
バタンとドアが閉じた音を、起きることなくぼんやりと意識して、再び眠りにつく深夜。それは母が家を出た音なのですが、朝起きてリビングに顔を出すと、野菜をトントンと刻んでいるのもまた母でした。
子どもが寂しがらないよう夜中のパートに出ながら、私達姉弟と父のご飯を毎日欠かさず用意してくれた母。
笑顔と同じくらい、疲れ切った姿もよく目にしました。
そんな幼少時代から時は流れて今、産後うつになる女性の増加を考えると、"お母さん"というハードワークに劇的な変化は起きていないようです。
少子高齢社会として、どのように”お母さん”を支えていくのか。
その問題を解決しつつあるのも、またお母さん自身でした。今回は子育て支援ビジネスを旦那さんと起業した女性をご紹介します。
◆株式会社ベアーズ「家事代行サービス」
先日薬院で行われた「女性のための起業カフェ」で登壇されたうちの1人、高橋ゆきさんがご夫婦で起こされた会社は、家事代行サービスの会社でした。
一人目を出産した地、香港ではメイドさんの存在が当たり前で、ゆきさんもフィリピン人のメイドさんを雇っていました。子育ても経験していて、赤ちゃんのサインや子育ての秘訣も教わり、精神的な助けになっていたそう。
ところが、帰国して日本で第二子を出産した時、家政婦は一部の富裕層にしか手の届かないもので、香港と同じようなサービスがなく、とても困ることに。仕事・育児・家事をこなす彼女は余裕がなくなり、うつむくことが増え、やつれ果てていったそうです。
そんな彼女に、旦那さんであり社長の健志さんは、「そういうサービスがないなら、作ろう」と提案しました。それが、ベアーズの始まりだったようです。
今では年間約30万件の利用、4300名の登録スタッフがいるベアーズですが、初めは人脈もコネもなく、チラシのポスティングや近所の公園での語り歩きなどで徐々にサービスを知っていってもらいました。
それでも”家事を人に任せるなんて”という時代。経営は成り立たず、ゆきさんは出稼ぎとして別会社に勤めたこともありました。その後「家事代行ギフトチケット」という新商品や大手企業に向けた法人サービスによって徐々に売上を伸ばしていったそうです。
◆家事代行サービスの意味
ベアーズが提供する家事代行サービスは、ただ家事を終わらせ手間を省くものではなく、家族の幸せにもつながるサービスではないでしょうか。お母さんに心の余裕ができると、笑顔が増える。家庭が明るくなる。子どもにとっても旦那さんにとっても、お母さんが笑顔の明るい家庭が一番嬉しいものではないでしょうか。
最近では1時間ワンコインで子どもを預かってくれるなど、登録者同士安価で助け合えるプラットフォームを提供する会社も出てきています。昔は普通にあった、近所の顔見知り同士での助け合いが、新しい形で蘇りつつあります。
◆周囲の理解も大切
お母さんの大変な状況、それを助けるお母さんによるお母さんのためのサービス。それが適切に広がるかどうかは、周りの配慮も必要です。
「専業主婦なのにどうして自分で家のことをできないの?」「仕事にかまけて、子どもは他人に預けるの?」など、周囲の心ない一言でこうしたサービスを利用できなくなるお母さんもきっといると思います。
子どもの数が減っている中、新しい命を生み出したお母さんを社会全体で支えていきたい。
今後ますます期待される産後女性の社会復帰も、円滑に進むかどうかは社会の理解と助け合いにかかっています。自分も情報発信者として、少しでもそうした風潮を後押しできれば幸いです。