アルファジリ以外で農家が農業面での指導や助言を仰げる機関はほぼいないといっても過言ではありませんでした。日本では公的な行政機関(農業普及指導員など)や農協が各地域で農家を支えているのとは対照的です。したがって、仮に農家が面積当たりの単収を上げたい、あるいは高収益作物に転換したい、と思っても、そのためどうすればよいのか指導・助言を求めることのできる先がなく、高いリスクを負って自分だけでやってみるか、諦めざるを得ないというのが現状のようでした。
• 種子や肥料などの投入物を購入する金銭的な余裕がないこと
単収を向上させるためには改良された種子や肥料を使うことが大事ですが、金銭的な余裕がなく、それが十分にできないという農家が多くいました。ただでさえ収入が少ない中で、子供の教育費や医療費など突発的な支出に迫られ、種子や肥料のためにまとまった金額を捻出することは難しいとのことでした。そうすると、劣化した種子を毎年再利用し続けたり、肥料を十分に使わなかったりして、逆に単収が下がってしまいます。この点、アルファジリが行っている種子や肥料の分割払いでの提供(最初に種子や肥料を受け取り、その後少しずつ代金を支払っていく仕組み)は、まとまった金額を一度に支払わないで済むので大変有り難いようでした。
• 灌漑設備がないこと
これも地域によりますが、私が訪問した地域はほぼ灌漑設備がなく、基本的に作物に必要な水は自然の降雨に頼っていました。そうすると、当然天候に大きく左右されてしまいますし、一定以上の水を安定的に要する作物は育てることが難しいため、作物の選択肢が狭められてしまいます。例えば、ある地域では収益性が高いニンニク栽培に挑戦していたのですが、灌漑設備がなく、安定的に水を供給することができないため(ニンニクは安定的な水が必要)、なかなか栽培がうまくいかずに苦労していました。
• 新しい作物を作っても売り先がないこと
ケニアでは道路網がまだまだ未発達な上、日本のような全国的な流通網もないため、たとえ何とか新しい作物を作れたとしても、売り先がない可能性が高いです。ミゴリで新しい作物を生産しても、それをナイロビなどの都市部まで物理的に運んだ上で、販売先を見つけてくれる組織がないので、そもそも新しい作物を作っても仕方がないのです。この点、アルファジリと契約して新たに大豆生産に挑戦する農家が増えているのは、この物流+販売をアルファジリが全てやってくれるという点も大きいと感じました。
上に挙げたのはあくまで主なもので、ケニアの農家はこのほかにも様々な課題に直面していました(例えば、電気や移動手段などリソース全般が限られていること、機械化が全く進んでおらず、全て手作業なので時間・労力がかかる上、作業中に作物ロスが生じることなど)。
もちろん、ケニアでも他の地域では状況が異なるため、上記の話をケニアやアフリカ全体に一般化することはできませんが、このように数多くの壁に同時に直面しているのが、私が見たアフリカの農家の姿でした。
こうした状況では、例えば良質な種子や肥料を援助として無料で農家に提供したとしても、灌漑設備がないために天候の影響を大きく受けてしまったり、あるいは種子や肥料の適切な使い方を指導・監督する機関がいなかったりして、思ったような成果を上げられないことが容易に想像されます。
それでは、どうすればよいのでしょうか?
こうした数多くの問題を抱えている農家の生産性を高め、所得の向上を実現するために有効なアプローチだと私が感じたのが、まさにアルファジリが行っているサプライチェーン・ビジネスでした。
上の各課題の説明の中でも分かるのですが、アルファジリは上記のほとんどの課題に関し、農家に解決のためのサービスを提供しています。具体的に言えば、大豆という換金作物を選択肢として提供したり、分割払いにより種子・肥料を購入しやすくしたり、栽培面での指導・助言を定期的に与えたり、作物の輸送・販売を一元的に担ったりしています。
ケニアの農家は数多くの問題を抱えており、そのどれか一つだけにアプローチする方法では意味がありません。その点、生産から販売までの一連のサプライチェーンの各段階で、農家に必要なサービスを提供するアルファジリのサプライチェーン・ビジネスは、農家の様々な問題を全体として捉えて包括的にアプローチする、非常に有効なモデルだと感じました。
その一方で、アルファジリだけではどうにもできない問題もあります。例えば、一般的に灌漑設備には大規模な投資が必要なので、政府なり国際機関なりの支援がないと整備は困難です。当然電気や道路などのインフラも同様です。また、より高品質な種子や肥料が安価で手に入りやすくなるよう、開発や普及を行うのもアルファジリだけではできません。こうした分野では、例えば日本政府が援助などを通じて貢献できる余地も大きいと認識しました。
農家に大豆の栽培方法を実地で教えるアルファジリのスタッフ
3.最後に
2ヶ月間という短い期間ですが、アルファジリでのインターンは、仕事の面でも、ケニアの農業を知るという学習の面でも、大変有意義な経験でした。組織も大きくなく、常に新しいことに挑戦しているため、インターン生でもその気になれば取り組めないことはないと思います。
また、自分なりの研究テーマがあれば、インターンの業務をやりつつそれを調査することも可能です。ケニアの農村でのインターンと聞くと、若干尻込みしてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、しっかりとした目的意識さえあれば、とにかく楽しく、充実した一生モノの時間になること間違いなしです!
最後に、インターン期間中にお世話になった多くの皆様に感謝です!
アサンテ!(スワヒリ語でありがとうの意)
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